第二十二話 相良の背
清雅が相良の部屋へ向かうと、相良の部屋の前の庭に、誰か知らぬ人が立っていた。
(第一隊の人かな)
男の顔が、見えるようで見えない。
(相良隊長に用事がある?ようには見えないか……)
気にはなったが、そのまま相良の部屋へ足を向けた。
顔を上げると、先ほどの庭にいたはずの男の姿は消えていた。
代わりに、佐倉が相良の部屋から出てくるところだった。
「清雅くん。倒れたと聞いたが大丈夫か?」
佐倉は障子を閉めながら、清雅のつま先から頭までを、ゆっくり見下ろした。
「疲れが出たかな?希望があれば休みをとることもできる」
「あ……いえ。私だけ、そのような特別扱いはちょっと……」
頭を下げると佐倉の横を通り過ぎ、部屋の障子に手をかけた。
「そういえば……」
清雅は、さきほどの庭に立っていた男の話をしようかと佐倉をふり仰ぐ。
「相良くんは今、物思いにふけっているから、大事な話なら後の方がよいかもしれないよ」
佐倉に先に話をされ、清雅はなんとなく言う機会を逸してしまった。
「はい。ありがとうございます」
障子を開けながら「相良隊長」と声をかける。
「おぉう」
返事はするが、こちらは見ない。
「さっきは、すみませんでした」
その言葉に、相良は視線を清雅にうつした。
「清雅か」
ふっと表情をやわらげ、白い歯をみせた相良は「怪我がなくて良かった」と独り言のようにつぶやいた。
「今日は帰れ」
「はい」
「あとな」
相良は喉のあたりをボリボリかく。
「あやかし連合の一件は、ワシも出る」
そう言って、遠くの方を見た。
何か別のものを見ているような、静かな揺らぎのない目。
「そうですか」
(相良さんは、隊のことを全て背負っているのだろうか)
ふと、相良の背中にそんな重みを見て、清雅は唇をかんだ。
(俺がもっと、しっかりしていれば、相良さんが、この件で動くこともなかったかもしれない)
「どうした。まだ何かあるか」
背中に視線を感じたのか、相良は清雅を見ると出ていくように、手を振った。
「いえ」
清雅は静かに部屋から出て行った。
「若!」
家に戻ると藤乃がかけより、清雅の上から下をほこりを払うように叩く。
「妖と出くわしたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「ああ、あれは黒崎さんが倒してくれました」
「そうですか」
藤乃は胸をなで下ろし、小さく笑うと炊事場へ戻っていった。
「元輝様がこちらへ向かっていると、手紙がきました」
袖をたくしあげた玄之介が、庭から清雅の方へと歩いてくる。
「兄上が?」
清雅の顔がぱっと華やいだ。
「江戸にご用事でも?」
「そこまではわかりませんが……」
玄之介は少し言いよどむと
「元輝様は、清雅様が大好きでおられますから……」
と、言葉を濁した。
「知っておる!」
清雅は軽い足取りで自分の部屋に行き、九曜を刀掛けに置くと、ふすまの奥からゴソゴソと何かを取り出した。
『冷たいもんじゃな。ワシのことは、物のように扱う』
「嬉しい時も、心が沈んだ時も、これを読むに限る」
九曜を無視して、取り出したのは
『あぁ。またまんが本か』
清雅はごろりと畳の上を転がった。
「兄上、早く会いたいものだ」
そう言って、兄弟の絵がかかれた本のページをめくる。
その頁には、兄弟が共に、悪と戦う絵が書かれてあった。
「ここにはな、鉄砲がかかれている。
自動車という機械に乗って敵を狙うが、この自動車がまた遅い!」
『今までのストレスを、すべてこの時間で帳消しにしようとしている』
九曜はため息をついた。
『ある意味、心が強いということか』
「俺も、兄上と一緒に、鉄砲を持つ敵と格好良く戦ってみたいものだ」
そして、その願いは叶えられることとなる。




