第7話 7通目の手紙
拝啓 ミスター宇宙人様
僕は恋愛したことがないのだけど、したいとも思わないのだけど、恋愛ってどういうものなのかな? 君の星でも恋愛ってあるのかな? 恋愛すると楽しいのかな、哀しいのかな、苦しいのかな? こんなことを君に尋ねるのは恥ずかしいけれど、恋愛について聞ける相手が僕にはいないので尋ねているんだ。
僕が社会と隔たって引きこもっているうちのひとつに恋愛を恐れていることもある。もし僕に愛する人ができてしまって彼女(或いは彼でもいいか)に大切な時間を奪われてしまうとする。それが僕には怖いんだ。引きこもっているのにどんな大切な時間があるんだと思うだろうね。僕は不浄な社会から身を離して時間と思考をきれいなままにしておきたいんだ。もしその時間や思考が誰かに犯されたとしたらそれらは不純になる。せっかくの僕だけの大切なものが僕だけのものじゃなくなる。それが我慢できなくて僕は恋愛を受け入れられない。もっとも、僕が忌避しなくても僕を愛してくれるひとなんてこの星にいるはずがない。僕はここでは立派なはぐれものなんだから。いまでは家族も僕を疎んじているし僕も彼らを疎んじている。だから僕に愛が近寄る心配はない。
なのに、知らなくていい恋愛を僕は君に尋ねる。
僕は君に恋しているのだと思う。それがここの恋愛と同じものなのか僕にはわからない。僕はこの星のひとと恋愛をしたことがないから。そしてこれが僕の初恋というやつだと思う。君の顔も声も姿も僕は正しく知らない。だけど僕のイメージには君がパーフェトな存在としてある。君は女性でも男性でもなく僕の憧れのひとだ。
これを恋愛としていいのなら救われる。僕にも愛することができる感情が備わっていると自覚できるから。
大切な時間を君に奪われているとしても、不純だとも思わないし損した気持ちにもならない。現に僕はこうして君に何通の手紙を書いたことか。その時間は僕に潤いを与えこそすれ乾きは覚えさせない。大切な時間が大切に使われている。
ねえ、これが恋愛という感情なのかな? それとも違ったものなのかな? 経験のない僕にはわからないけど、君を愛しく思っているのは確かだ。そして僕は哀しくも苦しくもない。また楽しくもない。ただ君の返事が欲しいだけ。
きくっち
僕はこの手紙をくしゃくしゃにまるめて窓から投げた。紙ひこうきにするほど心は落ち着いてはいられなかった。




