第十三話 修羅場
『覚悟を決めい!』
九曜の声も清雅の耳には届かない。
春成は青眼に構え、完全に目が据わっている。
『いたしかたない』
気が進まないが九曜は清雅の体にのりうつった。
―― 憑依。
清雅の体がビクンとふるえる。
赤く光る剣のゆらぎが、清雅の体全体をとりまく。
「清雅の奴、剣にのっとられたか?」
高岡は脇腹を抑えながら、その目は清雅に釘付けだ。
(九曜!何をした?)
清雅の意識はある、しかし体が自分のものではないようだ。
いや、正確には、自分のものであるが、その血肉、身体の記憶、神経が他の誰かのものと入れ替わったような感覚。
九曜の記憶が一挙に頭の中に流れ込む。
―― 戦国時代
数々の血生臭い戦い
命の駆け引き
陰謀――
(なんやこれ、頭の中がぐちゃぐちゃになる)
『よう見とれ。これが真の戦場じゃ!』
言うと、清雅の体は素早く春成の左脇の隙を狙った。
―― 殺 ――
その突きに一縷いちるの迷いもない。
(やめろ!)
心は叫ぶが、体は動く。
目は避けようとするが、眼球は正面を向く。
急変した清雅の動きに、春成に隙が生まれる。
体を斜めに素早く倒し、清雅の剣をすりあげるが、避けきれず胸元に血飛沫があがる。
「清雅くん、本気になったか」
春成の顔が一瞬、いつものふっくら笑顔になる。
そして、するどく腕を狙ってくる。
それを交わす剣で再度、清雅は春成の頭上を狙う。
((殺したくない!!!))
―― 頭に叩きつけろ。
気持ちとは裏腹に、勝つ道筋。
殺す一太刀が脳に描かれる。
春成は頭上の太刀筋をよみ、太い体でなんなくかわした。
『よい!』
『それでこそじゃ!』
九曜の興奮気味の声が清雅にはうっとおしい。
春成の右肩がわずかに上がる。
次は袈裟斬り。
その次は左薙ぎ。
体や足さばきから、すべての動きが先に見える。
―― 春成は正眼の構え。
ぴたりと剣先を清雅の喉元につけてきた。
((もう、やめてくれ!!))
清雅の体から、ものすごい殺気が放たれる。
九龍が繰り出す剣技は、技だけではない。
―― 相手の気力を削ぐ、圧倒的な「圧」。
「こりゃあ、春成さんは勝てない!
この、百戦錬磨の武将のような気合いは本物じゃ!」
高岡は興奮した。
この時代に、このような気概のある、本物の決闘が見れようとは!
春成の額に汗が滲む。
―― 蛇に睨まれた蛙。
もはや技は清雅が格上であることは、誰の目にも明らか。
わずかに春成の剣先が揺れる。
『今じゃ!』
春成の胴をめがけて、一直線の鋭い剣先が滑り込むように ―― !
ヒッュン ――
清雅の動きが止まった。
いや、止めた。
今のは確実に腹をかっ切るところであった。
清雅は渾身の精神力をもって、春成への一太刀を防いだのだ。
『清雅ー!!戦いを放棄するでない!!』
春成がニタリと笑う。
「清雅くんは、やっぱり女みたいだ」
瞬時に頭上から剣が振り下ろされた。
―― ザクッ!!!
清雅の目の前で血飛沫が舞が上がる。
「そうかなぁ?」
場違いな明るい声。
女性のような白くて細い腕から、恐ろしいほどに鋭い一閃が繰り出された。
「清雅くんは、れっきとした男だよ」
いつの間にか春成の背後に回り込んだ一ノ瀬が、春成の胴を深々と切り裂いたのだ。
どさりと倒れる春成。
「一ノ瀬さん」
清雅と高岡は茫然と第二隊隊長を見つめた。
刀を振るって血を落とし、それを肩にのけると、一ノ瀬は可愛い笑顔で「間に合った」と笑うのだった。




