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第七話 死体

(相良さん、フォローしてくれるとか言っておきながら、これっスよ)


清雅(きよまさ)は腰に下げた九曜(くよう)を指でさわりながら、頭の中で愚痴をこぼした。




『や、やめてくれ。そうやってそこを、さわるな。さ、さわんな!!!』







橋の下、河原の上で、横たわった女性の上に筵むしろがかけられている。




そのそばに、清雅、高岡、青木の三人は立っていた。






相良隊長にクビ宣告を受けたその日の午後、警察所は辻斬りの報告で大荒れとなっていた。




相良はすぐに、清雅と高岡と青木を現地へ送り込み、現場を三人が指揮することになったのだ。





「今朝、あがった仏さんです」







「近衛くん、死体みるの初めてでしょ?大丈夫?」


高岡が、さして心配もしてない口調で隣に立つ。




「見るふりでいいよ。最初はみんな怖いだろうから、まだ見るふりでいいよー」


優しい言葉をかけてくれるのは、約5尺6寸(1.7メートル)の大きな男、青木 春成(はるしげ)さん。




ふっくらほっぺが可愛くて、目が細く優しげに笑っている。






女性の上からかけられた筵むしろを、同心(どうしん)(下級役人)がパッとはらった。




そこには、無惨にも鋭い刀で切られた赤い小袖をまとった女の死体が。


青白い顔に、唇だけが妙に赤い。


血で塗られたように。





「死んでる……」





言って、清雅はその場で豪快に吐いた。





「ちょ……。本当に近衛くん、やっていけるのー?」


高岡が冷たい目を送る。








「これで四件目です。見回りもたててるのに、それをかいくぐるようにやられる」


同心の徳平は夜な夜なの見張りで、目の下にクマができている。





「相良さんが僕らを担当にしたからには、僕らで夜の見回りをするしかないですね。春成(はるしげ)さん」




「そうだな、でも清雅くんには、まだ早いような気もするけど」




「はいそうですね」


すかさず同意する清雅くん。





「僕と徳平さん、春成さんと清雅くんで分かれて見回りするのはどうでしょう?」


高岡は腰の刀の位置を確認した。





「昨日斬ったのに、今日も出ますかね?」


徳平はうんざりしている。





「流石に、今日は出ないか……」





―― デルヨー





清雅は川の方を見た。





川の中に、魚の頭を被った赤ん坊がこちらを見ていた。





『清雅、聞こえてるか?』




(ああ。でも……)




(妖が言ってるなんて言えんよ)




清雅は今まで、家族にさえ、妖の存在を話したことがない。




『だが、言わないとまた誰かが斬られるぞ』






ため息をつく。





「高岡さん……」




「なに?」




「……」




「なに!?」




「あ、あ……」




「あ??」




「いえ。なんでもありません」




『へたれが!!!!!』




「言いたいことはハッキリ言ってくれよ!イライラする」




清雅は頭の後ろを掻いた。




(この人、嫌な人やなー)





ふうぅーっと息を吐き(でも、相良さんが、この人の前で、妖の話もしたんだし、言っても大丈夫か)と、自分に言い聞かせた。





「今夜も出るって、そこにいる赤ん坊の妖が言ってます」





「は?」




「赤ん坊?」




「お前、吐きすぎて頭おかしくなったか?」





わざと大きい声を出す高岡に「なんでもないです」と両手で制した清雅は、心の中を土足で踏み入られた気分になった。





『すまんかったな』


(いいよ)





小石を思い切りけったら、妖の赤ん坊に当たってしまった。





いったん、警察所に戻って、見回りの報告と準備をすることになった。







―― 警察署の門の前。




がっしりした体つきの男が立ってこちらを見ている。




「玄之介!」




清雅は走り、思わず玄之介の懐に抱きついた。




「どうしたんですか?清雅様……」


「なんでもないよ。久々だったから」




顔をあげず懐に入り込んだ清雅を、玄之介は静かに目を細めて見ていた。



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