表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明治維新がこなかった....  作者: yuyuko50
第三章 隊長たちの心の闇
PR
42/69

第四十一話 妖出現の疑念

日本橋の妖を掃討するのに夕暮れ時まで時を要した。

清雅と丸山はくたくたになり警察所に戻ってきたが、入り口で黒崎が待ち構えていた。


「報告を聞こう」

「今からですか?」

二人はお互い顔を見合わせたが、観念したように黒崎の部屋へ足を運んだ。


その様子を、一ノ瀬が心配そうに見ていた。



秋の深まりとともに、空を闇が覆う気配が早くなる。

太陽が隠れると同時に空気はすでに冷たく、家路を急ぐ者たちの足音が、夜と、もうすぐ来るであろう冬の足音を感じさせる。


清雅が黒崎の部屋の障子を開けたときには、もう外は暗くなっていた。


「清雅くん、妖の動きが活発化しているんだろ?」

廊下に一ノ瀬が立っていた。


「一ノ瀬さん」

少し驚いたが、今はとても一ノ瀬と話す気持ちにはなれない。


「はい。あちこちで数十体出ていて、町の人を襲う輩も出始めているんです」

「僕にも状況を教えてもらえないかな?」


一ノ瀬の言葉に、清雅は少し腹ただしく感じた。

(教えても、一ノ瀬さんはここから出られないじゃないですか)


「今日は……ちょっと……」

清雅の態度で察したのか、一ノ瀬は「ごめんごめん」と頭をかき、にっこりとした笑顔で「疲れているよね。また今度でいいから」と、廊下の奥へと消えていった。


「俺、余裕ないよな」

『まあ、仕方ないじゃろ』

清雅は家まで戻る元気もなく、宿舎に泊まろうと第一隊の部屋へと歩を進めた。




一ノ瀬は廊下の隅で、清雅が歩き去るのを見送った。

「みんなが大変な時に、何もしてあげられないのはつらいな」


見上げると赤く不気味に光る満月が、夜空にぼんやり浮かんでいる。

「十五夜……」

一ノ瀬は眉をひそめる。

「とても嫌な予感がする」


そう言うと、小袖に両腕を入れ廊下の隅に腰をおろした。

「月はとっても綺麗なんだけどね」

微かにほほえむと、赤い丸い月を見上げ、ひとり鼻歌を歌った。




それから数日間は、やれ盗人だ、やれ辻斬りだと、細かな事件が立て続けに起こった。

清雅と高岡は細かな仕事に忙殺されたが、間で道場での稽古も欠かさなかった。


そんな折、また黒崎から招集がかかった。


「次は浅草に妖が出た」

「ええぇえええ!」

高岡が倒れ込む。

「なんか、絶対おかしいですよね?」


黒崎は楓を呼び寄せる。

楓は可愛くぴょんぴょん跳ねながら(高岡には見えない)黒崎の頬にキスをするように囁きかけた。


(余裕がないせいかな。ああいうのを見ると腹がたつ)

清雅はなるべく見ないように、首を四十五度に曲げ、二人を視界から排した。

『主も性格が淀んできたのぉ』


「報告では、今回は四十近く出ている。丸山と第五隊隊長の鬼頭も同行させよう」





現地に行くと、あちこち妖だらけとなっており、収集がつかない。

「あやかし連合の奴ら、実は妖の統制がとれず、放牧してるんじゃね?」

高岡の言葉に

「あぁ!餌代が追いつかず、勝手に食ってこいみたいな?」

丸山が笑いをこらえた。


「それって、人間を食ってこい。ってことですか?」

丸山と高岡は目を見合わせて「近衛くんも、言うようになったねぇ」と感心した。



一方、黒崎は、大物の妖を相手にしながら釈然としない気持ちを整理していた。

(刀でも斬れるような、力の弱い妖を大量に発生させて、いったい何が狙いだ)

警察を撹乱させるには、敵が弱すぎる。


鬼頭も同じ疑念を抱いている。


「どうもおかしい。これで四回目じゃろ」

「お前もそう思うか鬼頭」


「そう思うんなら、調べることだな」

ふいに太い声が聞こえ、二人は思わず驚きと同時に振り返る。


「相良隊長!!」

そこには、黒の羽織袴を着た相良が立っていた。


「ひとつひとつの妖の出現には意味がねえ。

そう読めねえか?」


相良の声に清雅と高岡も走り寄る。


「相良隊長」

清雅は話しかけようとしてとまどう。


(少し……)

清雅は唇をかんだ。

日の下で見る相良の顔色が、あまりにも悪かったからだ。


(だが、それは流石に、ここでは言えない……)


清雅の心配をよそに相良は、ふらふらと歩いている妖を斬って捨て、その妖が地面に吸い込まれる様を見ていた。


「地に何かある。

黒崎ぃー。お前の仕事だ」

「……はい」


黒崎は急いで土を拾う。


「鬼頭、お前は過去に妖が出現した場所を地図でまとめろ」


言うとそのまま皆に背を向けて、

一番大きな妖の暴れているところへ向かおうとする。


「相良隊長……」

言いにくそうに黒崎が相良を呼び止めた。


「ここは……私たちに任せて、隊長は所へお戻りください」

相良は振り向きざまに黒崎を睨みつけた。

「ワシが邪魔か?」

「いえ……」

珍しく言い淀む黒崎に代わり、鬼頭が一歩前にでる。


「お顔の色がすぐれません。

ここはワシらにお任せください」


すっぱりと言ってのけた。



相良は抜き放っていた刀をもったまま鬼頭の目の前に立つ。


鬼頭はスラリとした長身だったが、相良はそれよりも大きく見えた。

何も言わない相良の圧に負け、鬼頭はわずかに目をそらす。

「相良隊長に何かあったら、ワシらが全員困るので、どうかお聞き入れください」

と、頭を下げた。


『さすが、戦国の男は違うのぉ』

九曜は感心のため息をつく。


相良は鬼頭を睨みつけたまま刀を鞘に戻す。


「地図をまとめたら、全員でワシの部屋へ来い」

そう言うと、そのまま皆に背を向けて去っていった。


相良の後ろを姿を見送り、清雅はふがいない自分を反省した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ