第八話 一ノ瀬 紫苑
玄之介は、清雅が戻らないため警察所に様子を見に来ただけだった。
「藤乃も心配していましたが、辻斬りの一件が片付くまでは、宿舎にいた方が良さそうですね」
そう言うと、清雅の私物を手渡した。
「これ、何ですか?」
包みに覚えがなく、その場で開けようとすると、珍しく玄之介が慌てた様子で手を止める。
「誰もいないところで開けてください」
真顔で頷くと、玄之介は去っていった。
警察所の廊下を渡り、部屋へ戻る途中、前から小柄な男が歩いてきたため、清雅は道を譲った。
「へえ。気が利いてるね。君が清雅くんでしょ?」
話しかけられ顔を上げると、目の前に興味深そうにこちらを見あげる青年の顔。
年の頃は二十くらいだろうか……。
前髪を切りそろえ、にっこり微笑むその姿は
―― 『癒し』。
(俺より背の低いお侍さんがいたんだな。おなごのように細くて白い)
「で?今日も見たの?」
さらに話しかけてきた。 ―― 声もかわいい。
「え……。死体ですか?」
やたらと距離が近いため、顔をあからめたまま清雅は一歩退いた。
「違うよ。知ってるくせに」
「相良さんですか?」
「そんなの毎日見てる」
言うと、にっこり眼から一転、鋭く切り裂くような視線に変わった。
空気も冷たくなる。
―― 「あやかしだよ」
低い声で言った。
「……」
視線にビビったのか、声に驚いたのか、「妖が見える」と言う言葉に動揺したのか、もはや、わからなくなった清雅は、そのまま逃げようとした。
「ごめんごめん!」
その襟元を、恐ろしい力で掴み引き戻す。
「相良さんから聞いたんだよ」
「あの人、誰にでも喋る、口が軽い人なんですか?」
腹ただしさのあまり、大声で上司をディスった。
「誰にでも……ってわけじゃないけど、隊長クラスには共有しているみたいだよ」
そう言うと小首をかしげ
「挨拶がまだだったね。
僕は第二隊隊長 一ノ瀬 紫苑。よろしくね」
手を出してきた。
「…… 握手?」
(まさか)
『清雅!それは絶対試されとるぞ!』
清雅は背中に汗が伝うのを感じた。
(まんが本に載ってるキャラクターが、挨拶でやっている"アレ"だ)
「どうしたの?」
一ノ瀬がおなごのような小さな口で、不思議そうに呟く。
「知らないの?」
(知ってる!!)
その時、一ノ瀬の警察着からうっすら濃い色の何かが見えた。
(ま、まさか!!!!)
一ノ瀬の顔を見る。
濃い色の何かを見る。
一ノ瀬の顔を見る。
濃い色の……
「キャラT……ですか?」
一ノ瀬の口元がきゅっと結ばれた。
にっこりした目がうっすら開く。
「……」
まばたき。
「……え?」
『清雅!お前と言うやつは!!』
「ふふふ」
「うんうん」
「そうだよ」
一ノ瀬は満面の笑みを浮かべた。
「同じ趣味を持つもの同士、仲良くやろうね」
そう言うと、さきほど玄之介から手渡された包みを指差した。
包みの結び目がはずれかかっており、中から愛読書のまんが本がうっすら見えていた。
(あ””””””””””””””””!!!!!!)
『あ””””””””””””””””!!!!!! オエー』




