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第三十四話 相良の策

清雅と一ノ瀬は畳に寝転がり、お互いのまんが本を交換して読み合っていた。




藤乃と玄之介には、絶対に部屋を覗かないように言ってある。


隊の重要な任務だと付け加えた。





『だらしない男がもう一人増えた』


九曜が刀掛けからため息を投げかけてきた。




「こうやってさー」


一ノ瀬が笑いながら清雅の方を見る。


「誰かと非番の日を過ごすのは初めてなんだ」




寝転がった顔の上に読んでいるまんが本を持ち上げる。


寝転がった清雅と一ノ瀬の、頭同士がぶつかった。




二人は起き上がって笑い合った。





「一ノ瀬さんはチョコレート好き?」


清雅は奥にしまった箱の中をあさった。


「やっと涼しくなったから仕入れておいたんだ」




「そんなの、どこに売ってるの?」


後ろから一ノ瀬がのぞいてくる。




「妖に、流通している場所を聞き出してあるんです」


「お金があるんだね」




確かに。チョコレートは高価だ。





ひとつぶ一ノ瀬に渡す。


一ノ瀬はそれを大事そうに手のひらに置いて眺めた。




「西洋ではきっと、当たり前のように店先にならんでいるんだろうな」


「食べてみてください」




ぽんっと口に放り入れる。


あぐらをかいた一ノ瀬は、そのまま天井を見上げた。




「おいしい」


目を瞑って、ゆっくり味わう。




「たまらんな!」




二人で笑い合っているところ、部屋の障子に人影がうつった。




「清雅、入っていいか?」





「兄上だ!」


二人同時に立ち上がると、無造作にひろげられた、まんが本の上に飛び込み、おおいかぶさった。




カラカラ


障子が開き、兄が驚いた顔で二人を見下ろした。




「転がって遊ぶなど、まるで子供のようだな」




両手両足を投げ出して畳の上にうつぶせになっている男二人をみて、兄は思わず吹き出した。







それから数日後、二人は相良の部屋へ呼び出された。




部屋に入ると、一ノ瀬と清雅の他に、高岡、第三隊隊長の黒崎が座っている。




黒崎は一ノ瀬の姿を見ると、聞こえるように大きなため息をついた。





相良は皆の顔をざっと見渡し


「あやかし連合の動きはないが、準備はしておきたい」


と、切り出した。





「幕府に、新しい刀の製作を申請していた」


相良はその許可がおり、刀を準備していると皆に話した。




「新しい刀……ですか?」


清雅は相良をまじまじと見る。




「紫苑から報告を受けた。妖は、普通の刀では斬れんそうだな」




(あの、落武者の一件か)


『ほぉう、あの件から、すでに解決の一手を打っておったか』




九曜は感心した。




先手先手を打つのは戦の上等手段。





「私は今ので十分です」


黒崎の刀は特別らしい。




「私も不要です。九曜は私の"式"らしいので」


清雅も進言した。




「二人のものもは、依頼していない」


相良からすると、その反応は織り込み済みだ。


「しかし、二人にもぜひとも刀の購入に同行してもらいたい」


言うと、手元に無造作においてあった証文一式を黒崎の前に放り投げた。





黒崎は興味深げにそれを読み


「相良隊長は顔がいいだけじゃない。頭もキレる」


と褒めちぎった。





「準備しておるのは、紫苑、高岡、そしてワシの刀だ。


刀匠の名は"天羽 鳳仙(あもう ほうせん)"


仕上げはワシらの顔を見てから行いたいそうだ」




そこで、相良は皆の反応を確かめるように目を細める。




「天羽 鳳仙は、京にいる陰陽の力を持つと言われる刀匠ですよね?」


京都出身の清雅は、その方面の情報には明るい。


「江戸に呼び寄せたのですか?


それ以前に、あの人の刀ということは、相当な額の代物になるかと……」




清雅の問いに相良はニヤニヤして顎をかいた。


「あぁ。この刀三振りで、城がたつ」




高岡が悲鳴をあげた。




「まあ、百丁の最新式の銃があればこそ」


「あれを……あの西洋派鉄砲集団から回収した銃を、幕府に買い取らせたのですか?」


清雅は目を丸くしたが、相良は手を振って否定した。




「ワシはそんなことはせん。


だが、みすみす金になる武器を、なんの見返りもなく幕府に届け出るほど馬鹿でもない」




相良は絶妙のタイミングで、刀作りの資金の申請を行ったのだ。




「銃をそのまま渡せば幕府の懐が肥えるだけだ。それでは面白くなかろう」




相良の言葉に、高岡は思わずため息をつく。




「敵から奪った鉄砲で、幕府の金を合法的に巻き上げ、ワシらの『あやかしを断つ刀』を創る。……何一つ、誰一つ、懐は痛まん」


相良は満足げに歯を見せて笑った。

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