27条 第一課題
王城の大広間。
国王の招集によって、多くの貴族が集められていた。
第一皇子アシュレイ、第二皇子セドリック、そして両派閥の貴族たち。
ついに最初の課題が発表される日だった。
玉座に座る国王がゆっくりと立ち上がる。
「諸君」
広間が静まり返った。
「本日より、王位継承試験を開始する」
ざわめきが広がる。
貴族たちも真剣な表情で耳を傾けた。
「第一課題は――飢饉対策である」
その瞬間、多くの者が目を見開いた。
アシュレイもセドリックも同様だった。
「北部ラングレン地方で不作が発生している」
国王の言葉に地図が広げられる。
ラングレン地方は北方の農業地帯。
王国有数の穀倉地帯だ。
「放置すれば半年後には深刻な食糧不足に陥る」
ざわめきが大きくなる。
国王は続けた。
「アシュレイはラングレン地方の西側をセドリックは東側を担当せよ。そして、両皇子には同額の予算と同等の権限を与える」
広間がどよめいた。
これは模擬試験などではない。
上手くいかなければ王国が揺らぐほどの問題だ。
「評価対象は四つ」
国王が指を立てる。
「食糧確保、物流管理、領民からの支持、財政への影響」
そして、最後に注意事項を伝える。
「なお、武力による強制徴発は禁止とする」
その一言にアシュレイの眉が僅かに動いた。
ヴィオレッタは見逃さなかった。
(今、嫌そうな顔をしましたね)
隣でセドリックも気付いていた。
「両皇子は本日より行動を開始せよ」
国王が宣言する。
「三ヶ月以内にラングレン地方を立て直せ」
こうして第一課題が始まった。
その日の午後。
セドリックはエーデルシュタイン公爵家を訪れていた。
応接室には公爵、ヴィオレッタ、セドリックの三人。
テーブルには大量の資料が並んでいる。
「まず確認しましょう」
ヴィオレッタが地図を広げた。
「ラングレン地方の問題は何ですか?」
「不作だろう?」
セドリックが答える。
ヴィオレッタは首を振った。
「違います」
「違うのか?」
「不作は結果です」
そして資料を一枚差し出す。
「原因はこちら」
セドリックが目を通す。
そこには驚くべき内容が書かれていた。
「川の氾濫?」
「はい」
ヴィオレッタは頷く。
ラングレン地方には西から東へと流れる巨大な川がある。
それが氾濫を起こしたことが今回の飢饉の原因であった。
「春先の大雨で用水路が壊れています」
さらに別の資料。
「橋も二つ流されています」
「つまり、食糧が足りないだけでなく物流も滞っているわけか」
セドリックが目を見開いた。
公爵は満足そうに頷く。
「なるほど」
「不作という言葉に騙される人は多いでしょう」
ヴィオレッタが言う。
「ですが今回の問題の本質は物流です」
セドリックは苦笑した。
「早速一本取られたな」
「まだ始まったばかりです」
ヴィオレッタは平然としている。
「では殿下」
「何だ」
「まず現地へ行きましょう」
「現地?」
「机の上だけで国は救えません」
その言葉にセドリックは笑った。
「確かに」
一方その頃。
アシュレイは王城で怒鳴っていた。
「何故そんな面倒なことをする必要がある!」
机を叩く。
側近たちは顔を見合わせた。
「殿下、まず現地調査を――」
「不要だ!」
アシュレイは即座に切り捨てた。
「食糧不足なのだろう!」
「はい」
「ならば南部の領地から徴収すればいい!」
「しかし国王陛下は強制徴発を禁じております」
沈黙。
アシュレイの顔が歪む。
「ふざけるな……」
アシュレイには王族なのに命令できないことが理解できなかった。
「では貴族に協力させろ」
「対価はどうされますか?」
「対価?」
側近たちは頭を抱えた。
交渉という発想がなく、命令することしか考えていない。
王族であれば何をしても許されると本気で考えている。
それがアシュレイ最大の欠点だった。
一週間後、ラングレン地方。
現地を視察していたセドリックたちは衝撃の事実を知る。
「橋だけじゃありません」
村長が言った。
「穀物倉庫も半分壊れております」
「何だと?」
セドリックが驚く。
ヴィオレッタは冷静だった。
「なるほど」
「驚かないのか?」
「むしろ納得しました」
彼女は周囲を見渡す。
「この規模の被害で食糧不足だけで済む方がおかしいです」
そして静かに言った。
「殿下」
「何だ」
「この課題、思ったより難しいですよ」
その紅い瞳が細められる。
「誰かが意図的に被害報告を隠しています」
空気が凍った。
「……それは確かなのか?」
「ほぼ間違いなく」
ヴィオレッタは壊れた倉庫を見る。
「そして、その人物は王位継承試験が始まることを知っていた可能性があります」
セドリックの表情が険しくなった。
ただの飢饉対策ではない。
これは――王位継承争いそのものだった。
そして遠く王都では、アシュレイが不敵な笑みを浮かべていた。
「セドリック」
誰にも聞こえない声で呟く。
「せいぜい頑張るがいい」
その背後には――グランディール公爵の姿があった。
第一課題は、すでに裏側で動き始めていた。




