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明治維新がこなかった....  作者: yuyuko50
第三章 隊長たちの心の闇
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第三十六話 歪んだ誓い

神田鍛冶町からの帰り、心なしか全員の心が落ち込んでいた。




黒崎は目に見えてイライラしており、一ノ瀬はため息ばかりついている。





(相良さんは、どう考えているんだろ。さっきの話)


『あやつは賢いからな。


しかし、相良に執着しているのは一ノ瀬だ。一ノ瀬が考え方を変えねば、関係は変えられまい』


九曜の言葉に、清雅は自分がなんとか一ノ瀬を説き伏せるか、と頭をめぐらせた。





おもむろに、先頭を歩いていた相良が立ち止まった。




つられて全員その場に立ち止まる。




道のど真ん中。


道ゆく人は迷惑そうに振り返るが、警察の服を着ている清雅たちに文句を言う者は一人もいない。





「紫苑」




低い声で相良に呼ばれ、一ノ瀬は眉をよせたまま顔をあげた。




「今日今から、お前をすべての職務から外す」





「……」





清雅と高岡は息をするのを忘れるくらい驚いた。





「それから、一切の外出を禁ずる」






高岡があからさまに清雅の顔を見てくる。


清雅も、高岡の顔を見返したい衝動にかられたが、それはやってはいけない気がして思いとどまった。





「なぜですか!?」


一ノ瀬は驚きすぎて、思わず後ずさる。




「しかも、今日今からって……。


僕はこれから、隅田川付近を騒がしている物取りの話を、丸山と聞きに行くつもりで……」


「それは高木に任せろ!」




「……」




『こ……これは』


九曜が怯えた。





「一切、外に出ることを許さん」





清雅は開いた口が塞がらなかった。


第二隊の隊長は一ノ瀬だ。


相良が第二隊の仕事に口出しをするのはおかしい。





黒崎は何も言わず、表情ひとつ変えなかった。





「いつまで、外に出てはいけないんですか……」


一ノ瀬の顔がみるみる曇る。




「ワシが良いと言うまで。これは命令だ」


言って、ふたたび前を歩き始めた。




(過保護……)


清雅の頭に思わず浮かんだ言葉。


『いや、あれはまさしく……執着じゃ』




一ノ瀬はとぼとぼと相良の後を歩き始める。




『あの二人……歪んでおるぞ』





「まあ。そうなるだろな」


高岡が清雅の耳元でささやくように話しかけてきた。




「相良隊長と一ノ瀬隊長は、同じ村の出身で、一緒に警察所に来たんだから」


「そうなんですか?」


清雅もひそひそ声になる。




「あの二人は兄弟みたいなものだよ。とくに相良隊長の、一ノ瀬隊長に対する接し方は、所内でも不満を持つものがいるくらいだ」




「!!!!」


『逆かぁ!!!』




(てっきり、一ノ瀬さんの方に問題があると思っていたー!!!)








―― 「紫苑はワシが守る」


「だから、ワシが生きている間はお前は死なん」




相良は、十年前のことを思い出していた。




警察所に行こうと誘ったのは相良だった。


村で両親もおらず、一人だった紫苑は、相良を信じて江戸までついてきた。




しかし現実は過酷だった。




警察所では多くの者が命を失い、無事であっても二度と働けない者も多くいた。


当時は統制がとれておらず、隊長も名前だけだった。




(紫苑に悪いことをした)


あの時、誘わなければ、紫苑はもっと普通の生活を送れていたかもしれない。


自らも、常に死と隣り合わせで、精神をすり減らし続けることはなかっただろう。




しかし、紫苑を守るという大義が、相良を強くした。


一ノ瀬も、相良がいることで、自分は死なないと思えるようになった。





あれから十年近く。


隊を組み直し、力のあるものは誰でも隊長に抜擢した。




使う武器も出身も、相良は隊士の命を優先し、こだわらなかった。




それが上の反感をかっていることも至極承知の上。


(明日を信じられずに、国のために戦える者などいない)




だが、若かりし頃に植え付けられた、明日の命への不安感は、今も相良と一ノ瀬から取り除くことができずにいる。




相良が一ノ瀬を守ること。


一ノ瀬が相良のそばにいること。


それは、二人にとって重要だった。




それが天羽 鳳仙あもう ほうせんには、歪んだ信念としてうつったのかもしれない。




「だが、俺には紫苑を守る義務がある。


それが例え、周りにおかしいと言われようが、そうして今まで生きてきた」





相良は警察所の門をくぐり、後ろを振り返った。




今は確かに、守る必要もないくらい強くなった一ノ瀬が、ふっとこちらを見ている。




(ワシにはお前をここに連れてきた責任がある)


相良は一ノ瀬をまぶしそうに見た。




(だから、お前を死なせるわけにはいかん)


そう心の中で呟くと、そのまま自分の部屋へと歩いて行った。

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