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炎の守り手2

ダンジョン内には魔法の照明がそこかしこに設置されており、仄暗い。

「やっぱり」

一本道を数分歩いた所でエクレが地面に触れる。

「設置式の転移陣。人種族の血液で起動できるようになってる。しかも特定の目印を付けた対象だけ転移できるようにしてる」

アンナの目からはよく見えないが、床に魔法陣が刻まれているらしい。目を凝らすとうっすら光っているのが分かる。

「もしかして、ポーションでも治せないぐらいの重傷になったら、落ちた血液に反応して転移させる…てこと?」

「そう。これなら逐一教師が監視する必要もないし、これを複数ヶ所に設置すれば怪我人を漏らさずに、新たな怪我人を増やさずに搬送できる。あと、特定の目印は多分制服のパーツだと思う。この構文が…」

エクレはもっとよく見ようと床に顔を近づけている。その間も懐から徐に取り出したメモ用紙に走り書きし続けている。地図を書くために支給されたものだが、地図を書く前に空白がなくなりそうな勢いだ。

リイシャが思いつきで連れてきた生徒が、よもやのリイシャ以上の変わり者であったことに思わず嘆息する。

「えっと…一応魔物…出るんだよね?警戒しないで大丈夫?」

「警戒……」

エクレはしばし空を見つめている。

「…そうだね。しなきゃ」

(本当に大丈夫かな。いや、それよりも…)

アンナはロングソードを正眼に構える。

(向かってくる気配が…小さいけど徐々に増えてる…うう、相棒がこんな状態じゃな…)

慣れない環境、一度一緒にご飯を食べたとは言え、全く気心の知れないメンバー。

(リイシャちゃんが居れば…自分も焼け焦げるかもしれないけど、応戦は絶対してくれそうだしな。焼け焦げるかもしれないけど…)

ようやく肉眼で目標を捉えた時、後方から呼び止められる。

「武器を仕舞う。下手に刺激しない」

「何言ってるの?このままじゃ囲まれるよ?」

「いいから仕舞…」

ネズミを大きくしたような魔物が、鋭い前歯を剥き出しにしてアンナに飛びかかる。

(目を開けなきゃ…目を開けなきゃ…)

手の平が硬くなるほどに素振りをし続けた日々。筋は悪くないと師匠に褒められたこともある。だが、初めての殺生だ。相手は自分より遥かに小さく弱いはずなのに、躊躇う。

大振りな太刀筋はすぐ見切られ、目標は横に素早く飛び退く。

(速い、暗い、見えづらい。的も小さい…‼)

しかも続々と仲間を呼んでいる。一匹の素早さに翻弄されている内に二人の周りに集まってくる。

「アンちゃん、ちょっと目を閉じてて」

目を凝らさねばならない状況で急に言われたことで、腹が立ちそうになる。

「ちょ…何言って…‼」

「いいから閉じる」

するとエクレは徐に魔法の照明を弄りだした。眩いばかりの光量。魔物たちは一際大きな声を上げながら背を向けて走り去っていく。

視界を埋め尽くす白が消える頃にはネズミたちは一匹残らず消えていた。

「やっぱり負の走光性か…」

「何したの?」

「知識の応用。連戦するとすぐなまくらになるから、ここぞって時だけ剣は抜いて」

エクレは照明を弄ると元の光量まで落とす。

「よく初めて見るものをいじれるね」

「知り合いが魔導具職人だから」

「そうなんだ~…いやいや」

多すぎる知識量、初めての場所でも動じない胆力、咄嗟の判断…どれを取っても同世代の学生にはありえなかった。アンナのような半分落ちこぼれと比較しているわけではなく…。

(リイシャちゃん、一体彼女は何者なの?)

今居ない人物を小一時間ほど問い詰めたい気持ちを押し留め、再び歩き出すエクレの後を追いかけることにした。その小さな背中をやけに大きく感じながら―。

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