第19話:黄金の落日
リバタリアの空が、二度目の日の出を迎えたかのように真っ赤に染まった。
「……野郎ども、これが本当の『最後の乾杯』だ。あばよ」
島の深部、火薬庫の真っ只中で、黒髭は無数の導火線に火を放った。彼の体には数十発の弾丸が撃ち込まれていたが、その顔には、かつてないほど清々しい笑みが浮かんでいた。
ズドォォォォォォン!!!
地鳴りとともに島全体が震え、リバタリアを囲んでいたイギリス艦隊の半分が、吹き上がった岩礁と炎の波に飲み込まれた。海賊たちの聖域は、その開拓者とともに、歴史の闇へと自らを葬り去ったのだ。
燃え盛る入り江を脱出する『アン女王の復讐号』の甲板で、スティード・ボネットは崩れゆく島を、ただ黙って見つめていた。
「エドワード……。あなたは最後まで、最高に派手な悪役でしたよ」
ボネットは、肩に羽織った血染めの赤いコートを強く握りしめた。
彼の周囲には、共に戦い抜いた伝説たちが集っていた。
「ボネット、俺たちはここでお別れだ」
ジョン・ラカムが、愛用した更紗の旗をボネットに手渡した。その横では、アン・ボニーが傷ついた腕を拭いながら、水平線の先を見つめている。
「俺たちはカリブの風になる。名前も捨てて、ただの『自由』に戻るのさ」
「……貴殿が掲げた『掟』、確かに見届けた」
バーソロミュー・ロバーツが、血に汚れたバイオリンの弓を収めた。
「秩序なき海に、貴殿という『魂の灯火』が灯った。……さらばだ、紳士海賊」
鄭一嫂の巨大なジャンク船が、霧の中へと舳先を向ける。
「東の海へ戻るわ。ボネット、世界が変わっても、この海の『怒り』を忘れないで」
一隻、また一隻と、ジョリー・ロジャーを掲げた船たちが、それぞれの航路へと散っていく。
それは組織の解体ではなく、一つの「意志」が世界中に拡散していく瞬間だった。
数ヶ月後。
イギリス、ロンドンの裏通り。
キッドが遺し、ボネットが命懸けで守り抜いた「秘密文書」は、匿名の告発状として全ヨーロッパの印刷所にばら撒かれた。
権力者たちの汚職、モーガンの背信、そして海賊たちが真に戦っていたものの正体。
世界は震撼した。海賊という存在を「悪」として切り捨てた文明社会そのものが、その足元にある腐敗に気づかされたのだ。
スティード・ボネットは、剣ではなく「真実」によって、旧世界に致命的な一撃を与えた。
カリブ海の、名もなき無人島。
そこには、一人の男が静かに焚き火を囲んでいた。
使い古された「掟の書」をめくり、自らの航海日誌に最後の数行を書き加える。
17XX年、日は沈んだ。
だが、太陽が沈むのは、また明日昇るためだ。
自由とは、与えられるものではなく、自ら選び取る孤独な航路のことである。
我ら、海賊。この名は、永遠に。
男は、かつて「場違い」だと言われた優雅な手つきで、水平線に沈みゆく太陽に向けてラム酒の瓶を掲げた。
「……乾杯、エドワード」
ここまでお読みいただきありがとうございます!
読者の皆様の応援のおかげで、ここまで書き進めることができています。
もし「続編が気になる!」「応援してるぞ!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、星での評価で応援をいただけないでしょうか。
皆様のポイントが、ランキングを駆け上がる原動力となります!
これからも熱い展開をお届けします!
よろしくお願いします!




