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異邦人と追憶6

建屋の中は埃もなく、旧式の魔導コンロはいつでも使えるように整備され、何人も泊まれそうな寝室のベッドも、その全てにシーツがピンと張られている。

「人間キレイ好き。ゴブリンもキレイ好き」

感嘆しているのが分かったのか、ゴブリンが声をかける。どことなく誇らしそうにしている。

「すごい。あなたが1人で?」

「今日の当番。見張りも兼ねてる」

「人間もたまに来るの?」

「最近来ない。寂しい」

ゴブリンは本来であれば人間に狩られる存在。どんなに手入れしても使われないというのは悲しい、ということと捉えておく。

「茶できた。飲め。干した実もある」

(山姥みたいに豹変したりしないよね…。まあ、いっか。どうせ帰れないし、能力がバレて戦地に突っ込まれるのも嫌だし、この前まで死にかけてたし。もう来世に期待するしかないね)

表面上ニコニコしながらも諦めの極地に達したカナデは素直にゴブリンについていく。

ベッドもそうだったが、食卓に整然と並ぶティーセットも手入れが行き届いている。念のため口に入れるものを全て【構造理解】で解析したが、普通に飲食可としか出なかった。

(普通においしい。こっちはレーズンみたいだし、こっちはミントティーっぽい。はあ、天国かな)

「うまいか?よかった」

表情は分かりづらいがゴブリンも嬉しそうにお茶を飲んでる。

「ところで、何か話したいことがあったんじゃないの?ここまで連れてきたってことは」

「忘れてた。交渉ゴブリン、今居ない。後でにしよう、思ってた」

話を聞くと、フィーネ王国の侵略戦争が本格化する以前は冒険者が数ヶ月に一度は来ており、その度に話しかけてはみたものの、討伐されかけるばかりで何も収穫がなかったらしい。ここ数年はぱったりと人も来なくなった、とのことだった。

(戦争云々以前、ゴブリンの巣窟って知ったら来なくなるわよね)

「我々の言葉わかる人間、おばあと、おばあのトモダチと、王だけ。姫は別」

「人間が王様だったの?」

「多分、人間の言う【人間】ない。ユキおばあと同じ。なんて言う?」

「亜人種…だったかな?」

「そう、きっと、それ」

得心がいったように頷くゴブリン。

「我々、王様探してる。心優しく賢い王。でも、王様のこと、覚えてるゴブリン少ない。一番仲良しだった3人、王様忘れた。悲しい」

「仲良しだったのに?忘れたの?」

「人間、ここ見ろ」

そう言うと食堂の一角、一箇所だけ古い血痕を残した箇所がある。

「ゴブリンたち、これ残した。あの夜、ここに居たゴブリン、みんな忘れた。作戦聞いた仲間、忘れたくない。だから残した」

「作戦って何?聞いて大丈夫?」

口の端を歪めるゴブリン。笑っているようだ。

「オマエ、ユキおばあやゼンじいと同じ祈り方。きっといいヤツ。でも無理するな。オマエ魔力少ない。チカラ、ない」

「魔力も筋力もないけど、一応エルフ仕込みの魔石と魔法陣の知識はあるからね。少しは役に立つかもよ?」

(どうせ今生は捨てた身よ。いっそパッと花咲かせたいじゃんよ。というか、さっき掴まれた一瞬でそこまで見抜くとか、このゴブリンも大概だわね)

ゴブリンは決心を決めたように、ゆっくり、思い出しながら話し始める。

ゴブリンに【姫】と呼ばれる女の子のこと。その娘がどこぞの半裸に拉致されそうになり、奪還作戦を【王】と共に企てたこと。【王】が作戦中に消失したこと。作戦に参加していた者は【姫】や【ユキおばあ】、【ゼンじい】含め、【王】の記憶がまるでなくなっていたこと…。

(…断片的すぎて何も分からない。半裸って何なの。ただ何となくだけど、ゴブリンに似ていて、ユキさんの知合いってなると…)

ふと、緑色の肌をした少女と、一緒に行動していた銀髪痩躯の中年男性を思い浮かべた。

「もしかして、姫ってエクレちゃんのこと?王様は銀髪だった?」

目を見開き、顔を強張らせるゴブリン。

「【王】覚えてる人間…‼大変だ、皆を呼ばなければ…‼」

「ちょおおおっと待ったアアア‼」

扉が開け放たれる。覆面のように布で顔半分をぐるぐる巻にしたグリムだ。

「カナデさん!ここはゴブリンの巣窟です!仲間を呼ぶ気だ、早く逃げ…‼」

「逃げません」

「は?」

冷静な声に拍子抜けするグリム。

「ギルドマスター、私は彼らの話を聞きたい。できればオブザーバーとして、一緒に聞いていただけませんか?」

「オブ…へ…?」

ことりともう一つティーセットが用意される。ゴブリンは瞬時に新しい来訪者をカナデの仲間として歓待すると決めたらしい。

「ま、茶でも飲め」

「ありがとう、ゴブリンさん。私はカナデ。見ての通り非力な一般人よ。こちらは王都の職人ギルドのマスター、グリムさん。さっきの話、詳しく聞かせてちょうだい」

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