六話 翔の超能力
光一は目を覚ました。
頭に違和感を覚え、手で押さえようとするがそこで縛られていることに気が付いた。
椅子に座らされ、手を後ろに回され手足を手錠で拘束されている。
ふと隣に目をやると、同じように捕まっている翔がいた。意識はないようでぐったりとしている。彼の顔にはいくつか痣ができていた。
「起きましたか」
顔を上げるとそこには五人の男がいた。
一緒にいたはずのストーカーもその中にいた。その男は申し訳なさそうな表情ではなく、一転して余裕の笑みを浮かべていた。
立場が逆転した。
押さえつける側が押さえつけられる側に。押さえつけられる側が押さえつける側に。
「何の真似だ?」
光一は連中をにらみつける。
連中の中の一人がわかりやすく、ふっと笑う。
「目的はありません。というより、あなた方をこうして拘束していることこそが目的です」
「俺たちが狙いだったと?」
「ええ。我々の目的はいつだって単純明快。あいりゃんを守ることでありけるでしょう!」
両手を腰に当てて高らかに宣言する男に光一は思わず、
「は?」
文法の誤用の上、あいりゃん、というのは花咲あいりのことだろう。なぜ光一達を捕らえることがあの子を守ることにつながるのか。
光一の理解は及ばなかった。
「訳が分からない、という顔ですね。ですが! 当然説明などしませんよ。自らの手口をべらべら喋る馬鹿な悪役ではありませんので」
「悪役であることの自覚はあるんだな」
「いいえ。我々は正義であります」
「ならなんで馬鹿な『悪役』を引き合いに出すんだ? 善のキャラだって方法を話すことだってあるだろうが」
悪役であることを自覚している彼らは言葉に詰まる。
「う、うるさいですね! 人の揚げ足をとるなと教わらなかったのか!」
「お生憎様。両親は俺がガキの頃に死んでるんだ」
「え、あ。それは何というか。申し訳ない……」
「謝る必要なんてないですよ! タンテンさん」
光一達をぼこぼこにしたあげくに縛り上げた連中とは思えない緩さだ。
適当に喋りながら部屋の様子をうかがっていたが、当然光一の知らない部屋だった。どうやら人の住む住居ではないようだ。雑居ビルか何かの中だろう。
後方は確認できないが、窓と扉が一つずつしかない。もう一つ特徴的なものは光一から見て右側の壁にある暖炉だ。
まだ火が必要になる気温ではないはずなのに、暖炉の中ではパチパチと火が燃えあがっている。
しかし、燃え上がった煙や二酸化炭素を排出する煙突の部分が崩れてしまっている。
「とにかく、我々の目的は達成されたのです。あなたのようにあいりゃんに付き纏う害虫は駆除するべし!」
「そうです! 僕たちはあいりゃんの味方なのですから!」
「前の時は不覚を取りましたが、今回はそうはいきません。我々は同じ過ちは犯さない!」
前の時。
光一はその言葉に引っ掛かりを覚えた。
「おい、お前ら。前の時ってのはなんだ」
口々に自分たちを鼓舞するように叫んでいた五人はピタリと動きを止めた。
静止画のようになった彼らが一斉にぐるりと光一の方へ振り返る。
「説明はしないと、先ほど言いましたよね?」
「何度も同じことを言うのは嫌いです」
「ですが、今から死にゆく者へ何の説明もなしというのは少し不義理というもの」
「だからこうして起きるのを待っていたのです」
「あなた方はこれから酸欠で死にます」
「ここには人が来ないので発見は数か月後になるでしょう」
「私どもは明日にでも戻り、手錠などを回収する」
「残ったのは殴り合いをして酸欠自殺をした二人の男」
「これであいりゃんの平和は守られる」
「そういうわけですな」
はっはっはと五人は笑いあう。
「分割して喋んじゃねえよ。キモイだろうが」
「いきがるのは結構ですが、我々はこれで失礼します」
一人が光一に近づき、ポケットからナイフやスマホを取り出した。
「携帯など持ち物はすべてお持ちしますね」
「万が一助けを呼ばれては困るので」
「それでは」
「さっきは楽しかったですよ。ありがとうございました」
最後に一緒にいたストーカーが挨拶を残し、五人は扉から出て行った。
鍵を閉められ、鎖の音が外から聞こえた。扉は固く閉められたようだ。
斧か何かがあれば壁を破壊することができるだろうが、光一達は動けないし部屋には道具らしい道具が何一つ置かれていない。
窓は人が通るには小さすぎる。椅子は固定されていて持ち上がらない。
ポケットの中や靴の裏には手錠を外すことができるクリップを仕込んである。それはとられていないだろうが、今のこの状態ではどう頑張ってもクリップを取れない。仮にクリップを渡されても手が動かないので外すことができない。
完全に動けない状態で閉じ込められてしまった。
火が酸素を燃やし尽くすまでどれほどの時間がかかるのか光一は知らないが、ぼやぼやしている時間はないことはわかる。
「ん……あれ?」
翔がぼんやりとした声を出した。
「起きたか」
「あ、はい……って、え。捕まってるじゃないですか光一さん」
「お前もだけどな」
「ほんとだ!」
翔はしきりに部屋の中を見回した。
「なるほどなるほど。暖炉には火が、鍵を閉められていそうな扉、そして椅子に捕まった僕ら。どうやら部屋に閉じ込められたみたいですよ。光一さん」
「わかってるよ。そんなこと。どうしようもないこともな」
「じゃあどうするんです?」
「さあな。できそうなのは奴らが来るまで酸素を減らさないように黙ってる、くらいだな―――って何してんだ?」
翔は下を向いて真剣な表情をしていた。
何かをしているようだが身動き一つしていない。
翔が黙ったまま一分ほどが経過した。
ガチャという音を光一は聞いた。
それと同時に、
「はーーー……」
翔が大きく息を吐き、両手を膝に置いてうなだれる。
「お前、手錠は……?」
翔はすぐには質問に答えず、激しい運動をした後のように息を整えている。
額には汗がみられる。かなり集中していたようだ。
光一はこの場を切り抜ける方法は何もないと思っていた。だがようやくそこで気が付いた。思い出したのだ。機械を自由に操るこの青年はただの人間ではなかったということを。
「超能力で外しました」
翔に超能力があることを。




