第二十七話 神風
元輝と天狗は、お互い一定の距離を保ったまま睨み合い、じりじりとまわる。
ふと、対峙する二人の動きが止まった。
元輝の刀を持つ手に力が込められた。
「たぁっ!!!」
掛け声と共に、正々堂々真正面から斬りかかった。
パァン――!!
「兄上!!!!」
瞬間、陣風が巻き起こり、そこにいた全員の視界を奪った。
木々から葉がもぎとられ、小さな竜巻のように巻き上がる。
(神風か?)
清雅は瞬時に瞑った目を見開いた。
巻き上げられた葉が、はらはらと散り、舞い落ちる。
同時に、どさりと元輝が前のめりに倒れ込んだ。
――頭が真っ白になる。
あの至近距離。
元輝の死は確実である。
しかし、天狗の男は、倒れた元輝の背の上に、さらに銃を構えた。
「やめろ」
清雅の口から、意識なく声が漏れた。
(くやしい……)
上からの視線も、目の前の視線も、正々堂々と戦う目は一つもない。
――「全員死ねば良い」
目が血走る
月光が藍色の髪を逆立てる。
髪を結っていた紐が自然とほどけた。
口から出る吐息が生あたたかい。
――(全員殺す)
その信念が正義へと置き換わる。
己の想いが、世の中の正義であると強く信じたその刹那――!
――「参れ!九曜」
清雅は、過去、発したことのない言葉を口から紡いだ。
「おぉよ!!!!」
九曜が赤く光り、そこから鋭い速さで、人の四、五倍はあろうかという、薙刀を構えた戦国武者が、どすりとその場に降り立った。
「……!」
全員が凍る。
煙を口から吐き、ゆっくりと首をもたげる。
月の光にうたれ、薙刀が青白く光を放った。
「化け物ぞ!!!撃てー!!!」
すぐに正気に戻った黒外套の男が、一斉射撃の怒号を飛ばす。
あわてて銃を構えた数人の男たち。
だが、狙った先にはもう武者の姿はない。
視線を戻すと、目の前に薙刀を振り上げた武者がたちはだかった。
ヒゥン
風を切る音とともに、あっという間に数人の首が地面に転がった。
「な……んということか」
天狗の男は清雅を見る。
その目には、絶望……よりも、興味?
はなはだ、場を楽しむような不可解な空気が見てとれた。
「お前を許さない」
淡々とした清雅の目には、藍色ではなく、人の血のような朱の光が差し込んでいた。
「九曜」
清雅の一声とともに、九曜は瞬時に天狗の男の前に現れる。
「殺れ」
「ま、待て!」
天狗の男は手を挙げた。
「お前の大事なその男は、死んでおらん」
清雅は顔を天狗に向けたまま、視線を兄に向けた。
「え?」
頭の中にもやがかかる。
(あの距離で?)
思わず、駆け寄った。
兄を抱き起こすと、確かに弾は太ももを貫通していた。
「殺す気がなかった?」
「正確には、あの陣風のせいで撃ち損ねた」
天狗の男は正直に語る。
「あ……」
急に清雅から力が抜け、目が朱から藍色に戻る。
ふわりふわりと風になびいていた髪も、ぱさりと元に戻り、顔はいつもの穏やかな表情へと変わっていった。
九曜は刀に引き摺り込まれるようにしてその場から姿を消した。
「良かった」
ふぅーっとため息をついた。
(ご無事であった)
言うと、そっと兄を抱き寄せた。




