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明治維新がこなかった....  作者: yuyuko50
第二章 陰陽の力
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第二十四話 両国橋でのできごと

「この船の数は圧巻だな!」


元輝(もとてる)は、橋と川を交互に見やりながらため息をついた。




両国橋は、花火を見に来た"うちわ"を持った人たちでごった返していた。


見物客を乗せ、提灯を下げた船が、隅田川を埋め尽くしている。




「よく、これだけ人が歩いても、壊れないものですね」


清雅は、途中で手に入れたうちわで顔を仰ぎながら、橋を往来する人の波を目を細めながら流し見た。




「毎日、花火や屋台が出ているなんて、江戸は景気が良いね」


「お涼みの期間だけですが」




うろうろ船が行き交う姿を見ながら、元輝は「何隻あるのだろう」と指で数える、気の遠くなるような作業をしていた。





「……」




「どうしました?兄上」




ふと、元輝が動きを止めた。




「いや、あの船……」




身を乗り出し、川に目を向けたまま、早足で歩き始めた。




「今、あそこで何か光った」




「そうですか?」


清雅は、うちわで首のあたりを仰ぐ。暑くてたまらない。





「ほら、まただ。あれは何だ?」




元輝のただならぬ気配に、清雅もあおぐ手を止め、指差すほうに視線を向ける。





「荷を運んでいる船のようですが……」




箱のひとつに視線が止まる。





「あれは……」




ぞくりと、背筋に冷たいものが走った。




(いやいやいや。ここでは見たくない)




楽しい気分が一気に吹き飛ぶ。





船は不自然に、ひっそりと岸の方で、荷を下ろしていた。





「……あれは鉄ではないか」




「……」




「長い箱だ。あの光り方……銃身かもしれん」





元輝の静かな声に、清雅は兄の袖をひく。





「かかわらない方が良いです」





元輝は思わず清雅を見た。





「清雅……警察であろう?」





「……」





(忘れておった)





九曜がため息をついた。





「私が今から隊長に報告に行きますので、兄上はここで待っていてください」




「それでは間に合わん。ほれ、荷をどこかへ運び出そうとしている」





元輝の足が早まった。


あの場へ行こうとしている。





「兄上、危険です。ここは……」




「危険なことはせん。せめてどこへ運ぶかを見届けなければ。


ここで見失えば、どこかであれが、人の命をおびやかすのだぞ」




元輝の真摯な目が清雅を射抜いた。




「武士として、見て見ぬふりはできぬ。」





(兄上は、そういうお方だ)





元輝は武士だ。




自分に恥じる行動は起こさない。





「では、場所だけ特定しましょう。その後は、警察に任せるべきです」




ふいに、清雅の肩を誰かが強くひいた。




「私があとをつけます。お二人は警察所へ」


振り返ると、玄之介(げんのすけ)が立っていた。





「玄之介、お前いつからそこに?」




「申し訳ございません。お二人の後をずっと……」


清雅の問いに、玄之介は本当にすまなそうに頭を下げた。





「玄之介は、まじめだからな」


元輝は気にしていないような素振りで、歯を見せると、両手を袖に入れ真面目な顔をした。




「なら、玄之介が警察所へ向かってくれ。私と清雅で後を追う」




「それは、なりません」




「いや、警察である清雅が、みすみす現場を離れて警察所に向かうなど、良くは思われまい」




「確かに……」


元輝は、警察での清雅の立場も考えていた。




三人が話しているうちに、荷を大八車だいはちぐるまに乗せ終えた者たちが、浅草寺の方へ向かい歩き始めていた。


荷を運ぶ男たちの中の、黒い外套を羽織った男が、不自然に注意をひく。





「まずい。私たちはこのまま追う。玄之介は急ぎ警察へ、このことを」


「承知しました」


不安そうな面持ちで、玄之介は清雅を見やったが、そのまま踵を返し人混みの中へと消えていった。




「行こう」


元輝は足早に、縫うように人混みを進んでいく。




(あの荷が全て鉄砲であったなら……)




とんでもない数だ。




これは……ただの悪行を働く者ではない。


清雅の脳裏に、相良から教えられていたテロリスト集団のひとつの名が浮かんだ。




(西洋派鉄砲集団)




やっかいな場面に立ち会ってしまったものだ。

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