第7話 卒業?
夏、到来。土地柄の恩恵で梅雨は無く、この日からという明確な区別は難しいが、この胸を焦がす熱気は確実にサマーである。制服も涼やかな夏服に代わっており、おサルさんもウキウキと盛り散らす中、私は、
「おはよー」
教室に入るなり、軽やかに挨拶を交わす。以前の私なら考えられないような明るいトーンで、誰が相手でも貴賤無く声を掛ける。そして勢いのまま、毎日毎時のルーチンワークとして、自分のスカートの裾をふわりと持ち上げた。こうして、今日の風を招く。
「おはよう」
「おはよ」
「うぃーす」
ここに至っては皆、見えようが見えまいが、穿こうが穿かまいが、あまり気にしなくなっている。私のスカートめくりは、クラス文化として定着した。追随する者は皆無なので、私の換気は依然として理解の埒外な奇行であるに違いないのだろうが、そういう人もいる、目の前にいる、と、多様性の一つとして、受け入れられるに至っていた。狂気の凪である。
これはこれで、どうなのかと感慨する昨今、パラダイムシフトは、意外なことに、担任教師から齎された。
「いいか、明日は今年初のプールの授業だ。水着は絶対忘れるなよ。忘れたやつは裸で泳いでもらうからな、ははは」
帰りのホームルームの時間、担任の先生が放った言葉は、昭和の時代から続く使い古された冗談だった。教室には、いつものように「やだー」「セクハラだぞー」なんて乾いた笑いが漂う。けれど、その瞬間、私の頭の中で何かがカチリと噛み合った。
「あ、これだ」
閃きは、稲妻のように私の意識を貫いた。
私は弾かれたように、誰よりも勢いよく、真っ直ぐに右手を突き上げた。
「はい!先生!」
「どうした、朝倉、珍しいな。何かしたか?」
「はい。明日、水着忘れましたっ!」
「は?」
先生は真顔で疑問符。一方、勝手知ったるクラスメイトたちの間にはじわじわと、ざわざわと理解の波が広がっていた。とくに林さんあたりは、「コイツ、やりやがった」と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「忘れた?明日に?」
「はい。忘れました。忘れます。脱ぎますね」
私は流れるような動作で、夏の制服に手を掛ける。最近は成長著しいふわふわのお胸の片方が、つるんと外に零れたところで、
「ま、待て!明日だろ?明日にしてくれ」
先生が慌てて止めた。
「わかりました」
それを聞いた私は、矛?を納めて着席する。
すると、
「クッ、アハハはははっ!」
ここで、堪え切れなくなった一人の男子生徒が大きな笑い声を上げた。この声は、言うまでもなく、韮沢某氏である。釣られて、クスクスと別のあちこちからも笑い声の輪が広がった。
なんだ冗談かと、先生はそんな苦笑をしていたが、勿論違うことを私たちは知っていた。彼は私が、明日という言質を取ったから座った事に気付いて、笑ったのだ。
そして翌日、私は伝説となった。
これで春先からの騒動も、ひと段落の決着。私が担当する「スカートめくり係」及び「めくられ係」も役目を終えて、半ば強制的に卒業である。
何故なら、もうめくる布が無いから。




