30条 復興作業Ⅱ
セドリックは数名の護衛と案内役を連れ、崖の上に見えた山道の調査へ向かっていた。
同行しているのはヴィオレッタ、村長、そして土地に詳しい猟師の老人だ。
「かなり昔の道だと聞きましたが」
ヴィオレッタが尋ねる。
老人は頷いた。
「二十年以上前までは使われておりました」
「そんなに最近まで?」
「はい。商人たちが近道として利用しておりましたが、大雨で一部が崩れてから誰も通らなくなったのです」
話を聞きながら一行は山道を登っていく。
道幅は狭いが、完全に消えているわけではなかった。
雑草をかき分けながら進むと、かつて人が通っていた痕跡が残っている。
「思ったより状態が良いな」
セドリックが呟く。
「整備すれば十分使えそうです」
ヴィオレッタも周囲を観察する。
やがて一行は尾根へ到着した。
そこから先を見た瞬間、全員の表情が変わった。
「これは……」
道は崖崩れの向こう側へ続いていた。しかも思った以上に平坦であり、荷車は無理でも、人や馬なら通行できそうだった。
セドリックは地図を広げる。
「距離はどうだ?」
ヴィオレッタが計算する。
「街道より少し遠回りになりますが、一日も増えません」
「十分だな」
村長が興奮した様子で言った。
「殿下! これなら物資を運べますぞ!」
「ああ」
セドリックは頷く。
「今日から整備を開始する」
その決断は早かった。
すぐに村へ戻ると作業員を二つの班へ分ける。
一つは崖崩れの撤去。
もう一つは旧山道の復旧。
両方を同時に進めるのだ。
「無理ではありませんか?」
村長が心配そうに尋ねる。
しかし、セドリックは首を横に振った。
「今は時間が惜しい」
「ですが人手が……」
「増やせばいい」
その言葉に村長は目を丸くした。
「増やす?」
「近隣の村にも協力を要請する」
セドリックは即座に書簡を作成した。
近隣の領主や村長へ向けた協力要請だった。
王族としての権限だけではない。必要な食糧支援や今後の優先取引も約束する内容である。
ヴィオレッタはその文章を見て感心した。
「ただ命令するのではなく利益も提示するのですね」
「人は善意だけでは動かない」
セドリックは淡々と言う。
「だが利益だけでも動かない」
「では?」
「希望だ」
セドリックは窓の外を見つめる。
「この地方が復興できると思わせることが必要だ」
ヴィオレッタは小さく微笑んだ。
「殿下らしい答えです」
その日の夕方。
思わぬ知らせが届いた。
近隣の三つの村が協力を申し出たのである。
さらに、翌日には追加の人員が到着するという。
この知らせに村人たちは大いに沸いた。
「本当に来てくれるのか!」
「助かる!」
「これで工事が進むぞ!」
希望は伝播する。
一つの村が動けば、周囲も動く。
それが今のラングレン地方で起き始めていた。
そして数日後、仮設橋が完成した。
川辺には多くの人が集まっている。
最後の板が打ち付けられると歓声が上がった。
「できたぞ!」
「完成だ!」
セドリックは橋の上をゆっくり歩く。
揺れも少なく、十分実用に耐える。
職人たちは誇らしげな表情を浮かべていた。
「よくやってくれた」
セドリックが言うと、皆が嬉しそうに笑った。
さらに翌週、山道も開通した。
馬による輸送が可能になり、周辺地域との行き来が再開される。
最初の荷馬車が到着した時、村人たちは歓声を上げた。
「塩だ!」
「小麦もあるぞ!」
「野菜まで!」
久しぶりに見る大量の物資だった。
子供たちは目を輝かせ、大人たちは安堵の表情を浮かべる。
ヴィオレッタは高台からその様子を見下ろしていた。
炊き出しの煙、往来する荷車、働く人々の笑顔。
数週間前とは別の景色だった。
「順調ですね」
隣に立つセドリックへ声をかける。
「ああ」
だが彼の表情はどこか険しい。
「何か気になりますか?」
「少しな」
「内通者ですか?」
ヴィオレッタの問いにセドリックは頷いた。
「復興が順調に進みすぎている」
「それは良いことでは?」
「普通ならな」
セドリックは遠くの森を見つめた。
「だが、敵が他にもいるなら、そろそろ動く頃だ」




