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明治維新がこなかった....  作者: yuyuko50
第二章 陰陽の力
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第二十六話 銃と武士

二人はさらなる暗がりの濃い木の下へと身を隠した。




(みつかれば確実に殺られる)




汗が滴り落ち、足元を濡らす。




息を吸い、精神を落ち着かせようと目を瞑った。





兄を見ると、すでに迷いはなく、目には決意さえうかんでいる。





「清雅」


静かな声で耳元でささやく。




「私が、一人になっている敵の背後に回り込み、一人ずつ仕留めていく」


清雅は目を見開いた。




「敵はざっと十人程度。暗がりからしのびより、確実に倒す。お前はそこでじっとしておれ」




元輝(もとてる)は、立った姿勢のまま、上方の敵から目を離さない。




「兄上、それは私の仕事です」


清雅は兄の両肩を手でおさえ姿勢を低くした。声を殺すように尋ねる。




「兄上は、人を斬ったことがおありですか?」


兄の目が清雅の目を見る。


そして、その目が暗く潤み、口元に寂しさを伴う笑みが浮かんだ。




「ある」




「え?」





そして、ふたたび上方に目を据えた。





「十の頃に」





脇差しを抜き放つと、月の光の翳った頃合いを見計らい、姿勢を低くして斜面を音もなく駆け上がる。




狙いは、一人で無造作に銃をかまえて歩く軍服姿の男。





(獲物が立派であれば、人は警戒をおこたる)





素早く後ろに回り込むと、相手の口を塞ぎ、ふかぶかと刀を急所へ突き立てた。





相手の体がびくりと震え、声もなく崩れ落ちる。




それをそのまま、斜面の下へと引き摺り下ろした。




(まずは一人)




清雅は、その迷いのない太刀捌きに息をのんだ。






元輝はそのまま、軍服姿の男たちが歩き回る道から、少し下った斜面の上を、静かに素早く進んでいく。




次節、月明かりが元輝を照らし出そうとするが、その度に身をかがめやり過ごす。






―― どどんどどん






花火の音が、忌々しい銃声のように空を震わせた。







次の狙いは二人組。




一人は奥の斜面に目を光らせている。


その背後を守るようにこちら側に目を向けている男を狙う。




まさか、すぐ近くに敵が忍んでいるとは思いもしない。




(気配を感じ取ることもできぬ未熟者)




兄は素早く懐にもぐりこむと、そのまま正面からひと突き。




「ぐっ」




くぐもった声に、後ろを見張っていた男が振り返るがもう遅い。




元輝の脇差が、後ろの男の喉元も掻っ切った。





どさり。





さすがに音に気づいた周りの男たちがこちらを振り返る。





元輝は素早く闇の中に身を隠した。





倒れている仲間を見て一気に緊張が高まる。


「気をつけろ!近くにいるぞ!!」





銃口が同時にあちこちにむく。





「清雅、前へ進め。ここを離れるぞ」


素早く戻ってきた元輝は、腰をかがめついてくるように促す。





茂みに身を隠しながら、音を立てずに前方へ。





相手は、こちらが飛び道具を持っていないと思い、木々の隙間に隠れることを怠っている。


丸見えだ。






ズドン!!!






重たい音とともに、清雅の近くの太い木の皮が弾け飛んだ。





「手当たり次第に打つな!」





上から声がする。





「とりあえず打てば当たるだろ!」





仲間が思わぬ闇討ちにあい、恐怖心を植え付けられたのか、指揮が乱れている。





「今のうちだ。急ぐぞ」


(このまま逃げ切る)





元輝がふたたび前に進もうとしたその時





ズドン!!!





ふたたび発砲音が聞こえ、元輝の体がにわかに右へと吹き飛ばされた。





「!!?」





上を見上げると、膝立ちになった黒い外套の男が、正確にこちらの位置に銃をかまえて見下ろしている。




清雅は兄をひきずり、奥の木の影へと身を隠した。





瞬間





ズドン!!!





隠れた木が、わずかに砕け散る。





―― 狙われている。





「くっ。手も足も出ない」


「すまん、左腕をやられた」


急ぎ、持っていた布で傷口を縛る。





接近戦に持ち込みたいが、すでにこちらの位置を把握されている。


囲まれたら終わりだ。





「いいよいいよ」




暗がりの、しかも目の前で突如声がした。


男にしてはかん高い、そして冷たい声。




清雅は兄の前に立ちはだかる。





「ここは、私に任せなさーい」





妙におどけた、調子の狂わされる口調。





男が一歩前に出る。





天狗の仮面をかぶっていた。


最初に出くわした男だ。





「お前がここの指揮官か」


清雅は刀を抜きはなった。





「勝てないのは目に見えてわかるだろう」





男の手には、マウザーC96が握られている。





刀を構える清雅の前に、元輝が進み出た。





「遠くからしか戦いを挑めぬ卑怯者が」





刀を抜き放ち、霞の構え。





「時代錯誤のあわれな戦人よ」


天狗の仮面の下で、くっくっくっと笑う声がする。





天狗は距離をとるため、後ろへ下がる。


それを追うように、刀を構えたままの姿勢で元輝が進む。




ぐるぐると、回りながら相手の隙を見合う。




しかし、マウザーC96は動きながらでも簡単に引き金をひくことができる。




清雅は歯噛みした。





天狗が後ろをこちらに向けた時、背後から斬りつける。


しかしその瞬間、あの黒い外套の男に自分は殺されるだろう。




いや、もう、この戦いの勝者は、誰が見ても明らかだった。




ならば、差し違えてでも上官を討ち取ってみせる。

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