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第五話 宿舎にあらわれた女

ゴゴゴゴゴ。


グォーオオ!!




清雅は両耳を手で押さえ、さらに布団にくるまる。


そしてダンゴムシよろしく、ゴロゴロ転がった。




「ダメだ。耳がちぎれる。外で寝て良いか?」


『アホな』


刀掛けに置かれた九曜が呆れる。





十数人以上のむさ苦しい男たちが、狭い部屋に布団を敷き詰め眠っている。





(ダメだ。ストレスが限界を達した。これはもう、あれしかない)




布団から手だけ出し、そばにある小袖から、ゲーム機を探す。




(このような時のために、忍ばせておいたのだ)


これだけうるさいのだ。


気づくまい。





もはや、いびきで冷静な判断ができない。





『やめろやめろ!見つかったら死ぬぞ』






隣に寝ている高岡さんの足が、清雅の腹を蹴り上げた。




(わざとか?実はこの人たち、起きてるのか?)





心が一気に折れた。






『とりあえず、ゲーム機だけはやめてくれぃ。せめて漫画にしとけ』





九曜がなだめる。





(そうか、(かわや)へ行こう。あそこなら、こもれる)


『おまえはホントに……ダメ息子だと、お前の父親に言うてやりたいわ』







清雅はゲーム機を持つと、そのまま障子を静かに開け、部屋を出て行った。







―― 廊下に出ると、月が青く光っている。


先程の部屋とは違い、静まり返った空間に、虫の声がこだまする。






明るい夜だった。






トトト。






廊下の端から音がする。






(足音?)






女のものだ。






目を凝らして、暗がり、廊下の端の方をみる。


月の光が届かないそこは、完全に暗やみとなっているが、足元だけが確かに見える。





「誰かいるのか?」





返事はない。





清雅は、今度は目ではなく、意識を尖らせる。





(人ではない)





ゲーム機を袖にしまい、一歩歩み寄った。






むこうは一歩下がる。





『ここ』





女の声。





『ここにいる』





「何が?」





ここ。





今度は頭に響く。





ああ悲しき。


ああさみしき。





そして、寒い。







風が吹いた。





清雅は思わず目を閉じた。





目を開けると、





足元に、紫陽花が落ちていた。





清雅は目を細め月を見た。






―― ああ。


   母さま。




今日も来られましたか。





この清雅に、


またそのようにご無理を言われるのですね。






目を伏せ、微かに息を吸う。







清雅は障子を開け、部屋に戻った。





そのまま、布団を頭から被ると、体をまるめて声を殺して泣き始める。





九曜は何も言わず、スッと気配を消した。





隣の高岡さんだけが


「うるさいよ。うるさいよー」


と、清雅を布団ごと臭い足で蹴り続けた。

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