第十六話 秘密の部屋
一ノ瀬に連れられて清雅は団子屋に入った。
中は侍や商人でにぎわう、ごく普通の甘味処だ。
団子を焼く良い匂いが鼻をくすぐる。
「あっちだよ」
二人は奥へ進むと、暖簾の裏側の細い廊下を突き進んだ。
「勝手に入っていいんですか?」
「うん。ここの地下に、西洋好きが集まる秘密の部屋があるんだ」
廊下の突き当たりに真っ暗で先が見えない階段が現れた。
カビの匂いだろうか、先程のお店の空気とはずいぶん違う。
地下へ続く階段を降りると薄暗い空間に出た。
「まるで牢屋ですね」
さして広くもないその部屋。
空気の冷たさが、衣の上からでも伝わってくる。
「これ、バレたらかなりマズくないですか?」
秘密結社のような、危うい空気感に清雅の度胸が揺らいだ。
「相良さんにだけは知られたくないな」
一ノ瀬にとって、相良隊長は特別なのだろうか。
「相良隊長と仲が良いんですね」
清雅は探るように一ノ瀬に話をふった。
「仲が良い?」
一ノ瀬は、にっこり笑顔のまま眉をひそめ「違うよ」とつぶやく。
「そうだなぁ」
小首をかしげ、悩む仕草をする。
「僕は、あの人の"刀"なんだ」
その表情からは信頼と尊敬、そして別の何か違う感情も読み取れた。
少し風が吹いたような気がして、清雅は身震いした。
「僕は相良さんの役にたつために存在するんだ」
一ノ瀬の目に光が帯びる。
「相良さんを困らせる奴は」
心なしか声が低くなる。
「誰であろうと許さない」
何もない暗い空間をみつめる一ノ瀬の目から、ねじれた不可解な空気を感じ、清雅はゾクリとした。
「でも……」
(一ノ瀬さん……。
相良隊長を、めちゃくちゃ裏切って活動写真を見ようとしてるけど……。
そこはいいんだ……)
『それを言葉にすると斬られるぞ』
九曜が疲れたようにため息をついた。
背後が騒がしくなったかと思うと、数人の男女が部屋に押し寄せた。
「あれ?紫苑、今日はお友達連れてきたの?」
高価な着物に身を包んだ女の人が、一ノ瀬の頭をなでる。
「ちゃんとご飯食べてるの?」
言って、一ノ瀬の腕を「細すぎるわよ」と軽く掴んだ。
着物から見ても、そこそこ身分のある者だろう。
「レイさん。この子、僕と同じ歳なんです」
一ノ瀬はすごく嬉しそうに、可愛い笑顔で「レイ」と呼んだ艶やかな着物の女をみつめた。
「そう。安心したわ。あんなむさ苦しいところで、いけない大人たちとばかり過ごしていたから。でもちゃんと友達もいるのね」
(いけない大人たち……
それって警察所のことですか……?)
心の中で激しく動揺する清雅。
レイは清雅の顔を覗き込む。
「あら、品の良い。あなた、どこの出身?」
少し開いた襟元から白い肌が見え、まるで雪のようだ。
清雅は頬を真っ赤にしてレイから顔をそむけた。
「あらあら。まあいいわ。紫苑と仲良くしてあげてね」
さらに耳元に口を近づけてくる。
「もし紫苑を裏切ったら」
優しげな目が清雅を射抜く。
―― 「殺すから」
ドスの効いた声でささやいた。
清雅は固く目を瞑った。
(これ、友達の押し売りだ!!)




