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魔獣が主人を選ぶ時  作者: 猫淵光
出会い
3/11

神話の絵本


 母親が1日家にいる時は、母親と共に時間を過ごす。



「ユーリアおいで。今日はこの本を読んであげましょうね。」



 母親が一冊の本を手にし、幼女を膝に乗せる。


 この国に伝わる神話の話だった。





 古代アラルーシア大陸には混沌の時代があった。


 人々が争い合い、魔獣達が殺し合い、殺戮が殺戮を呼ぶそんな時代が。


 人や魔獣を唆し、無益な争いを生む邪神が、世界を暗躍していった。



 そんな中、立ち上がったのは10人の人間と、5匹の魔獣とその眷属達であった。


 邪神に立ち向かう勇者達は、謀に阻まれ、邪神の肉体を滅ぼした時に残ったモノは、8人の人間と5匹の魔獣だった。


 残った者のうち5人は大陸を五等分に分け、それぞれが治める領地とし、平和な世となった。


 魔獣は北の大地をゲンブ、西の大地をビャッコ、南の大地をスザク、東の大地をセイリュウ、中央にキリンが守護につき、人の統制は残された勇者の血族が治めた。



 オブラートに包んであったが要約すれば、こういう話であった。


 そして、本を読んだ母親は言葉を続けた。



「ユーリアいい。この本は本当にあったお話なのよ。この魔獣は神獣と崇められているの。

魔法使いのうち5人は王様になって、その子供たちが今もこの大陸を守っているのよ。」


「お母様。じゃあ悪い魔獣もどこかに封印されているの?」


「封印というよりも、存在を消しきれなかったというべきかしら、もうこの世界には彼の体は存在しないわ。だけれども魔石は封印してあるの。力が強すぎて壊すことができなかったのよ。」



 3歳の娘に何を伝えるか迷いながらも、母親は答える。


「んー。魔石?」



「あ、そうね。ユーリアは魔石を知らなかったわね。魔獣が死ぬと、体から魔力の核となる魔石が取れるのよ。」



 母親は手首につけている装飾品を見せている。



「これは赤い魔石。主に赤い色をした魔獣が持っているものよ。」



 ルビーのような綺麗な石であった。



「ここから力を借りて、火を出したり出来るのよ。」



 幼女はうむうむと頷くと、顔をパッとさせて母に尋ねた。


「ねえ、もしかして魔法使いも本当にいるの?

 魔法もあるの?」



 母親は「ええ、そうね。」というと、指先から少し火を出した。


 幼女はすごいと喜び、興奮して母の膝から降り、猫を抱き上げる。



「ねえねえ、この猫ちゃんも魔獣なの?」


「ええ、その猫ちゃんも魔獣よ。」



 母は猫をみてクスクスと笑う。

 幼女にとって今日はとっても収穫がある日だった。






『クラウディア。神話なんてチビに話すのは早いだろ?』


「あら、そうかしら?あの子はもういろいろな事を理解し始めているわ。」


『まだ赤子と同じじゃないか。いろいろな所に歩き回って、ついて歩くこっちの身にもなれよ。』


「そうね。活発な子のようね。」



母親はクスクスと笑う。小さな幼女の後から、虎がこっそりとついて歩く姿を想像していだからだ。


それを感じ取ったのか、虎は機嫌を悪くする。



『護衛しろっていうからしているのに、なんなんだよ。』


「そう拗ねないで、ビャッコ。私はね、小さい頃から魔獣が怖くないって事を教えたいのよ。」


『魔獣は人間にとって脅威だろ?それと仲良くさせてどうしようっていうんだよ。』



母親は笑うのを止め、真面目な顔つきになる。



『あの子は半獣なのよ。魔獣の姿を象る事ができなくても、人間より多くの力を持つ。

私はその力を生かして、人と魔獣の間に立ってくれる子になって欲しい。』



母親の真剣な眼差しに虎は息を呑んだ。長い付き合いだが、こんな表情は初めて見たからだ。



『ゲンブやお前みたいにか…。スザク。』


「あら。久しぶりにそちらの名前で呼んでくれたのね…。でも今はクラウディアだから、その名では呼ばないでね。」



笑顔で圧力をかけられ、虎は身を縮めた。

幼女の母親に勝った事など一度もないからだ。



『分かった。』


「うふ、あの子が危ない事をしないように、ちゃんと見張ってて頂戴ね。猫さん。」


『その名で呼ぶなよ!俺だって好きで猫型でいるんじゃねえ。』


「でも、猫さんって撫でられてる時は、満更でもないじゃない。」


『うるさいな。そんな事はない。」



虎の意識が変わりつつある事を、幼女の母親は微笑ましく思っているのであった。

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