第十七話 人ではないもの
活動写真を持った男が皆の前に進み出る。
恒例の行事だろうか、当たり前のように拍手が起こる。
男はうやうやしくお辞儀した。
(いよいよだ)
心臓が高鳴る。
『知らんぞ。恐ろしい。呪われるぞ』
(呪いの刀がよく言ったものだ)
『誰も呪っとらんわ!』
―― 次の瞬間、
カタカタと機械のような音が部屋の中にこだまする。
ガタ……ガタ……。
音が急に大きくなる。
(活動写真って、音がすごいんだな)
ガッタンガッタン。
(いや、すごすぎるだろ)
ガッコンガッコン。
―― ?
音は後ろから鳴り響く。
「なんだろう」
ほぼ同じタイミングでその場にいた全員が後ろを振り返った。
―― シュー。シュー。
そこに立っていたのは、
人の三倍はあろうかという巨大な顔を持つ『落武者』だった。
鎧の隙間から腐った肉が覗き、血の滲んだ目が"ぎょろり"と動く。
そして、ガッコンガッコンと、薄暗い部屋の中、体全体でこちらを見下ろしている。
口から地獄の炎をちらつかせ、六本の刀が不気味に揺れていた。
―――――― 『!!!?』
「ばけ……もの……」
誰かの一言で、その場が一瞬で凍りついた。
『キャアアアアアアア!!』
遅れて恐怖の叫び声が鳴り響く。
その声につられ、落武者は、さらにガタガタと顎と首をゆらし始めた。
キイシェエエエ!!!!!!!
暗い部屋に、激しい音と、口からちらつく炎が巻き起こる。
暗闇の中で炎が弾け、六本の刀が同時に振り上がった。
「みんな!壁際に!!!!」
一ノ瀬が刀を抜き放つと同時に、雷のようなスピードで落武者の前に立ちはだかった。
『いかん。あんなものと、まともにやり合うな』
「どうすれば?」
清雅はすかさず九曜を抜いた。
落武者は六本同時に刀を振り上げ、一ノ瀬向かって叩きつける。
素早く避けた一ノ瀬の足元に、刀全てがめり込んだ。
「全員、今のうちに階段から上へ上がって」
床にめりこんだ刀の横を走り抜き、一ノ瀬は落武者の脇腹に滑り込む。
瞬時に下から上に斬り上げた。
まるで空気のように、刀は何もとらえない。
「斬った感覚がない....」
(どうやって戦う?)
一ノ瀬の心臓の鼓動が早くなる。
「こっち!」
レイさんが皆を先導する。
十数人の男女は一気に階段に向かって落武者の前を走り抜けようとした、その時。
ブォオオオオオオオオオ――――――
落武者の口から白い煙が吐き出され、一ノ瀬や逃げようとしている人間たちを包みこんだ。
「一ノ瀬さん!!」
清雅は素早く袖で口を塞ぐ。
―――――― 毒ではない
しかし、煙がはけると、逃げ遅れた人たちと一ノ瀬が倒れていた。
『妖霧か』
「俺には効かない」
『ほぉう。お前は、妖の世界に慣れている』
口は動かないが声が聞こえる。
「話せるのか」
『元は人であったからな』
落武者の暗い目が清雅を捉える。
清雅は慌てず、走らず、じりじりと落武者に寄り、落武者の足元で倒れている一ノ瀬を抱き起こした。
ぐったりして動かないが、息はある。
「お前は誰だ。なぜここへ来た」
一ノ瀬を壁際に横たえ、清雅は落武者から視線を外さず刀を軽く構える。
『ここが、うってつけだからだ』
落武者はケラケラ話した。
『ここで始める』
(……?)
ふと、袴の裾が引かれた。
視線を落とすと、一ノ瀬が薄く目を開き、震える指で裾を握っていた。
「逃……げ……ろ」
絞り出すようにそう言うと、その手から力が抜け、静かに床へ落ちた。
「一ノ瀬さん……」
清雅は、いの一番に化け物に挑む一ノ瀬の姿を思い起こした。
(俺がやるしかない。
俺が、この人たちを守らないと……)
清雅の心に、責任という重みがずっしりとのしかかった。
(この化け物と、戦えるのか……?)




