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明治維新がこなかった....(上)  作者: yuyuko50
第四章 あやかし連合の総攻撃
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第四十五話 術者の男

新月の夜まであと四日。


大手町を交代制で見張っていた清雅たちだが、妖が出る気配はないまま数日が過ぎさった。




「今日あたり、来るかもしれんなぁ」


鬼頭の勘は当たることになる。




江戸城を見上げながら「もし妖が出たら、全力で掃討せねばならぬな」鬼頭は焦りを感じ始める。




大手町は、将軍様がおわす江戸城を囲むように、多くの藩の屋敷や武家屋敷が並んでいる。


もし、誰かに怪我でもさせてしまったら……。





突如、清雅の隣に立っていた楓が空を見上げた。


―― 「来る」


晴れわたった秋空に、突如雲が立ち込める。




「黒崎様に伝えてくる。援軍を連れてくるので、それまで持ち堪えるように」


言って、ふっと姿をかき消した。




「鬼頭隊長。来ます」


「うむ」




二人は背中を預けた状態で周りを見渡す。


来るとしても格下の妖だろう。


「くれぐれも斬って捨てぬように」




道ゆく人たちに、建物へ入るよう促しながら、清雅は別の気配に気づいていた。


『お主も気づいたか。術者がおる』




空気中から、ふわっと影のようなものが浮かび上がり、そこここに大小さまざまな形の妖たちが姿を現した。





―― 人々の叫び声。


そして、空気の淀み。




大手町は一挙に、妖の群れに占拠された。





こちらが手出しできぬと知ってか、弱い者も悠然と清雅たちの方へと向かってくる。


「清雅くん、とりあえず逃げるが勝ち。


他の人を襲わないよう見やりながら、やり過ごすぞ」


「はい。やりにくいです……」




そうこうしているうちに、一ノ瀬、丸山、高木、高岡が到着した。


「黒崎隊長は?」


清雅の問いに、高岡が、妖が多数群がる方向を指差した。




「もうすでに、式の召喚に入っている」


黒崎の周りに白い煙が立ち込めたかと思うと、そこから次々に狐にしては小さな生き物が地面より這い出してきた。




―― 「喰え」




黒崎の一言で、四方八方に飛び出した狐たちは、妖を食いちぎり、貪り始めた。




「流石です。黒崎隊長」


鬼頭は刀をなおすと、晴々とした顔で黒崎を仰ぎ見た。




「これなら、妖は地面に吸い込まれませんね」


皆、してやったりのしたり顔。


とりあえず、全部喰ってくれれば、大手町は守りとおせたことになる。






「さあ、術者を探すよ」


安心しきった場の空気を締め直すように一ノ瀬が両手を打つ。




「敵にとっては最後の核となる仕上げだ。絶対近くに潜んでいる」


一ノ瀬の鋭い視線が、その場にいた全員の緊張感を引き上げた。





皆は目と耳を使い術者を探す。





(そうか。そいつを倒さないと、この件は片付かない)


清雅は目を瞑った。


先程かすかに感じた気配を探る。





と、その時、





何かが頭の端にひっかかった。





―― 『死ね』


   頭に直接響く。




「黒崎さん!!!!」





清雅はほぼ反射のみで脇差を抜き放ち、黒崎の背後に向けて投げつけた。




―― ヒュン




脇差は黒崎の真横をすり抜け、近くの木に突き刺さる。





黒崎は遅れて背後を見やった。





そこには、清雅の刀を避け、背後に飛び退いた男が立っていた。


紫色の水干すいかんを纏い、高下駄を履いた、まるで源平合戦から抜け出たような出立。


右手には、黒崎に振り下ろそうとしていた太刀が握られている。




黒崎はその顔をまじまじと見た。




―― 十五、六歳?




(いや、違う。そう見えるだけだ。本来は……)


そこで、頭に直接何かが響く。





『死ね』





またもや黒崎に向かって振り下ろされる刃。





早い!





いつの間にやら、すでに黒崎の首元に刀が閃いていた。





―― キィイイン





それを、いつ回り込んだか、一ノ瀬が低い姿勢から刀を弾き返し、返す勢いで相手の胴を狙う。




水干の男は、人間ではあり得ない跳躍力でその刀をかわした。





「邪魔なんだけど」





口は開いていなかったはず。


しかし、しかと言葉は聞き取れた。





コツコツと、高下駄を打ち鳴らし、腰を前にかがめて刀を一ノ瀬の首元につきつける。





「あんた。強いね」





一ノ瀬は答えない。






ただ代わりに、地面すれすれまで姿勢を低くして、刀身を自分の体の後ろに引いた。変則的な極低空の構え。




いつもの笑顔や軽い口調は一切見せず、ただ目の前の敵に全ての意識を向けていた。

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