第17話:死神の合唱(シンフォニー)――ジョリー・ロジャーの蜂起
水平線が白い煙に覆われた。
モーガンの艦隊が放つ長距離砲撃が、リバタリアの入り江を火の海に変える。近代兵器の圧倒的な破壊力の前に、海賊たちの古いカノン砲は届くことさえ叶わない。
「無駄だ。野蛮人どもに、『近代』の射程は理解できまい」
旗艦の艦橋で、ヘンリー・モーガンは冷酷に微笑んだ。
だが、その火柱の中から、一筋の美しい音が聞こえてきた。
バイオリンの旋律だ。
ロバーツが旗艦の甲板で、戦火を嘲笑うように激しく、そして気高くバイオリンを奏でている。
死の恐怖に震えていた船員たちの鼓動が、その旋律に合わせて一つになっていく。
「ラカム、アン! 敵の二番艦の側面を削れ! 鄭一嫂、ジャンクの火船で敵の視界を奪え!」
ボネットは、マストの頂上に立ち、旗を振って指揮を執った。
彼は教本で学んだイギリス海軍の「ネルソン・タッチ」を、海賊特有の「無秩序な特攻」と融合させた。
各船が、それぞれの誇りを掲げていた旗を下ろしていく。
鄭一嫂の龍の旗も、ラカムの更紗の旗も、ロバーツの規律ある旗も。
そして――。
「……掲げろ!!」
ボネットの叫びが、爆音を突き抜けた。
一斉に、何百もの黒い旗がマストを駆け上がる。
それは、死神が笑う旗、ジョリー・ロジャー。
入り江を埋め尽くす数百隻の船が、バラバラの集団から、一つの「生き物」へと変わった瞬間だった。数千の海賊たちが、それぞれの船で、自分たちが自ら署名した「掟」を唱和する。
「『我ら、自由の名の下に一丸となる』!!」
モーガンの目に、信じがたい光景が映った。
沈むはずの海賊船たちが、死を恐れるどころか、ジョリー・ロジャーの下で歓喜の雄叫びを上げながら、全速力で射程内へと突っ込んでくる。
「あいつら……正気か!? 接舷して戦うつもりか!」
「提督、彼らは戦っているのではありません……『心中』する気です!」
ボネットの乗る『復讐号』が、モーガンの巨大な旗艦の影に滑り込む。
上空からは、火炎瓶を持ったアン・ボニーが飛び降り、甲板でラカムが二挺拳銃を乱射する。
時代が切り替わる境界線で、ボネットはモーガンと目を合わせた。
「モーガン! あなたが捨てた『掟』の重さを、今ここで教えてやる!」
空を焦がす炎、海を震わせる合唱。
史上最大の海賊蜂起。
リバタリアの海は、黄金時代の幕引きを飾る、最も美しく残酷な祝祭の場と化した。
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