第十四話 決着
「春成さん……」
清雅は動かなくなった巨体を見つめる。
(殺さなくてもよかったのでは……)
「生かしておいても、武士としては屈辱的な最期しかない」
心を読んだように一ノ瀬が清雅を見やる。
「それより、二人とも無事でよかった」
明るく言うと、懐から取り出した懐紙を手でもみ、高岡の脇腹に押さえつける。
「清雅くんも、ほら」
肩口に懐紙を押さえつけながら、手持ちの布を手際よく巻きつけた。
「慣れていますね」
一ノ瀬はなんでもできる。
いったいこの人は、いくつなんだろうか。
「高岡くんと、青木くんのあとを、つけてたんだけどさー。
途中で見失ってしまって」
一ノ瀬は悪びれもなく舌を出した。
「じゃあ、初めから春成さんを疑っていたんですか?」
清雅は高岡の手当てを手伝いながら一ノ瀬の顔を見る。
「疑うところしかないでしょ」
「じゃあ、相良さんも?」
「あの人の命令で僕が動いた」
清雅は春成と行動していたが、普段の温和な態度を見ているだけに、人斬りであるなど想像もできなかった。
(相良さんが何を考えているのか、俺には理解ができない)
『主はまだまだ青二才ということじゃ』
清雅には言い返す言葉もない。
「青木くんは、初めて人を斬った日から太刀筋が変わった」
一ノ瀬は布を懐にしまい直した。
「壊れる者もいる。しかし、それを乗り越えないと国は守れない」
そう語る一ノ瀬の瞳には、年齢には似つかわしくない覚悟と、数えきれない命を背負ってきた者だけが持つ、静かな厳しさが宿っていた。
その日の夜は宿舎に泊まった。
次の日は非番であったため、久々に玄之介げんのすけと藤乃が待つ、借家へと戻った。
「広い!自由だ!」
嬉しさのあまり、畳の上を転がる。
『中身は腐ったままじゃな』
九曜を無視して、久々のまんが本を開く。
「俺はこの時のために生まれてきたのだ」
『前回の反省もせず、糞じゃあ!お主は糞じゃ!!』
「前回の反省といえば、適宜おのれの好きなことをせねば、精神が持たんということじゃ」
九曜はげっそりして、言い返すことを諦めた。
「清雅ー!!!おるかー?」
束の間の幸せを噛み締めていた瞬間、聞き慣れたやる気のない、それでいてドスの効いた声が響き渡った。
「佐倉様に、相良様」
戸口で、藤乃の驚いた声が出迎える。
「なぜぇー!!!!」
『幸福は一瞬で終わりを告げたな』




