第二十四話 両国橋でのできごと
「この船の数は圧巻だな!」
元輝は、橋と川を交互に見やりながらため息をついた。
両国橋は、花火を見に来た"うちわ"を持った人たちでごった返していた。
見物客を乗せ、提灯を下げた船が、隅田川を埋め尽くしている。
「よく、これだけ人が歩いても、壊れないものですね」
清雅は、途中で手に入れたうちわで顔を仰ぎながら、橋を往来する人の波を目を細めながら流し見た。
「毎日、花火や屋台が出ているなんて、江戸は景気が良いね」
「お涼みの期間だけですが」
うろうろ船が行き交う姿を見ながら、元輝は「何隻あるのだろう」と指で数える、気の遠くなるような作業をしていた。
「……」
「どうしました?兄上」
ふと、元輝が動きを止めた。
「いや、あの船……」
身を乗り出し、川に目を向けたまま、早足で歩き始めた。
「今、あそこで何か光った」
「そうですか?」
清雅は、うちわで首のあたりを仰ぐ。暑くてたまらない。
「ほら、まただ。あれは何だ?」
元輝のただならぬ気配に、清雅もあおぐ手を止め、指差すほうに視線を向ける。
「荷を運んでいる船のようですが……」
箱のひとつに視線が止まる。
「あれは……」
ぞくりと、背筋に冷たいものが走った。
(いやいやいや。ここでは見たくない)
楽しい気分が一気に吹き飛ぶ。
船は不自然に、ひっそりと岸の方で、荷を下ろしていた。
「……あれは鉄ではないか」
「……」
「長い箱だ。あの光り方……銃身かもしれん」
元輝の静かな声に、清雅は兄の袖をひく。
「かかわらない方が良いです」
元輝は思わず清雅を見た。
「清雅……警察であろう?」
「……」
(忘れておった)
九曜がため息をついた。
「私が今から隊長に報告に行きますので、兄上はここで待っていてください」
「それでは間に合わん。ほれ、荷をどこかへ運び出そうとしている」
元輝の足が早まった。
あの場へ行こうとしている。
「兄上、危険です。ここは……」
「危険なことはせん。せめてどこへ運ぶかを見届けなければ。
ここで見失えば、どこかであれが、人の命をおびやかすのだぞ」
元輝の真摯な目が清雅を射抜いた。
「武士として、見て見ぬふりはできぬ。」
(兄上は、そういうお方だ)
元輝は武士だ。
自分に恥じる行動は起こさない。
「では、場所だけ特定しましょう。その後は、警察に任せるべきです」
ふいに、清雅の肩を誰かが強くひいた。
「私があとをつけます。お二人は警察所へ」
振り返ると、玄之介が立っていた。
「玄之介、お前いつからそこに?」
「申し訳ございません。お二人の後をずっと……」
清雅の問いに、玄之介は本当にすまなそうに頭を下げた。
「玄之介は、まじめだからな」
元輝は気にしていないような素振りで、歯を見せると、両手を袖に入れ真面目な顔をした。
「なら、玄之介が警察所へ向かってくれ。私と清雅で後を追う」
「それは、なりません」
「いや、警察である清雅が、みすみす現場を離れて警察所に向かうなど、良くは思われまい」
「確かに……」
元輝は、警察での清雅の立場も考えていた。
三人が話しているうちに、荷を大八車だいはちぐるまに乗せ終えた者たちが、浅草寺の方へ向かい歩き始めていた。
荷を運ぶ男たちの中の、黒い外套を羽織った男が、不自然に注意をひく。
「まずい。私たちはこのまま追う。玄之介は急ぎ警察へ、このことを」
「承知しました」
不安そうな面持ちで、玄之介は清雅を見やったが、そのまま踵を返し人混みの中へと消えていった。
「行こう」
元輝は足早に、縫うように人混みを進んでいく。
(あの荷が全て鉄砲であったなら……)
とんでもない数だ。
これは……ただの悪行を働く者ではない。
清雅の脳裏に、相良から教えられていたテロリスト集団のひとつの名が浮かんだ。
(西洋派鉄砲集団)
やっかいな場面に立ち会ってしまったものだ。




