表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】悪役令嬢に転生したけど前世で弁護士だったので第一皇子を訴えます!  作者: 雪丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/43

28条 ラングレン地方

 内通者がいるかもしれないというヴィオレッタの言葉に、セドリックはすぐに周囲の者たちを下がらせた。

 残ったのは村長と数名の村の有力者だけ。


「詳しく聞かせてくれ」


 低い声でセドリックが言う。

 ヴィオレッタは机に並べられた資料を指差した。


「被害報告書です」


「何かおかしいのか?」


「ええ」


 彼女は一枚の紙を取り出す。


「こちらは王都に提出された報告書」


 続いて別の紙を置く。


「そしてこちらは村で保管していた控えです」


 セドリックは見比べる。

 そして気付いた。


「数字が違う」


「はい」


 穀物倉庫の被害率、橋の損壊数、避難民の人数。

 全てが小さく修正されていた。

 しかし合計すると大きな差になる。


「誰かが意図的に被害を軽く見せている」


 ヴィオレッタが断言する。

 公爵譲りの鋭い観察眼だった。


「利益を得る者は?」


 セドリックの問いに村長が恐る恐る答えた。


「ラングレン地方を管理する代官様です」


「代官?」


「被害が大きいと管理責任を問われますので……」


 セドリックの表情が険しくなる。

 だがヴィオレッタは首を振った。


「代官だけではありません」


「どういう意味だ?」


「代官にそこまでの権限はありません」


 王都へ送る公式報告書。

 それを改竄するには複数の協力者が必要だ。


「少なくとも中央に協力者がいます」


 静かな声だった。

 しかし内容は重い。

 セドリックは腕を組んだ。


「つまり、この課題そのものが仕組まれている可能性があると」


「その可能性は高いでしょう」


「誰のために?」


 ヴィオレッタは答えなかった。

 証拠がないからだ。

 だが二人とも同じ人物を思い浮かべていた。

 グランディール公爵。そして、第一皇子アシュレイだ。




 その夜、ラングレン地方の領主館。

 セドリックは臨時会議を開いていた。

 集められたのは現地の商人たち。


「まず橋を復旧する」


 セドリックが宣言する。


「だが職人が足りません」


 商人の一人が言う。


「王都から呼ぶ」


「費用が膨大になります」


「予算は使うためにある」


 迷いのない言葉だった。

 だがヴィオレッタが口を開く。


「その前に」


「何だ?」


「仮設橋を作りましょう」


 全員が彼女を見る。


「三ヶ月しかありません」


「それでも本格復旧を待っていたら遅すぎます」


「なるほど」


 セドリックが頷いた。


「まず物流を回復させるのか」


「ええ」


 そして地図に印を付ける。


「さらにこちら」


「街道か?」


「川沿いの旧道です」


 古い交易路。

 今はほとんど使われていない。


「補修すれば荷車が通れます」


 商人たちがざわつく。


「確かに可能です」


「費用も安い」


「一週間で使えるようになります」


 次々と声が上がった。

 セドリックは感心する。

 ヴィオレッタは最初から正解へ辿り着いているようだった。


「では決まりだ」


 会議が動き出す。

 その様子を見ながらヴィオレッタは窓の外を見た。

 月明かりの下、領主館の庭に黒い影が見えた。


(……誰?)


 それは一瞬だった。

 影はすぐに消える。

 だがヴィオレッタは見逃さなかった。

 誰かが会議を盗み聞きしていた。




 翌朝、王都にあるグランディール公爵邸。


「ほう」


 グランディール公爵は報告書を読みながら笑った。


「仮設橋とは考えたな」


 目の前には黒装束の男。

 昨夜、ヴィオレッタの前に現れた影だった。


「セドリック殿下は順調に進めております」


「そうか」


「妨害なさいますか?」


 公爵は首を振る。


「まだだ」


 不気味な笑みを浮かべる。


「順調な時ほど人は油断する」


 そして別の書類を手に取った。


「それよりもこちらだ」


 男が目を向ける。

 そこにはある商会の名前が書かれていた。


「王国最大の穀物商会……」


「そうだ」


 グランディール公爵の目が細まる。


「彼らがどちらに協力するかで勝負は決まる」




 一方その頃。

 アシュレイは王都の高級商館を訪れていた。


「金貨五万枚だ」


 商会長の前で言い放つ。


「穀物を全て私に売れ」


 商会長は困惑した。


「ですが殿下、それでは北部の住民が――」


「知ったことか」


 アシュレイは鼻で笑う。


「王になるのは私だ」


 商会長の顔が曇る。

 第一皇子は領民を見ていない。

 勝利しか見ていない。


「お断りいたします」


 商会長は静かに答えた。

 アシュレイの顔色が変わる。


「何だと?」


「商売は信用です」


「私に逆らうのか?」


「王国のためです」


 次の瞬間、激しい音が響いた。

 アシュレイが机を蹴り飛ばしたのだ。


「後悔するぞ!」


 怒鳴り声が商館に響く。

 だが、その様子を偶然、王都へ戻っていたヴィオレッタの護衛が見ていた。

 そしてその報告は数日後、セドリックの元へ届くことになる。

 第一課題は単なる復興競争ではなくなった。

 物流復旧、情報改竄の黒幕、穀物商会の争奪、そしてアシュレイの暴走。

 三ヶ月の試験は、まだ始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ