第十五話 非番の日の悲劇
警察所所長の佐倉と、第一隊隊長の相良が部屋に姿を現した頃には、清雅は畳の上で正座していた。
「今日は休みです」
たんたんと、しかし、己の権利を主張する清雅。
「非番とは、休みという意味ではない」
相良はその場にあぐらをかいて座った。
「清雅くん、すまないな。どうしても火急の用があってな」
佐倉の前にお茶を出しながら、藤乃は相良を見た。
どちらが上司かわからない態度である。
「あやかし連合が動いた」
相良は形の良い眉をひそめ、外に声が漏れるぬよう身をかがめた。
「なんですかそれ?」
「おまえはもっと、警察の自覚をもてぃ!!」
急に怒鳴る。
「あやかし連合とは、江戸を騒がす三大テロリストのうちのひとつ。妖との共存を示唆する団体だ」
(妖との共存……良いではないか)
清雅にはテロリストと言われる意味がわからない。
「今の時代、妖が見える者の方が少ない。それと共存となると、秩序が崩壊する」
佐倉が清雅の意図を汲み取ったように説明する。
「あいつらは……つまり」
相良が顎の下あたりを掻いた。
「天皇を中心とした、神代の国へ戻したいと考えている派閥だよ」
佐倉はため息をついた。
「そして、今の日本に必要なものは、”妖、呪術、神術など、古代の力”だと信じている」
この武士の時代にだぞ。と相良はうんざりしているが、清雅はその考えがわからなくもない。
(これだけ西洋に差をつけられて、日本が今も生き残るには、その地に根付く力に立ち返るのが一番なはずだ)
『その思想は危険だぞ』
九曜が釘をさす。
『その考えは、尊王攘夷の連中と紙一重じゃ』
清雅と九曜の頭の中の会話は誰にも聞こえない。
しかし、先ほどから相良は清雅の顔を、じぃーっと見ていた。
「清雅。お前の身分は佐倉さんから聞いた」
清雅は思わず佐倉を見た。
「相良と一ノ瀬だけに伝えた。この二人は大丈夫だ」
佐倉のやわらなか表情とはうらはらに、相良は清雅をにらみつけたままだ。
「公家の家に生まれ、武士となり、陰陽師の血も引くお前に、この件を任せたい」
「え……」
相良は視線を清雅からはずし、奥の座敷へ目を向けた。
そこには、玄之介と藤乃が静かに立っている。
「公家の人間を死なせたとなれば、ワシの腹だけじゃ済まん」
相良は聞こえるように言い放つ。
「存分に死んでこい!!」
そう言って豪快に笑った。
佐倉と相良が帰ったあと、清雅は畳の上に寝転んでいた。
(警察所にはたくさん人がいるよな)
『第五隊まであったな』
(なんで全部、俺に仕事がまわってくる?)
『別に仕事の全てが、主にまわっている訳ではないじゃろ』
(じゃあ、もっとたくさん事件が起こっていて、その一部が俺のところに来ているだけということなのか……)
思っているより江戸は騒がしいらしい。
「面倒だな……」
思わず本音が口をついて出た。
「きーよまさくーん!」
戸口でやたらと明るい声がする。
「えーえぇええええぇ」
清雅は真顔で急に立ち上がると、部屋の奥の方へ走って逃げた。
「一ノ瀬隊長!?」
驚いたような藤乃の声がする。
藤乃は警察所の人間の顔と名前を、ちゃんと覚えているのだ。
「清雅くんいますか?」
あがれと言われていないのに、帯剣したまま中に入ろうとする一ノ瀬。
「若様はさきほどまで、いらしたはずなのですが……」
「若様って呼ばれてるんだ?」
一ノ瀬がくすくすと笑いだす。
(藤乃、追い返して)
清雅は暗がりの中に身を潜めた。
(なんで次から次へと来るんだよぉ)
「清雅くん!一緒に出かけないかー?」
今度は中から声がした。
突破されたらしい。
「どうしても見せたいものがあるんだ」
逃げきれないと思い、清雅はすごすごと一ノ瀬の前に進み出た。
「あの、私は今日……」
「非番です……だろ?」
一ノ瀬の刀は藤乃が無理やり預かっていた。
「活動写真って知ってる?外国から来た動く絵なんだけど」
藤乃の顔が引きつった。
「一緒に見に行こう!」
「えぇ?」
清雅の目がぱっと輝いた。
「そんなことが……。見れるんですか?活動写真を??」
清雅の反応を見て、一ノ瀬の笑顔が弾けた。
顔が高揚して、耳や頬が紅葉のように赤くなる。
「すごいだろ!絶対よろこんでくれると思った!」
言って、清雅の手を右手でとった。
左手で藤乃から刀をひょいと受け取ると、すごい力で清雅を引っ張る。
「ちょ……、私はまだ何も用意がぁぁぁ……」
そのまま一ノ瀬にひっぱられながら、大通りへと飛び出して行った。
あっけにとられた藤乃の横を
「せめて刀をお持ちください!」
と、玄之介が九曜を持って走り抜けて行った。




