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パイレーツ・コード:黄金の落日  作者: beens
第3章:リバタリアの亡霊たち

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第19話:黄金の落日

 リバタリアの空が、二度目の日の出を迎えたかのように真っ赤に染まった。

 「……野郎ども、これが本当の『最後の乾杯』だ。あばよ」

 島の深部、火薬庫の真っ只中で、黒髭エドワード・ティーチは無数の導火線に火を放った。彼の体には数十発の弾丸が撃ち込まれていたが、その顔には、かつてないほど清々しい笑みが浮かんでいた。

 ズドォォォォォォン!!!

 地鳴りとともに島全体が震え、リバタリアを囲んでいたイギリス艦隊の半分が、吹き上がった岩礁と炎の波に飲み込まれた。海賊たちの聖域は、その開拓者とともに、歴史の闇へと自らを葬り去ったのだ。

 燃え盛る入り江を脱出する『アン女王の復讐号』の甲板で、スティード・ボネットは崩れゆく島を、ただ黙って見つめていた。

「エドワード……。あなたは最後まで、最高に派手な悪役ヴィランでしたよ」

 ボネットは、肩に羽織った血染めの赤いコートを強く握りしめた。

 彼の周囲には、共に戦い抜いた伝説たちが集っていた。

「ボネット、俺たちはここでお別れだ」

 ジョン・ラカムが、愛用した更紗の旗をボネットに手渡した。その横では、アン・ボニーが傷ついた腕を拭いながら、水平線の先を見つめている。

「俺たちはカリブの風になる。名前も捨てて、ただの『自由』に戻るのさ」

「……貴殿が掲げた『コード』、確かに見届けた」

 バーソロミュー・ロバーツが、血に汚れたバイオリンの弓を収めた。

「秩序なき海に、貴殿という『魂の灯火』が灯った。……さらばだ、紳士海賊」

 鄭一嫂チェン・ツーイの巨大なジャンク船が、霧の中へと舳先を向ける。

「東の海へ戻るわ。ボネット、世界が変わっても、この海の『怒り』を忘れないで」

 一隻、また一隻と、ジョリー・ロジャーを掲げた船たちが、それぞれの航路へと散っていく。

 それは組織の解体ではなく、一つの「意志」が世界中に拡散していく瞬間だった。

 数ヶ月後。

 イギリス、ロンドンの裏通り。

 キッドが遺し、ボネットが命懸けで守り抜いた「秘密文書」は、匿名の告発状として全ヨーロッパの印刷所にばら撒かれた。

 権力者たちの汚職、モーガンの背信、そして海賊たちが真に戦っていたものの正体。

 世界は震撼した。海賊という存在を「悪」として切り捨てた文明社会そのものが、その足元にある腐敗に気づかされたのだ。

 スティード・ボネットは、剣ではなく「真実」によって、旧世界に致命的な一撃を与えた。

 カリブ海の、名もなき無人島。

 そこには、一人の男が静かに焚き火を囲んでいた。

 使い古された「掟の書」をめくり、自らの航海日誌に最後の数行を書き加える。


17XX年、日は沈んだ。

だが、太陽が沈むのは、また明日昇るためだ。

自由とは、与えられるものではなく、自ら選び取る孤独な航路のことである。

我ら、海賊ノーバディ。この名は、永遠に。


 男は、かつて「場違い」だと言われた優雅な手つきで、水平線に沈みゆく太陽に向けてラム酒の瓶を掲げた。

「……乾杯、エドワード」

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