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死刑にされた裏方サポーター、混沌の神に魅入られて不死の怪物となり勇者パーティへ復讐する  作者: 赤腹井守


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005 保身の盾

 盾という道具は、根本的に矛盾している。

 身を守るために持つものだが、大きくて頑丈な盾を持っていると「あいつから狙ってくれ」と敵にアピールしているようなものだからだ。勇者パーティの最年長であり、タンク役を務めるブロムは、その矛盾を圧倒的な筋肉と『絶対防御の盾(ゴッドシールド)』で解決してきた。

 魔王戦で右腕を失ったが、テッドが作ってくれた機械仕掛けの義手が、今は盾を握る代わりになっている。


「くそっ、なんでこんなことになったんだ……!」


 王都の外れにある古びた酒場の個室。ブロムはテーブルに置かれたエールを一気飲みし、頭を抱えていた。

 テッド、アルミア、そしてつい先ほど、タバトの惨死体が墓地で発見された。手口はどれも残虐で、人間の仕業とは思えない。生存者のグレンは完全に発狂し、部屋の隅で「鳴上が来る」と震えているらしい。


「ブロム。私たち、どうすればいいの……」


 向かいの席で、陽刀(ソルブレイド)の使い手であるベティが青ざめた顔で呟いた。彼女もまた、タバトの死を知ってからずっと震えが止まらない。


「落ち着け、ベティ。俺がついてる。どんな化け物だろうと、俺の『絶対防御の盾(ゴッドシールド)』なら防げる。それに、俺のこの義手にはテッドが仕込んだ迎撃用のギミックもあるんだ」


 ブロムは自分の義手を叩いてみせたが、内心は冷や汗でびっしょりだった。


(冗談じゃねえ。なんで俺が、死人の相手なんかしなきゃならねえんだ。グレンの野郎が王女なんかに手を出さなきゃ、こんなことには……!)


 ブロムは保身の塊だ。勇者パーティに入ったのも、名声と金が目当てだった。鳴上をスケープゴートにした時も、「ここでグレンを売るより、恩を売っておいた方が得だ」と計算したからだ。


「ベティ、いいか。明日の朝一番で王都を出るぞ。ほとぼりが冷めるまで、身を隠すんだ」


「でも、グレン様は……」


「あいつはもう駄目だ! 俺たちだけで逃げるんだよ!」


 ブロムが怒鳴った瞬間。


 メシャァッ!

 個室の分厚い木製のドアが、内側に向かって吹き飛んだ。

 砕け散った木片の向こう側、薄暗い廊下に立っていたのは、ボロボロの服を着た血まみれの青年だった。


「逃げるなんて、冷たいですね。パーティの最年長がそんなことでどうするんですか、ブロムさん」


「な、鳴上……!」


 ベティが悲鳴を上げて立ち上がる。

 ブロムは反射的に立ち上がり、左手に『絶対防御の盾(ゴッドシールド)』を構えた。


「生きてたのか、てめえ! いや、アンデッドか何か知らねえが、俺の盾は抜けねえぞ!」


「盾、ですか」


 鳴上は首をコキリと鳴らしながら、ゆっくりと個室に足を踏み入れた。


「サポーター時代、僕がどれだけ重い荷物を背負わされていたか、知ってますか? テント、食料、予備の武器、あなたたちのお土産。全部合わせて、大体百キロはありましたよ」


「だからどうした! 死ねぇっ!」


 ブロムは右手の義手に仕込まれたギミックを起動させた。掌から、鉄を貫く高圧の魔法弾が連射される。

 ダダダダダッ!

 至近距離からの掃射。鳴上の胸や腹に次々と穴が開き、肉片が飛び散る。

 だが、鳴上は歩みを止めない。開いた穴からは黒い泥が溢れ出し、弾丸を押し出しながら一瞬で傷を塞いでいく。


「ヒィッ……!?」


「重いものを運ぶコツ、教えましょうか。重心を下にして、とにかく気合を入れるんです」


 鳴上はブロムの目の前まで歩み寄ると、大盾の上端を両手で掴んだ。


「なっ、何をする気だ……」


「こうやってね」


 鳴上はニコリと笑い、そのまま盾を真下に向かって「押し込んだ」。

 メキッ、という鈍い音が響いた。


「……は?」


 ブロムの理解が追いつかない。魔法の衝撃すら弾き返すミスリル製の大盾が、鳴上のただの腕力によって、上から押し潰されるようにひしゃげ始めたのだ。


 ギリギリギリッ!


「う、うおおおっ!?」


 ブロムは必死で盾を支えようとするが、まるで頭上に巨大な岩盤が落ちてきたかのような圧倒的な質量に、膝が折れそうになる。


「ブロムさん、タンクなんだからもっと踏ん張ってくださいよ。荷物持ちの僕に押し負けてどうするんですか」


「ふ、ふざけるなっ……!」


 ベティが背後から陽刀(ソルブレイド)を抜いて斬りかかろうとしたが、鳴上は盾を押し潰しながら、視線だけをベティに向けた。


「おっと、ベティさんはちょっと待っててくださいね。順番がありますから」


 その視線の異様な圧力に、ベティは金縛りに遭ったように動けなくなってしまった。


「ぐ、がぁぁっ……!」


 ついにブロムの限界がきた。

 バキィッ!

 大盾が真ん中からへし折れ、同時にブロムの左腕の骨が砕け散る。

 鳴上はその隙を逃さず、ブロムの右腕――義手のつけ根を掴んだ。


「テッドの発明品ですね。彼、死ぬ間際までうるさかったですよ」


「や、やめろ……俺は悪くねえ! グレンが全部やったんだ! 俺はただ、巻き込まれただけで……!」


「保身の言い訳は、地獄で聞いてもらってください」


 鳴上は義手ごと、ブロムの右腕を引き千切った。

 鮮血が噴水のように個室の天井を濡らす。


「アギャアアアアアアアッ!」


「うるさいですね。タンクなら、痛みにも耐えなきゃ」


 鳴上は引き千切った金属の義手を、そのままブロムの口の中にねじ込んだ。


「が……ごごっ……!」


 歯が砕け、金属の指が喉の奥に突き刺さる。ブロムは白目を剥き、血だまりの中で痙攣を始めた。


「大きな盾を持ってるからって、その後ろに隠れてるだけじゃ身は守れませんよ。サポーターの基礎知識です」


 鳴上はブロムの頭部を上から踏みつけ、トマトを潰すようにあっさりと粉砕した。

 床に広がる、脳漿と血の混ざった泥濘。

 鳴上はそれを靴底で拭いながら、部屋の隅で腰を抜かしているベティに向き直った。


「さて、お待たせしました、ベティさん。次はあなたの番ですよ」


 血まみれの復讐鬼の笑顔は、ひどく穏やかだった。

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