第三十三話 戦いの終わりに
清雅たちは黒い影……武装した村人たちに取り囲まれていた。
「なんで……、俺たち村人に刀を向けられてるの?」
「村人は刀なんて持っていない。つまりこいつらは……」
高岡の問いに、丸山が息をのむ。
―― 「幽霊ってことか」
言った高木を丸山が殴った。
「ちゃうやろ」
『馬鹿ばっかりじゃ』
「そうか。村人になりすまして、旅人を襲う盗賊か何かか?」
高岡が続ける。
「まあ、そんなところか」
清雅たちを荒屋に閉じ込めながら、じわじわと包囲網を狭めてくる。
「逃げ場がない」
高木は辺りを見渡した。
数にして、ざっと二十はいる。
「背中を突き合わせて円形になりましょう」
清雅は素早く九曜を抜いた。
「一人は正面を。隣は援護を。役割分担で凌ぎましょう!」
皆、素早く隣り合わせになる相手に目を配る。
「とにかく、目の前に現れた敵にのみ集中すれば、大人数相手でも持ちこたえられるはずです」
「近衛の言う通りだ。一ノ瀬隊長が戻るまでの間だ」
第二隊隊士四人と、高岡、清雅は背中を預けあって円形になると、蝋燭を吹き消した。
敵は月明かりで丸見えだが、こちらは暗がりで見えにくい。
(目の前の攻撃をかわし、打ち込む。それを繰り返す)
清雅は頭の中でシミュレーションを行う。
たとえ数的不利においても、冷静に確実に敵を討つ、兄の戦い方を思い出していた。
「ヤァアアア」
最初に斬り込んできた敵を、丸山がいなす、次に隣にいた高木が刀を振り下ろし腕を斬りつける。
次に外れた板の間から、別の盗賊が刀をふりかざす。
清雅はそれを上へはらい、ガラ空きの胴に高岡が斬り込んだ。
「空いている隙間だけに意識を集中させろ。攻撃はそこからしか来ない」
六人は呼吸を合わせる。
荒屋の空気感が一つになるのがわかった。
(焦らない。最も効果的な一点に集中する。これが兄上の戦い方)
清雅は実戦をふんだことで、自分が最適解を導き出せていることに少しの興奮を感じた。
四方八方から同時に仕掛けてくる。
しかし荒屋の空間をいかし、最小限の動きで敵をいなす。
仕留める必要はない。
「おい、あれを持ってこい」
盗賊の一人が言った。
『弓じゃろう』
「まずい」
丸山が早々に勘づいた。
「畳か板をはがして、自分の前に立てろ」
すばやく盾を作る。
すぐに弓が飛んでくる。
次は刀での攻撃。
盾を持つものと、攻撃を受けるものとで分担して凌ぐ。
「くそ!火を放て!」
「逃げ出してきたところを斬れ!」
『それは流石にまずい!』
全員が同時に思った。
矢尻に布を巻き、火打石を打つ。
「どうする?」
「ここで焼け死ぬのはごめんだ」
清雅も頭が真っ白になった。
(落ち着け、落ち着け)
「九曜を出すか」
『そんな不安定な状態でワシを呼び出すな』
皆が浮き足だった直後。
「ごめんごめん!遅くなったね」
盗賊たちの背後で、ゴトンと何かが落ちる音がした。
冷たい風が吹き、周りの空気も同時に凍りついたように静まりかえる。
盗賊たちの視線が、音のした一点に集まっていた。
「お……お頭」
清雅は、ほぼ建物の形を残していない荒屋から外を眺めた。
「一ノ瀬さん……」
一ノ瀬の足元に、生首が転がっている。
「君たちの偉い人はもう死んだから。戦いはここで終わりにしよう」
「ね?」
一ノ瀬は念押しするように首を傾け笑顔で言ってのけた。
盗賊どもは、散り散りに逃げたが深追いはしなかった。
怪我をして動けぬものだけ縄でしばり、一箇所にまとめる。
「で、村人をどこへやった?」
丸山がしゃがみこんで盗賊から場所を聞き出している。
「結局、一ノ瀬さんが一人で解決してしまいましたね」
清雅は清々しい顔で月を見ている一ノ瀬に話しかけた。
「清雅くんのおかげで、みんな無事だったみたいだね。
よくあんな状態で持ちこたえられたね」
一ノ瀬は清雅に白い歯を見せて笑いかけた。
「僕たちなら、きっとこの警察を、日本のためにもっと強くすることができる」
一ノ瀬の重すぎる言葉に清雅は一瞬押し黙った。
(そこまで貢献しようとは思っていない)
近しい人を守りたいとは思うけれど、国のためと言われると、事が大きすぎる。
「一ノ瀬さんは、確かにすごい人です。でも私は、同じようにはなれない」
一ノ瀬は表情を変えずに清雅を見ていた。
そして
「そう」
と、心なしか寂しげな口調で言葉を返しただけだった。
盗賊から話を聞き出し、村人たちは近くの洞窟に押し込まれていたことがわかった。
小梅下村の件は、近くの役人たちに任せ、次の日の朝早く一行は神田へと帰路についた。
昨晩の戦いの疲れから足取り重く、顔からは疲労がうかがえる。
しかし、一ノ瀬だけは鼻歌を歌いながら先頭を上機嫌に歩いていた。
「一ノ瀬さんは、戻ったら警察所で休憩されますか?」
清雅は、昨晩の会話での後ろめたさもあり、一ノ瀬と西洋の話でもしようかと予定を聞き出していた。
「あー。いや、相良さんから、この任務のあと、西洋派鉄砲集団の動向を探るよう言われているんだ」
「そんなすぐに?休みもせずに?」
清雅は眉をひそめた。
「……相良隊長は、いつも一ノ瀬さんにそんなふうに仕事を頼むんですか?」
「うん。僕が一番動きやすいからね」
言いながら一ノ瀬は少し嬉しそうだった。
清雅は、一ノ瀬が相良を尊敬しているのは知っていた。
しかし、相良は一ノ瀬をどう思っているのだろうか。
(都合の良い、使いやすい部下)
『そういえば、相良と一ノ瀬が話しているところを見た事がないのぉ』
(一ノ瀬さん、うまく使われているのでは?)
清雅は少し心配になってきた。
「休みはいらないよ、どうせすることもないし」
清雅は一ノ瀬の手を握った。
一ノ瀬はびっくりして、清雅を見返す。
「今度、一緒にまんが本でも読みましょう。私の家で」
二人は急に立ち止まった。
後ろを歩く高岡と第二隊隊士は、手を繋いで立ち止まる男二人を見て、思わず息をのむ。
「みんな、後ろをむこう」
丸山が顔を赤くしてうつむいた。
握られた手を倍の力で握り返した一ノ瀬は、嬉しそうに顔をほころばせた。
「うん、読もう!僕のもいくつか持っていくから」




