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第11話 11通目の手紙

 拝啓 ミスター宇宙人様


 うちのひまわりが死んだ。草花じゃないよ。17歳のメスの柴犬だった。僕が3歳の時に、両親が番犬を欲しいと言ってペットショップで探してきて、それなら柴犬がいいと店員に勧められて飼った犬だ。以来ずっとうちで一緒に暮らしていた。果たして集合マンションで中型犬を飼ってよろしいかどうかなんて知らない。だけど、ひまわりはうちの家族だったから同居は物心ついた時から至極あたりまえのことだった。ひきこもりの僕には友達と呼べる人間が誰もいない。ひまわりが友達だったともいえないけど、まだ人間よりは意思通じてた気がする。彼女の最低限のコミュニケーションは僕にはちょうどよかったしそれ以上の愛想があったとしても僕は受け付けなかった。ひまわりは多分人間よりこの星で適応した生き物だったと思う。他にも人間より適応した動植物はいっぱいいるけど。

 彼女の若かりし頃の寄るものへ牙を剝く防御姿勢も、壮してつっけんどんな性格も、老いて我関せずと無為なような時日を送る老境も、僕にどこかしら見本を示してくれているようにも思えた。臆病な僕とよく符号していた。

 僕がひきこもってからは彼女が僕の部屋に来ることはほとんどなかった。それは僕が拒絶していたからではなく、家族との交流を絶って隔たる壁がひまわりの行き来にも制限を与えたからだ。彼女と僕には断絶はない。しかし僕の空間に彼女がいる必要もなかった。老いてからの彼女と僕の接点は、トイレか風呂にいく際、リビングの日当たりの良い専用のスペースで寝ている彼女を見かける時くらいだった。終始目蓋を降ろしていたひまわりが僕を認知していたかどうかはわからない。きっとそれも余分なコミュニケーションだから見向きもせず切り捨てていたと思う。ひまわりはそれでいい。

 僕がひきこもる前までは散歩にも連れて行った。母から頼まれて仕方なくだったけど僕は彼女との散歩がそれほど嫌いではなかった。首輪につけた紐縄で自由を制限されているはずの彼女はいつも僕の前を歩き隷属的でなく自分で行きたい道を決めたがっていた。それを阻む僕を彼女は嫌っていたかもしれないが、僕は面倒臭くはあっても無駄な言葉を喋らないひまわりが嫌いではなかった。

 数ヶ月前くらいから夜中にすすり泣くようになって母はその度起きてひまわりを音の遮断する納戸に押し込めた。ひまわりのすすり泣く声は僕の部屋まで小さく忍び寄っていた。

 ひまわりが死んだことは母からのドア越しの報告で知った。今朝の6時46分だった。僕は薄明かりのベッドでその知らせを聞いた。何も感動はなかった。ただ眠かった。この世に消えていくたくさんの動植物の死と何も変わらなく僕の生活にとっても特段のことではなかったはずさ。

 だけど、こうしてひまわりがいなくなって考えてみる。犬もやっぱり死ぬんだなと。そして、なんだかおかしい。胸に空き地がある。寂しいのかな、僕は。

 ねえ、知ってたら教えてくれないか? ひまわりを生き返らせる方法を。君なら知っているだろ? 知っててもきっと君は返事くれないんだろうね。


きくっち



 その晩、手先が冷えて紙ひこうきはなかなか綺麗に織れなかった。だけど紙ひこうきを放った時、紙ひこうきが一瞬ひまわりの声ですすり泣いた気がした。僕の妄想に違いない。


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