第4話 4通目の手紙
拝啓 ミスター宇宙人様
僕の毎日にはほとんど何の変化もない。この部屋から出ず誰とも会話せず社会の出来事にも通じていない。そんな僕に外部からの変化がおきるはずがない。だけど聞いてくれるかな。昨日こんなことがあったんだ。
小学校の時の友達が突然尋ねてきた。僕の家はリバーサイドのマンションで建物の住人以外が無断で入ることはできない。入ろうとするなら1階からインターホンを通じて住人の了解を取らなければならない。はりやん(それが彼の小学校時代のニックネーム)は僕の家のインターホンを鳴らしたらしい。誰かの家と間違えたんじゃないかと思ったけど、「きくっちいますか?」と馴れ馴れしくも僕の君だけに呼ばれたい愛称を勝手に使って尋ねてきたらしい。母は驚いて僕の部屋の扉越しからそれを知らせに来たけれど、僕はまったく信じなかった。
僕に本当の友達なんていなかったから。はりやんのことは覚えている。だけど彼とは当時からきくっちと呼ばれるような関係だったか忘れた。呼んでいたとしてもいまの僕に彼からきくっちと呼ばれる所以はない。
これを書いていて思い出したんだが、確かはりやんとは5年生の時に大喧嘩してそれ以来絶交していたんだ。喧嘩の原因は僕の机に掛けていた手提げ鞄がその日持参していたサッカーボールで膨らみ彼の机との間の通路を狭めいわゆる彼のスペースを侵害しているということだった。彼が僕のサッカーボールを鞄ごと蹴り飛ばしたので僕も彼の鞄を蹴り返した。蹴りは鞄から互いの体に変わり、はりやんと僕は互いに憎たらしい相手の領域を蹴り合った。ちょうど僕の住む島国が大きな領土を持つ国々と小さな諸島をめぐって領有権を争っている頃で、どうも古来からこの星の人たちは自分固有の領土を少しでも広げたがる性質があるみたいだ。はりやんと僕の喧嘩も性質は同じだ。
そのはりやんがいまさら何の用だ? 結局僕ははりやんとは会わなかったが、面会を断った母が僕の部屋の扉の隙間に、はりやんからの言伝を置いて行ったんだ。
それには、「どうそうかいをやるのできてくれ」と乱雑な文字が踊っていた。僕にはどうそうかいの意味がわからない。それは領土問題で争っている者たちが同じテーブルについて解決策を見出しましょうという平和的なものだろうか? 領土どころか社会生活まで放棄した僕にいまさらどこの会合に出席しろというのだろう? はりやんの意図がわからない。彼はただの案内を触れる使節だったのだろうか?
この一件君ならどう思う? また君の星にも領土問題はあるのだろうか? よければ教えて欲しい。
きくっち
今日も僕は紙ひこうきを高層マンションから投げ飛ばした。航行のあとは追わなかった。届いているから。




