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10話 異世界転移によるチート事情

 一連の戦闘を終え、辺りには静寂が戻っていた。

 雅の目から見たエルフィリアの戦闘能力は一流、退魔執行官の等級(ランク)で言えば最低でもA級。

 退魔執行官全体で見てもかなりの上位に位置すると称しても問題無いと思ったのだが、その実エルフィリア自身が自分の能力の高さに驚いていた。


 元の世界に居た頃、エルフィリアは身体の弱い少女だった。

生まれた時からその身に宿していた膨大な聖力と魔力に対し肉体という器が受け止めきれない為に起きた弊害。

 近接戦闘は暗殺を防ぐのに護身程度に嗜んではいたものの一撃二撃を凌ぐので精一杯な実力であったし、体力も無かった。

それの加え宿す聖力と魔力の高さに反しその立場ゆえ実戦経験も殆ど無かった。

 聖力や魔力の量は以前と変わらないが、実戦における立ち回りや術の選択、行使、咄嗟の判断力、全て元の世界に居た頃のエルフィリアには無かったものだ。

 それに加え、思い描いた通りに動かせる身体と体力により術の反動や息切れを気にしなくてもよくなり、より洗練された動きが出来るようになっていた。


「予想以上ね。戦闘能力そのものもだけれど、資質というよりこれは体質かな」


祭壇の再封印を施しながら労いの言葉と共に雅はエルフィリアに総評を告げる。


「……終わり、ですか?」

「えぇ、本当ならもう少し強力な妖が出てくるまで続けようかと思ったのだけど、この程度の門だと瘴気の増加速度より浄化速度の方が早いからこれ以上は意味が無さそうだもの。貴女、瘴気を浄化する体質みたいね」


 それも結構強力な、と続ける。

 浄化能力持ちは此方の世界においても珍しい体質であるが、それなりの数は存在している。

 有名な所では各宗教宗派において聖人認定された聖者や聖女達だろう。

 聖人としての格は浄化能力の等級によって決まるとされている。

 雅は仕事上高位の聖人との知己を得ている為、浄化体質についてもある程度の知識は持っていた。

 その上でエルフィリアの資質を分析すれば、彼女の資質は最高位の聖人に匹敵するかはたまたそれを上回ると感じられていた。

 先ほど見せた戦闘技能だけでもA級相当、総合的な能力を鑑みればS級は確実だろう。


「一先ず戦闘技能に関しては問題無いわね、後は知識を詰め込めば資格の取得に至れると思うわ」

「そうですか。ありがとうございます」

「それじゃ、続きは家でするとして……何か腑に落ちないって顔をしているけど、どうかした?」

「えっ?……あ、と、その……」


 言おうかどうか迷っていたようだったが観念したのか、エルフィリアは転移前の自分と今の自分の能力の違いについて話し始めた。


「……つまり、元々の能力と比べて高いスペックを持っている、という事ね」

「そうなります」

「ん~……これはあれかな?異世界転移系でよくあるチート能力付与?」

「チート?それは何でしょうか?」


 ラノベあるあるに照らし合わせれば、異世界に転移した際に強力な能力やスキルといったチート能力持ちになるというのは良くあるテンプレの一つである。

 今回は異世界へ転移では無く、異世界からの転移なので多少の差異はあるが可能性としては有りなのかもしれない。


「此方の世界の話なのだけれど、異世界に転移した際に強大な力を得るというのはそれなりには有る展開なのよ。そして、その強大な力の事をチート能力というのよ」

「私も異世界へ転移したという事でその能力を手に入れた、という事なのでしょうか?」

「それが正解なのかはわからないけれど、可能性の一つとしては有りなのかなって思うわ」


 ただ、と続ける。


「言ったでしょ、可能性の一つだって。参考までに覚えておく程度でいいわ」


 そう言い、封印の仕上げに取り掛かる。


「それじゃ、私はここの封印を仕上げてから行くから、榛香とエルフィリアさんは先に戻って飲み物の用意でもしていて頂戴」

「はい、分かりました姉さん」


 そう返事をすると榛香も焔魂を召喚し灯りを確保する。


「それでは先に戻っていますね姉さん。お疲れさまフィリア、行こっか」

「えぇ。それでは恐縮ですが先に戻らせて頂きます雅様」


 榛香は軽く手を振って、エルフィリアは優雅にお辞儀をして去っていく。

 ……一人残った雅は厳重に祭壇の再封印を施し、思索に耽っていた。

 エルフィリアの動き、能力に対する違和感?既視感?


(……可能性の一つ、ね。もしかして、とは思うのだけれど、この可能性も確認しておくべきよね……)


 洞窟から出ると、徐にスマホを取り出しとある場所へ連絡を入れる。


「えぇ、そう……ちょっと調べて欲しくて……お願いできないかな?」

「……………」

「うん、ありがとう。それと………」

「……………」


 ピッ…


「ふぅ、とりあえずはこれでいいかな」


 懸念事項はあるが意識を変えるように努めて明るく声を出す。


「講義は昼食の後かな?」


南天に昇り切りつつある太陽を見上げ雅は家路へと足を急がせた。

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