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第二話 江戸に着きました

京から江戸まで、東海道を徒歩で14日ほど。




父は、飯炊に藤乃(ふじの)を、用心棒や世話役として玄之介(げんのすけ)をあてがった。








「これは、すごい人ですね」


清雅きよまさは江戸の人間の多さに圧倒されている。


「まるで人の洪水だ」





「江戸はお武家様も多く、特に日本橋はお商売の街ですから」


玄之介は見慣れているのか驚かない。





(よく見ると、あきらかに西洋かぶれしている者がおる)


小袖の下にシャツが薄くすけている。





(キャラTだ!)


清雅の頬が紅葉した。




(ほんまにおるんや。小袖の下から透けてますよー)




『やめとき!』


九曜が京都弁でつっこむ。






玄之介は網代笠(あじろがさ)を少しかたむけ、目を細めて清雅を見た。




「これから警察所に行かれませ。佐倉様がお待ちだそうです」


そう言うと、神田にある警察所への行き方を説明する。





「玄之介と藤乃はどうするのです?」


まさか、ここで別れ別れになるとは……


初めての町をひとりで歩くのは、流石に心細い。





「私は、住まう借家を確認しておきたいので、ここで失礼いたします」


玄之介はそう残して、そそくさと行ってしまった。







(せめて藤乃くらいは、俺と警察所に行ってくれないだろうか)


根性なしの心が伝わったのか、藤乃は少し困り顔。





「若様、わたくしは生活に必要なものを買い揃えておきたいので」





そっけない。





「それと」




左右に目をやり、清雅の耳元に口を近づける。






「警察所は、変態が多いと聞いております」




清雅はのけぞった。






「くれぐれも狙われませぬよう」




(変態に狙われる?俺が?)





「藤乃の言っている意味が、私にはわかりません」


冷静を装い、変態の意味を吟味する。





「警察所は、むさくるしい男どもばかりです。それに比べ、若様は、見目も麗しく……」


そこで藤乃はため息をついた。


「過酷………………」





『うぅ。このおなご、目が狂うてるぞ』




清雅は表情を変えず、柄袋(つかぶくろ)の上から九曜を叩いた。








二人と別れ、日本橋から神田の警察所を目指す。




時間にして、四半刻くらいだろう。




「これで俺の人生は終わる」




警察所が近づくにつれて、清雅の心は黒い雲が垂れ込めたような、重たい気持ちになっていった。





『散々、好き放題生きてきたのだ。武士としてお国の役にたつと喜べぃ』




袖に隠したチョコレートをつまむ。




(残りわずか。これが尽きた時が俺の最期の時)







ふと、気配を感じ立ち止まる。




「おるな。ここにもおる」




人混みの合間から、小首を傾げ裏長屋への入り口を見やる。






暗く影がかかった奥の隙間に、にったり笑った人の顔が手招きしている。




その下についている体は、驚くほど小さい。






『ほほう。明るかろうが、人が多かろうが関係なし。妖はどこにでもおるのだな』




柄袋に入っていても、九曜にもわかるようだ。






「これは面白ろくなってきたぞ。江戸の妖と仲良くなれば、寂しさも紛れるやもしれん」


『江戸の情報も、あやつらから聞き出せるしな』




清雅は、ほがらかな笑顔を袋に入った九曜に向けた。

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