第四十二話 前後不覚
浅草の妖を掃討し、清雅、鬼頭、黒崎、丸山の四人は相良の部屋を訪れた。
相良は小袖を着流したいつもの姿で、あぐらをかいて待っていた。
「相良隊長の推察どおり、土の中に"呪"がまぎれておりました」
黒崎は妖が消えた土をぱらぱらと和紙の上に落とし、そこに何事かを呟く。
土は青色に光ったかと思うと炎が燃えるように煙をあげて、そのまま空気中に消え去った。
「かなり強い術者の力を感じます」
「お前でも、何に対する呪かは、わからんか」
「はい」
黒崎は悔しそうに下を向いた。
相良に指摘されるまで、敵の目的を見逃していた自分が許せないのだ。
「妖が出現していた場所ですが……」
鬼頭が地図を広げた。
「三河町、上野、日本橋 、浅草……これらは線で結ぶことができます」
黒崎の顔色が変わる。
「三河町が西、上野が北、日本橋が南東、浅草が北東」
清雅が息をのんだ。
「あと一箇所、南あたりに妖が出れば」
「五芒星が完成するな」
鬼頭の言葉の続きを、黒崎が引き継いだ。
五芒星は本来、災厄などから人々を守るために張られることが多い。
「江戸を守るために、このようなことをしているとは、到底思えまい」
黒崎の言葉に相良は、腕を組み直す。
「なら、五芒星の中心となる場所で、何かを起こす気だな」
相良の視線が地図の中央に落ちる。
「これはまずいな。
今、佐倉さんに墨と筆を持ってきてもらっている……」
言うと相良は立ちあがろうとしたが、ぐらりとよろけ、その場で片膝をついた。
「相良隊長!」
鬼頭が素早く相良を支えた。
その拍子に障子が開き「待たせたな」と佐倉が現れた。
同時に目を見開く。
「稔!どうした?」
佐倉は血相を変えて走り寄った。
立ち上がれない相良を見て、あわてて廊下を振り返ると「誰か!医者をよべ!」と叫んだ。
「やめてくれ」
相良は佐倉の袖をつかむ。
「おおごとにするのは、やめてくれ」
顔色は蒼白だったが、佐倉を見上げる目は力強かった。
清雅と高岡、丸山は正座した状態で皆、拳を握りしめた。
(どうしよう。俺たち今、とても追い詰められた状態かもしれない)
三人は下を向いたまま、何も言えなかった。
『まずいな。
五芒星の話もまずいが、相良の今の状態を敵に知られることもまずい』
「すまないが、三人は外に出てくれ」
相良を支えながら、申し訳なさそうに鬼頭が清雅たちに言った。
「はい」
三人はただ、何も言わずに部屋を出ることしかできなかった。




