第五十一話 血を吸うもの
高岡は刀を振り回しながら妖を討ちつつ、清雅を見ていた。
先程から清雅は、妖と何やら会話をしながら、妖の攻撃を避けている。
一瞬、妖の動きが止まった。
老女の目から涙があふれ、あっという間にその姿は美しい女となった。
そして「ありがとう」と呟き、その場から消え去ったのだ。
(妖が消えた)
高岡は目を白黒させた。
(なるほど。妖にも、話せばわかる奴がいるのか)
高岡は、目の前に現れた焼け爛れた男の妖を見る。
刀を下げる。
「話そうか」
ねばついた血液のようなものが、顔面めがけて飛んできた。
「うわぁっ!」
高岡は慌てて飛び退く。
「近衛!お前、どうやって刀を使わず妖を倒せるんだ?」
「高岡さん、俺の真似をしようとしてます?」
清雅は足元の小さな妖を追いやりながら、高岡の近くに歩み寄る。
「今、"話そうか"って、言うてましたよね?」
「言ってないわ!」
高岡は耳まで赤くなった。
第一隊、第二隊の隊士たちは苦戦をしいられていた。
次から次へと地面から這い出る化け物どもに、腕を噛まれたものもいる。
鋭い爪が肩を切り裂く。
「二人ひと組になれ」
鬼頭が隊士の周りに集まる妖を斬りふせた。
黒崎は印を結び、式を複数呼び出した。
大手町でも出した狐の式に、弱い妖を喰わせる。
もう一体、巨大な鬼の式を呼び出し、隊士の援護にまわした。
隊士たちの腕や足から血が流れる。
それが、すぅーっと地面に吸い込まれていく。
血の底からうめき声が聞こえてきた。
「人間の血に反応している」
相良が振り返る。
「怪我人は止血しろ!」
相良は次々と現れる妖を手際よく屠っているが、その先になんとも不気味な笑顔をたたえた遮那が立っていた。
(なんだ。何を待っている?)
地面から出てくる妖の数が減り始めた。
「そろそろ全て出そろったか?」
鬼頭は言いながらも、隊士たちの状況を素早く確認した。
無傷の者は少ない。
だが、深手をおったものもいない。
「一部、妖が町に出ました!」
第一隊の報告に、
「町にいる警察に対処を任せる」
鬼頭は即座に判断した。
足元で地響きがする。
(なんだ?何かが蠢いている)
清雅は思わず、ボコボコと黒く変色した石畳から離れ、砂の上へと場所をうつした。
と、それは同時に起こった。
ドォンッ!!
黒く変色した石畳から、一斉に尖った刀のような切先が、数十以上、飛び出したのだ。
―― ウワァアアァ!!!
あちこちで悲鳴があがる。
逃げ遅れた隊士たちを容赦なく、下から刃が突き立てる。
相良は瞬時に被害状況を確認した。
致命傷をおった者は少ない。
しかし、多くの者が血を流している。
その血が次々と、石畳に吸い込まれた。
「怪我をした者は退け!」
言うと、動けぬ者のところに行き、肩を貸して立たせる。
「近衛!高岡も、怪我人を石畳から遠ざけろ!」
心臓の音が足元から響き渡った。
「何か化け物が、人の血を吸っている」
黒崎の顔からは血の気が引いていた。
代わりに、遮那は嬉しそうに耳の横で手を叩いていた。
黒崎が、相良の舞の際に、手を打っていた時と、そっくりそのままに。




