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異邦人と追憶5

鬱蒼とした、陽光もろくに差さない深い森。

その中にあってポツンと佇む石造りの建物。周囲はかつて開墾されたと見られ、若干視界が開けている。

日本でもよくある教会のような尖った屋根に何かの宗教的なシンボル、煙突がある。苔むしている部分もあれば比較的新しい部分も混在している。

「どうです?日記にあった建物と変わりないですか?」

「微妙に改築されてますけど、多分ここですね」

カナデが事故により日記に閉じ込められた際、スキルによりその場所の座標が記録され、転移陣に転記可能になっていた。もうそれだけで研究材料としては十分にも関わらず、グリムは「まだリハビリ途中なんですから、誰かが支えてあげないと」という大義名分の下、カナデが作った転移陣を勝手に起動して勝手にカナデを連れ回したのである。

(暇なのかな、職人ギルドって)

少なくともレイザンでは他のギルドよりかなり閑散としていたし、ギルドマスターも自らの工房に引きこもりがちで有事の時だけ出張るといった具合だった。

元々畑があり、かの虫が生息していたであろう場所は、すっかり雑草の天国になっていた。こぼれ種から樹木も生えている。

「いやあ、見てるだけでマイナスイオンが漲ってきますね」

などと意味が微妙に通じない言葉を発しているグリムを尻目に、カナデは建物の中を窓から覗く。埃は積もっておらず頻繁に手入れされているようであったが人の気配は見られない。

正確には【人以外】の気配しかない。

情報系上位スキルの所持の恩恵か、建物の内部構造からそこに住まう生物の大まかな数や大きさが手に取るように分かる。

(島にいた時より精度が上がってる。というか、練度が段違いに上がってる?もしかしてグリムさん、オーバーワークによる能力の向上を図った…?)

当の本人は大きなくしゃみを連発している。

「あれ?なんか鼻が…べっくしょんっ!おかしいなあ…へっ、へっ、ぶしっ‼」

バリエーション豊かで豪快なくしゃみに思考が遮られる。

「こ…これは駄目だ…一旦私は王都に…に…ニェッきシっ‼ごめんね〜、ちょっと対処法考えてからまたも…も…モップしッ‼」

「もしかして…花粉症?」

「ズビッ…なんです?カフンショウって」

「ああ…免疫の過剰反応って言ったら…分かります?」

「メンエキ?…ぷ…ぷ…プニェックッシっ‼」

「とりあえず回復魔法か、顔の周りをバリアか何かで覆うとかしないと…」

「そ…そうなんだ…今度詳しくご教示たまわりた…た…プチュンっ‼」

フラフラしながら転移陣で消えていくグリムの後ろ姿を見送って一息つく。

(回復魔法で大体どうにかなっちゃうから、医学が発展しないんだろな。何の花粉か分かんないけど、私も気をつけないと)

ポケットからボロ布を取り出すと口鼻を覆うように巻き付ける。


建屋の周囲を順繰りに回っていく。洗濯物が沢山吊るせそうな物干し台には蔦が絡んでいる。レンガで区切られていた花壇には、多年草なのかこぼれ種なのか判別できない花が雑草の中で咲き誇っている。

少し裏手に行くと、小さな墓石。手入れが行き届いており、野の花が手向けられている。

消えかけた墓標には、

『氷雪の魔女にして皆の母 ここに眠るー』

(没年は…9年前…私が今の時代に飛ばされてから、わりとすぐだったのね)

襲撃の夜に見た溌剌とした老人。そして誰かの記憶のなかに居た、冷たく優しい手。

思わず手を合わせた。彼女が何の宗教の信徒だったかは知らない。知らないからこそ、カナデは、カナデが昔から慣れ親しんでいる方法で悼むことにした。

「祈リ方、独特。同ジ、オバアト」

後ろに気配が近づく。建屋に近付いた際に感じた、人外のそれだった。

(‼…ゴブリン‼?本当に居るんだ)

イヤーカフ型の翻訳機をそれとなく弄る。遊びで取り入れた人外用の翻訳魔方陣を起動させると、ごっそり魔力を抜かれる感覚。

「オデ、人間の言葉、チョット分かる。安心、安心」

ごっそり抜かれたところで言葉の明瞭さは大差がなく、改めて自らの魔力量の少なさを痛感する。

「祈り方同じトモダチ、最近あまり来ない。おばあ、かわいそ」

「もしかして、ここはユキさんのお墓で合ってる?」

「そう‼ユキ‼みんなのおばあ‼」

表情の変化も分かりづらい緑色の顔。瞳をキラキラとさせている。

「昔、一度だけ助けてもらったの。一度だけだけど」

「オデもイッショ、1回‼来い。茶、飲め。」

細い手足からは想像もつかない力強さで、家の中へと連れて行かれる。

(友好的だし、食べられるってことはない……と思おう。…うん)

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