第四十八話 名刀の選定
新月まであと一日。
警察所は静まり返っていた。
きたる、あやかし連合との総力戦。
相良を筆頭に、第一隊、第二隊、第五隊と、黒崎でのぞむ。
残りの第三隊と、第四隊は、江戸の守りにつくこととなる。
「はあぁあ」
目に見えて落ち込んでいる高岡を尻目に、清雅は道場で素振りの練習に打ち込んでいた。
「そういえばお前のところの兄上は、京に帰られたのか?」
高岡の問いに「だいぶ前に戻ってる」と清雅は答えた。
(兄上だけでも江戸から離れられて良かった)
「なあ、神田明神での決戦に、一ノ瀬隊長は出られないらしいぞ」
清雅は素振りをしながら聞いている。
おおよそ見当はついていた。
「それでも第二隊は全員出るんだから、一ノ瀬隊長も、気が気じゃないだろな」
高岡はため息をついた。
清雅は汗をぬぐうと竹刀をおいた。
「俺、この戦いで、皆と肩を並べて戦える自信がない」
高岡は目を見開き清雅を見る。
「近衛。お前、今、自分のことを"俺"って言ったか?」
「あ」
清雅は肩を少しあげ、高岡の目を見た。
「すみません」
「いいよ」
少し嬉しそうに高岡が笑う。
「お前って、すましてて、上品ぶって、いけすかない奴だって思ってたけど、根は意外と違うんだな」
「……」
清雅は置いた竹刀を手に取り「そんな風に思っていたんですか?」と、凄んで見せた。
(俺、この警察所でうまくやっているのかも)
清雅は少し嬉しくなった自分に驚いた。
一ノ瀬とも、高岡とも打ち解けている気がする。
「でも、敬語は忘れるな。なにせお前より、随分先輩だからな」
「わかった」
「わかってねーだろ」
「高岡、近衛、相良隊長がお呼びだ」
第一隊副隊長の藤堂が戸口から顔を出した。
「刀が届いたらしい」
相良の部屋には、一ノ瀬、黒崎、高岡、清雅が呼び出されていた。
「黒崎隊長、楓は死んでしまったのですか?」
黒崎は話しかけてきた清雅を一瞥し、正面を向いた。
「お前は、細かいところまで気にしすぎる」
清雅はその意味がわからなかったため、押し黙った。
「今朝方、天羽 鳳仙が直接持ってきた」
目の前には三振りの刀が置かれている。
「美しい」
黒崎は顎に手をやりながら見惚れていた。
「天羽から、それぞれ誰の刀かを聞いている」
相良は美しく怪しい光をはなつ一振りの刀を取り上げる。
やや小ぶりであり、刀の重ね(厚み)が途中から薄くなり、また厚くなる。
「紫苑」
相良は一ノ瀬に抜き身の状態で刀を手渡した。
厚みを削ることで軽く、先に厚みを残すことで、相手の骨さえも砕ける破壊力を持たせられる。
「まさに、一ノ瀬さんに合う刀ですね」
清雅はため息をついた。
名刀には興味がなかったが、こんなにも機能美を追求しているものなのか。
「名を鳳切という」
相良の言葉を聞きながら、一ノ瀬は鳳切を光にかざした。
「よろしくね」
「次は高岡だが」
相良はわずかに目を細めた。
「お前には、意外な刀が来た」
一ノ瀬と比べ、かなりずっしりとした日本刀を手渡した。
身幅が広く豪快だ。激しく乱れた刃文が力強い。
衝撃が分散され刃こぼれを抑えながら、その重みとあいまって破壊力がすさまじい。
「名を剛鳳という」
高岡はその刀の重みに驚いた。
「私が、これを?正直、意外です。こんな豪快なものを」
相良の刀であるならわかる気もする。
しかし高岡がその刀とは。
「お前の素質を天羽は見抜いている」
相良は高岡を下から鋭く見やった。
その目は、相良も同じ考えであることを物語っていた。
最後は相良の刀である。
身幅が広く、重ねも薄くはないが高岡ほど厚みもない。
地鉄じがねの美しさは不純物を叩き出した繊細さをものがたり、加えて見える大胆な刃文は豪快さを感じさせる。
まさに、強く美しい中に繊細さが織り込まれている刀である。
『相良をそのようにとらえるか』
九曜は唸った。
「名は鳳焔」
「素晴らしいものを見せてもらった」
黒崎は、一連の問題を全て忘れたかのような、晴々しい顔となった。
「これにて明日の大戦の備えとする。
皆、気を引き締めよ」
相良の目には鋭い光と覚悟が炎のように燃え上がっていた。




