第四十七話 最高の舞台
遮那を捕え、妖も黒崎の式である"狐"によって喰い尽くされようとしている。
大手町の件は、なんとか終着しそうだ。
「あと少し待て。まだ潜んでいる妖がいる」
黒崎はあたりに気を配った。
「一ノ瀬隊長。少し、良いですか」
黒崎が他の妖を探している間、鬼頭があらたまって一ノ瀬の前に進み出た。
失礼にならぬよう、目線を合わせるために、片膝を折って決意のこもった目で一ノ瀬を真っ向から見据えた。
「隊を指揮する身でありながら、単身、得体の知れない敵に挑むのはいかがなものかと」
清雅、高岡、丸山が動きを止め、鬼頭を見る。
第二隊の一人、高木は縛られた遮那に刀を向けたまま、鬼頭に目線をうつした。
「どう言う意味?」
一ノ瀬は、純粋に、わかりかねるといった視線を鬼頭に投げかけた。
「もし、貴方が倒れでもしたら、今の警察所はどうなります?」
「大丈夫だよ」
一ノ瀬はにこりとした。
「僕は死なないから」
「なんの根拠で?」
(えぇー!!!!
一ノ瀬さんの決め台詞を真っ向から否定した!!!)
清雅はごくりと唾を飲み込んだ。
「え?
相良さんがいるから」
さも、当たり前だろとでも言いたげな一ノ瀬に、鬼頭は一ノ瀬の両肩を強く掴んだ。
「相良隊長と、一ノ瀬隊長は、全く関係がないのですよ」
『やめてあげて』
九曜がつっこんだ。
『本人がそうだと言ってるのじゃから、それで良いじゃろ』
(鬼頭隊長は真面目な人なんだろ)
清雅の心臓がどくどくとなる。
場の空気が凍りつく中、黒崎が妖がまだ残っていると呟きながら、鬼頭と一ノ瀬の方へ近づいてきた。
「鬼頭、その話は、ここでしなくても良いだろ」
鬼頭は立ち上がり黒崎を見る。
「誰かが本当のことを言わないと、一ノ瀬隊長のためにならない」
横で一ノ瀬が首をかしげているのが見えた。
「ほっとけ。それより……」
言いかけて黒崎の顔から血の気がひいた。
縛られていたはずの遮那が、見張っていたはずの高木の後ろに立ち、その首元に太刀を突きつけていたからだ。
「いつの間に」
鬼頭が用心深く、刀に手をはわせようとする。
「動かないで。こいつが死ぬよ」
そう言いながら、高木の首元に刃が徐々に食い込んでいく。
(動かなくても殺す気だ)
高木の首から血がしたたりおちる。
「私にかまわず……」
「黙れ」
さらに刃をくいこませた。
「屈辱的。この礼は、この男だけの命では足りない」
言うと、目にギラリと殺意が光る。
「殺される!」
誰もがそう思った瞬間 ――
キィイン
甲高い音ともに、遮那の太刀が飛ばされ、宙を一回転した。
「なに?」
見上げるとそこには
忍者の姿をした人形のような顔のおなごが、刀を振りかざした姿で立っていた。
「楓!」
『でかした!』
遮那の顔が邪鬼のように歪み、宙で翻った太刀を素早く掴む。
瞬間、楓を上から下に一刀両断に切り伏せた。
楓は悲鳴をあげずに、霧のように舞って、跡形もなく消え去った。
黒崎の胸元の符が燃え尽きた。
同時に、黒崎、鬼頭、一ノ瀬の剣が遮那に向かって走る。
遮那はそれを身軽にかわし、天狗のような跳躍力で後方に跳び下がった。
「お前たちとは、ここでは終わらない」
そう言うと、近くを歩く妖を、太刀で切り伏せた。
「しまった!」
黒崎が舌打ちする。
切られた妖は地面へと吸い込まれ、消えていった。
――最後の一体。
黒崎の脳裏に、完成した五芒星がよぎった。
「これで呪は成立した!
次は、もうわかってるよねぇ?」
くっくっくっ
肩を震わせ、歯を剥き出しにし、下から睨め付けるように笑う遮那の姿に、一同の背筋が凍る。
とうとう、五芒星の中心地で、何かとてつもない物が動き始める。
全員が同じ得体の知れない恐怖を感じた。
「楽しみにしているよ。最高の舞台を用意している」
そう言うと、遮那はあっという間に大手町の街並みの奥へと姿を消したのだった。




