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明治維新がこなかった....  作者: yuyuko50
第二章 陰陽の力
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第二十一話 思想

「で、上からは、黒崎について厳しく言われている」


佐倉(さくら)は相変わらず事実だけを述べる。




相良は少し困った顔をした。




部屋の中はじりじりと暑い。


締め切っているため、空気がこもっているのだろう。




「お上かみがどう言おうと、黒崎は優秀だ」


相良はあぐらをかいた。




その足元を見て、佐倉が眉をひそめる。




(とし)、お前、その足の傷はどうした?」




「あ?」




自分の足を見て、初めて気づく。




「あぁ。


年甲斐もなく庭で走り回ったからな」




言って、足についた泥をその場で叩いて落とした。





「とりあえず、黒崎は今のまま自由にやらせる。


将来的には清雅にも、同じように陰陽師の力を使ってもらっても、かまわねぇと思っている」




「やるなら、目立たんようにやってくれ」


佐倉はため息をついた。


この男には、何を言っても無駄だろう。




「それより(とし)、うち(警察)で、その"呪"やなんやらの力を使うことを、お前はどう考えている?」




お上があれこれうるさい。


武士の時代に、わけのわからない力を使うことに、不安を抱くものが多いのだろう。




しかし、あやかし連合と戦うなら、こちらもそれ相応の知識がいる。


そこまでは佐倉も理解している。





「どうって。佐倉さん。


ワシは今回の件に限らず、使える力は何でも使うべきだと思っている」




相良の眼光がするどく光る。


思案している時に見せる表情だ。





「今は幕府が上だが、その時代がいつまで続くかはわからん」




佐倉は顔を相良にむけたまま、しかし目は周囲を警戒し始めた。




「せめてワシら、下の命を預かるもんは、広い目で世の中を見ておく必要がある」




外の蝉の鳴き声が一瞬やんだ。


佐倉は障子に向けていた意識を相良に戻す。




「それはつまり?」




「国を守る力が、刀だけとは限らん。


常に意識して、そこを育てておく必要があるってことだ。


幕府の犬になる必要はない」




佐倉はため息をついた。




「まあ。


全ては否定せん。しかし、全てを納得することもできんな」




佐倉はそのまま立ち上がった。




「賢いお前のことだ。


そこらへんの舵取りはうまくやってくれるんだろ?」




「あぁ」




相良はもう佐倉を見てはいなかった。


相良の意識は、国を守る本当の力は何かを思案する、思考の渦へと沈んでいった。







暗い部屋の中、清雅は目を覚ました。


宿舎として使っている部屋の片隅に敷かれた布団で寝かされていたようだ。




ふと障子が開いて、高岡が顔を出した。




「起きてた?」




清雅は身を起こす。


頭がぼんやりと痛い。記憶が飛んでいる。




そばに来た高岡が、持ってきた湯呑みを手渡す。


「喉、渇いてる?」




「ありがとうございます」


清雅は自分の頭のあたりをさわった。




「私、高岡さんに殴られて気絶しましたか?」


「違うわっ」




刀掛けに置かれていた九曜の咳き込む声が聞こえる。




「相良隊長に、様子を見に行けといわれて来ただけだ。


元気そうだから、俺はこのまま行く」


ふと、立ち上がると同時に清雅を見下ろした。


「そうそう、お前はもう帰れと、相良隊長からことづかった」




そこで、ふっと目を細めて、多少いじわるそうな顔をした。


「途中で死ぬなよ」





(高岡……)


清雅は布団に座ったまま、軽く会釈した。






「相良隊長が……俺に?」


高岡が閉める障子の音を聞きながら、


記憶をたどるように自分の湯呑みをもつ指先を見つめる。


しかし、黒崎との会話と、相良の足元の傷の記憶しか思い出せない。





「とりあえず、相良隊長に謝ってから帰ろう」


何をしたかは覚えていないが、謝っておくにこしたことはないだろう。

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