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死刑にされた裏方サポーター、混沌の神に魅入られて不死の怪物となり勇者パーティへ復讐する  作者: 赤腹井守


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004 儚い影に潜む暗殺者

 暗殺という仕事は、要するに「引き算」だ。

 対象の命という数字を、この世界から一つ引く。余計な感情も、大義名分も必要ない。ただシンプルに数を減らす。最強の暗殺一家ゼルネアの末っ子として育てられたタバトは、幼い頃からそう教え込まれてきた。

 だから、グレンが王女をレイプして殺したと知った時も、タバトの心はさほど動かなかった。ただ、「面倒な足し算が増えたな」と思っただけだ。だが、その足し算を必死で隠そうとするベティの姿を見た時、タバトの計算式は狂ってしまった。

 陽刀(ソルブレイド)を振るう、凛々しく美しい彼女。グレンに叶わぬ恋心を抱き、彼のために汚れ仕事を請け負おうとする彼女の笑顔を守れるなら、タバトは喜んで自分の手を汚そうと思った。結果として、引き算の対象に選ばれたのが、無害なサポーターの鳴上修だったというだけのことだ。


 しかし今、その計算式が根本から崩壊しようとしていた。


「テッドとアルミアが殺された……? そんな馬鹿な」


 王都の路地裏。雨を避けるように軒下に潜んでいたタバトは、情報屋からの報告を聞いて眉をひそめた。

 二人の死体は凄惨の一言だったという。テッドは四肢をもがれて頭を潰され、アルミアは特別室で消し炭になっていた。そして、生存者であるグレンは「死んだはずの鳴上がやった」と喚き散らし、精神病院の独房のような部屋に隔離されているらしい。


(死人が蘇るなど、あり得ない。だが……)


 もしそれが事実なら、あるいは誰かが鳴上の名を騙って復讐を代行しているのだとしたら、次に狙われるのは自分か、ブロムか、あるいは――ベティだ。


「僕が殺るしかない」


 タバトは闇に溶け込むように姿を消した。暗殺者の引き算に、例外はない。対象がアンデッドだろうが復讐鬼だろうが、息の根を止めるだけだ。


 タバトが「それ」を見つけたのは、王都の墓地だった。

 雨の降る中、墓石に腰掛け、呑気に鼻歌を歌っている男。ボロボロの服、異常に白い肌。首筋に走るグロテスクな縫い目。間違いない、鳴上修だ。


(気づかれていない。隙だらけだ)


 タバトは音もなく背後に忍び寄った。ゼルネア一子相伝の歩法『影踏み(シャドウステップ)』。呼吸音すら闇に溶かす完璧なステルス。

 手にしたミスリル製の短剣が、寸分の狂いもなく鳴上の頸動脈を薙ぎ払う――。


 ザシュッ、と。

 見事な手応えと共に、鳴上の首が半分ほど切り裂かれ、鮮血が噴き出した。


「――っし」


「暗殺って、もっと静かにやるものかと思ってました」


「なっ!?」


 首を半分切断されたまま、鳴上はゆっくりと振り返った。

 タバトは信じられないものを見た。噴き出していた血が空中で静止し、黒いタールのような泥に変化して、切り裂かれた肉と血管を瞬時に繋ぎ合わせていくのだ。


「背後から殺気を垂れ流さないでくださいよ。サポーターって、後ろからの気配には敏感なんですから」


「ば、化け物……!」


 タバトは舌打ちし、瞬時に後方に跳躍した。間合いを取り、暗器の投げナイフを三本同時に放つ。両目と心臓。必殺の軌道。


 しかし、鳴上はそれを避けることすらしなかった。

 プスッ、プスッ。

 ナイフが顔面と胸に深々と突き刺さる。だが、鳴上は痛がる素振りすら見せず、顔に刺さったナイフを無造作に引き抜いた。


「痛いなぁ」


「なぜ死なない……! 心臓を貫いたはずだ!」


「心臓? ああ、そんなもの、今の僕にはただの飾りですよ」


 鳴上はナイフを放り捨て、タバトに向かってゆっくりと歩き出した。


「来るなっ!」


 タバトは再び影に溶け込もうとした。しかし、足が動かない。

 見下ろすと、地面の影そのものが黒い泥のように変質し、タバトの両足首をきつく拘束していた。


「な、なんだこれは……魔力、いや、違う。もっと禍々しい……」


「サポーターって、数を数えるのが得意でしてね。実践でも、数値を即座に把握すると次の一手がスムーズに運べるんです」


 鳴上はタバトの目の前まで歩み寄り、その胸ぐらを掴み上げた。


「君のその器用な手。指の骨って、片手に十四本あるんですよね。それを一本ずつ数えながら折っていくと、どうなるか」


「離せっ!」


 タバトは隠し持っていた毒針を鳴上の首筋に突き刺したが、鳴上はニコリと笑うだけだった。


「一、二、三……」


 パキリ。


「ぎゃあっ!」


「四、五、六……ほら、どんどん減っていきますよ」


 パキパキパキッ。

 鳴上は、まるでプチプチと梱包材を潰すような気軽さで、タバトの指の骨を一本残らず粉砕していった。


「や、やめろ! 頼む! 俺は殺してもいい! でもっ! ベティ……ベティには、手を出すな……っ!」


 激痛に顔を歪めながらも、タバトは愛する女の名前を口にした。

 その瞬間、鳴上の目がスッと冷たくなった。


「あぁ、なるほど。君は彼女のために泥を被ったつもりですか。美しい純愛ですね。でもね、タバト君」


 鳴上はタバトの耳元に口を寄せた。


「その純愛のせいで、僕がタルタロスでどんな目に遭ったか、君に想像できますか?」


「あ……」


「毎日、極悪人たちに殴られ、犯され、尊厳を奪われ続けた。君たちのその安っぽいお遊戯のせいでね」


 鳴上は、指を全て砕かれたタバトの両腕を掴んだ。


「だから、君にも教えてあげます。自分の身体のパーツが減っていく恐怖をね」


 メキバキィッ!

 タバトの両腕が、肩の関節から根本ごと引き抜かれた。


「アギャアアアアアアアアアッ!?」


 絶叫が墓地に響き渡る。吹き出す血の雨を浴びながら、鳴上はタバトを地面に投げ捨てた。


「ほら、腕が二本なくなりました。次は足ですかね」


 鳴上の靴底が、のたうち回るタバトの膝関節を無慈悲に踏み砕く。


「……殺せ……さっさと……殺せ……!」


「嫌ですよ。暗殺者って、他人の命は軽く奪うくせに、自分の番になると途端に痛がるんですね。それじゃつまらない。もっと自分の命がゆっくりとゼロに近づいていく感覚を、味わってください」


 それから数分間、墓地には骨が砕ける音と、くぐもった悲鳴だけが響き続けた。

 やがて、タバトはただの肉塊と化し、完全に息絶えた。

 鳴上は血まみれの手を雨で洗いながら、薄暗い空を見上げた。


「さて。あと三人ですね」

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