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明治維新がこなかった....  作者: yuyuko50
第三章 隊長たちの心の闇
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第三十一話 小梅下村

村に着くと、男たちの視線が突き刺さる。


「警戒心丸出しですね」


第二隊の丸山がひそひそと話しかけてきた。





「この村の裏の屋敷に幽霊が出ると聞きました」


一ノ瀬は確かめるように他の村人たちを見回したが、皆視線をはずす。




「一言でも漏らしたら、呪われるの?」


急にタメ口になる一ノ瀬。




「この村は、あんたたちを歓迎しない」


畑を耕す農民の割には、体つきも声も大きい四十代くらいの髭男が前に進み出た。




「あんたたちみたいな、物好きでここへ来る連中のせいで、村は幽霊の仕返しにあうんだ」


男の後ろから、今度は痩せた男が声をはった。




「女子供は、その幽霊に呪い殺される」


「そうだそうだ」




村人たちに囲まれて、高岡は「もう帰りましょうよ」と一ノ瀬の袖をひいた。





「それで、男ばかりが目につくのか」


一ノ瀬はざっと村を見回した。


「ふぅん」


言いながら、ぶらぶらと軒下や井戸のあたりを覗き込む。




「勝手に歩き回るなよ」


髭男が一ノ瀬の腕をぐいっと掴み上げた。


同時に、第二隊の四人が抜刀し男を素早く取り囲む。




「隊長を離せ」




「悪かったよ」


髭男が両手をあげて、後ろへ下がった。





「こんな、ちっこいのが隊長だなんて、笑うよな」


髭男だけではなく、他の村人たちも小馬鹿にしたように笑い合う。




「貴様ら、武士を愚弄するか」


「笑うよねー」




本当に笑い出したのは、当の本人だ。




「でも、幽霊が本当にいるって信じてる、臆病者たちの方が笑えるけどね」


一ノ瀬の言葉に、村人たちは押し黙った。




「じゃあ、早速、屋敷を見てくるから、みんなはこの村を調べておいて」




「た……隊長。お一人で行かれるつもりですか?」


丸山ほか三人は驚いて一ノ瀬を見た。




「私も一緒に行きましょうか」




さすがに、着いて早々、一番危険そうな場所へ一ノ瀬を一人で行かせるわけにはいかない。




「え?大丈夫だよ。ちょっと見てくるだけだから」


三度笠を丸山にあずけると、一ノ瀬は清雅に笑いかけた。


「もっと暗くなったら、みんなで行こう。それまで待てる?」




「待てるも何も、後から皆でいくのなら、お一人で何しに行くんですか」




「大人数で動く前に、少人数で現地を調べておくのは鉄則でしょ」


一ノ瀬は、まるでおなごのように微笑んだ。


そしてすっと踵をかえすと、何も言えない隊士たちを残し、そのまま風のように姿を消した。




心配そうに見送る清雅の横で丸山がため息をつく。


「いつも、ああなんです」


「え?」




「どんな危険な場所でも、お一人で突っ込んでいかれる」


もう一人、高木という隊士も清雅の横に来る。




「そして、必ずおっしゃるんです」


二人同時に口を開いた。




『僕は死なないから大丈夫』





「……」


清雅は二人をまじまじと見た。




「え?不死身?」


『なわけ、ないじゃろ』


九曜はため息をついた。




『あやういなぁ。どうも、あの男は……』






一ノ瀬はひとり、軽々と茂みの合間を抜けて、幽霊屋敷のそばまで来ていた。


(人の気配はしない。まあ霊の気配なんてわかんないけどね)




明かりがまるでないため、暗闇が視界をまどわす。


(目が慣れるまで少し待つか)




ふと、相良の顔が浮かんだ。


敵陣に単身乗り込む時や、敵と斬り結ぶ前の興奮する緊張感。


そんな時、必ずあの言葉が脳裏をよぎる。





―― 『お前は死なない。大丈夫だ』


一ノ瀬は目を瞑った。




あの時、本当に毎日不安だったな。




十年前、一ノ瀬は相良とともに警察所へやって来た。




一ノ瀬、十一歳。


相良、十八歳だ。





「毎日を死ぬ思いで生きよ」


当時の第一隊隊長の言葉が、まだ若い二人の心に、常に死と隣り合わせである過酷さを刷り込んだ。




と同時に、決して拭うことができない恐怖を刻み込んだ。




「いつ死ぬかはわからない」




毎朝、目が覚め怯える一ノ瀬に、相良は言い続けた。




「ワシがいる限り、お前は死なない」


「ワシがお前を守ってやるから、死ぬことはない」


その時、相良が手渡した手拭い。






一ノ瀬はそれを懐から取り出し、優しくなでた。


そして屋敷に目をこらす。


(ほら、見えてきた。夜目よめはきくほうだから)


言って、姿勢を低くしたまま歩を進めた。




「相良さん、僕は今日も生き残る。あなたが生きている限りはね」


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