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明治維新がこなかった....  作者: yuyuko50
第三章 隊長たちの心の闇
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第二十九話 楓

清雅は家に戻るとすぐに元輝の部屋の障子を開けた。




「兄上、お体はいかがですか?」


元輝は上半身のみ起こし、布団の上で読書をしていた。




「清雅、相良隊長は何か言うておったか?」


左腕は巻木綿でぐるぐると巻かれ、首から腕を下げている。


清雅は正座したままにじりよると、元輝から本を取り上げた。




「今はゆっくりお休みください」


元輝は渋い顔をして、しぶしぶ布団の中に潜り込んだ。





「若が直接言ってくれて助かりました」


藤乃はずっと気にしていた様子で、ほっとため息をついた。






清雅は自分の部屋へ戻ると、九曜を目の前に置き、あぐらをかいて腕組みをした。


兄への心配が頭から離れないため、語気がついつい荒くなる。




「説明してもらうぞ」


『なにも話すことはない』




蝉の声が聞こえる。


ただえさえ暑さで嫌になるというのに、話すことがないとは……。


両手をあぐらをかいた膝の上におき、睨むように九曜を見据える。


眉の間に皺を作る清雅をみて九曜がしぶしぶ言葉を発した。




『なら言うが』


ありもしない口からため息がもれる。




『主が自分で記憶を封じておる。それだけじゃ』




「どういう意味じゃ」




『そのままの意味じゃ』




「わからんから、説明せいと言うておる」




『なんじゃあ、その態度は』


九曜も喧嘩腰になる。






「若」





障子の向こうで藤乃の声がした。





「どなたか、お越しになっていますか?」




しまった!声を出して話しておった!




「誰も来てはいません。独り言です」




藤乃の息を吐き出す音が聞こえる。




「なら良いのです」




足音が遠くなる。





(で、俺がなぜ、自分の記憶を封じる必要がある?)


『思い出さないのであれば、今はまだ、思い起こす必要がないということだ』




清雅は黒崎との会話を思い出した。


(黒崎隊長は、確か九曜を"式"と言っていたな)





おもむろに立ち上がると、九曜を手にとり廊下へ向かう。


(お前の使い方がわかれば、あの天狗を倒すことができる)




『やめておけ。主はまだ"呪"の意味を理解していない』


(だから、それを聞きにいくのであろう)





「使いこなせないまま、巨大な式を呼び出すのだけは、やめた方がいいよ」




ふと、庭の隅から声がした。




「誰だ!」




清雅は庭の端から端まで目を凝らす。




うすぼんやりとした影が、なんとなく人の形をとりはじめたかと思えば、いつの間にやら忍び装束のおなごが立っていた。




「黒崎隊長の式か?」




「楓と申します」




にこりと笑ったが、それは人の笑顔ではない。


笑った人形の表情に似ていた。





「九曜はやはり"式"なのだな?」


「私と同じ」


楓はじっと清雅を見る。




「いぇえーい」


ピースらしきものをした。




「なんで?」


「こういうノリが、黒崎様のお気に入りなのだ」




今度は、ちょっと腰をかがめ、上目遣いをしてみせる。




「それもいい、それもいい、と褒めてくださるのだ」




「変態だな。あいつ」




思わず口が滑った。





「とにかく、黒崎様から九曜を呼び出す言葉を知ったとしても、むやみに使うな。と伝言を預かってきました」




楓は言うと、謎の敬礼をした。


「お前の式については、実戦できたえあげろ!とも、言っておられました」




「つまり、それは」




「あやかし連合が動く時です」




言うと、腰に手をあてて、片目をつぶる。




『いちいち、面倒くさい奴じゃな』




「会話に集中できない」





楓はそれだけ伝えると、そのままフッと掻き消えるようにいなくなった。





その様子を、障子をほんの少し開けた状態で、元輝がひっそりと見ていた。

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