英雄がいた話
遅れてしまい申し訳ございません。
夕食を終えた後、ロイゼはレナと同じ部屋で寝ることになった。宿でロイゼを泊めると言った時も、宿の主人が追加料金はいらないと言って快く了承してくれた。
「一人旅かぁ……私も最初は一人だったんですよ」
「今はあの剣士さんと一緒にいるよね。レナはお姫様だったりするの?」
ロイゼが何気なく聞いた一言に、レナは少しだけ動揺した。それから、以前ならば驚き慌てふためいて何も言えず、父親や家臣の後ろに隠れていたことを思い出す。
「とある国の、元貴族、といったところですよ。ガルムと出会ったのは偶然です」
身分を隠すことはないという言葉をガルムからもらって以来、レナは位の名に臆することなく自己紹介できるようになった。それまで、自分は貴族にふさわしくないという劣等感で正直な自分を明かすことができていなかった。それが命を助けたこともあったが、それは過去の話。
「貴族か……私の住んでた国にも貴族がいたな。まだあまり科学技術が発展してなくて、内紛なんて日常茶飯事だった」
「どこの国でも……荒れているんでしょうか」
「北方のエスト帝国、そこがどんどん南下している。私の国は北半分を奪われた」
ロイゼは、まるで白地図を見ているかのように淡々と言った。国への愛着は完全に捨てているらしく、その表情に揺らぎなどは一切なかった。
「エスト帝国は……この国、ヴァナスも滅ぼしています。ガルムはヴァナス国の出身なのです」
「ヴァナスが滅びていたのは知っていた……だが、私が国境を越えていたことには気づかなかった。ここにはエストの軍は来ないの?」
「たぶん……」
レナは自信なさげに答えた。ガルムがいたら、もう少し正確な答えが得られたかもしれないが、今はただ憶測に頼るしかない。ロイゼは小さく頷いた。
「ささ、寝ないと。明日は早いですよ」
そう言って、レナはロイゼをベッドに入れた。その隣にくっつけている同じものがレナのベッドである。
「そうね。……ありがとう、おやすみ」
「おやすみなさい」
ロイゼがベッドに潜り、それを見送ってからレナがベッドに潜った。二人とも寝つきがよく、辺りは虫の鳴き声しか聞こえない静かな空間となった。
そのころ、黒い甲冑を身に着けた二百名ほどの兵士が、ひとりの痩せた背の低い農夫に先導されて行進していた。兵士は皆馬に乗っていて、農夫だけが徒歩だった。彼の表情は青ざめていて、体は小刻みに震えている。右手には、小さな袋を大切そうに握っている。
村が見えるか見えないかの位置で、騎馬の一行は足を止めた。農夫も足を止め、後ろを振り向いた。
「あの村、あの村で間違いありません、将軍様」
農夫は恭しい態度で、将軍に頭を下げた。黒い甲冑を着て、馬の側面に大きな長刀を括り付けた男は、少し目を細めて村を見た。ガルムたちが滞在している村だ。
「小さな村だな。……今日はここで野営とする」
将軍は馬に乗ったまま、農夫を見下ろした。付き添っている兵士たちが、即席の厩舎を建て、それぞれのテントを張った。そのあと、手の空いている兵が大きな天幕を張る。
「間違いなく、ヴァナス六将なのだな?」
「はい、間違いありません。ガルムと名乗っておりました」
「六将のガルムか……若造ではないか」
将軍は嘲るように笑い、武装はしているのか、と聞いた。農夫は、腰に剣を、と答えた。
「ふん、それだけか。よかろう、貴様はどこへなりと消えるが良い」
「は、はっ」
農夫は慌てて顔を上げると、何度かこけそうになりながら走り去っていった。その方向には、遠回りであるが村へ抜ける道がある。
「弓を」
将軍はそれだけ言い、兵士が差し出した弓を受け取り、矢筒から矢を取った。丁寧に狙いをつけ、斜め上に射る。矢は闇の中に消えて行ったが、直後に悲鳴のようなものが聞こえた。
「あれはあの村に戻り、我らが向かうことを言うつもりだったのであろう。ヴァナスの六将を逃がしはせん」
忌々しそうに吐き捨てた将軍は、弓を兵士に渡してから馬を降りた。甲冑を脱ぎ、自分の手でテントを建て、馬を厩舎に入れた。
一通りの食事を済ませ、自分は少し早めに寝た。テントに入り、長刀を横に置く。夜番の兵を残し、殆どの兵が就寝しているはずだ。
やけに暗く寒い朝が訪れた。まだ夜も明けきらないうちに目を覚ましたガルムは、窓を開けて頭を叩き起こした。すぐに窓を閉めて、汗をかかない程度に体を動かす。毎日の流れを終わらせた後、太陽の上り具合を見てレナはまだ起きないと判断した。枕元に置いていた刀を腰に差して、レナの作ってくれた茶を飲んで時間を潰すことにした。
ほんのわずかに時間を使った後、扉がノックされた。応答すると、ロイゼの声がした。レナとは違って少し掠れている。
扉を開けると、すっかり眠気の覚めた様子のロイゼが立っていた。昨日と同じ服装だが、上にレナの上着を羽織っている。それでも少し寒そうな様子だ。
「……おはよう、今日は寒いね」
「おはよう。随分早いな」
少し話題作りに困った様子を見せながら話しかけてきたロイゼに、ガルムは当たり障りのない応答をした。レナはまだ寝ている、と言い、入っていいかと尋ねてきた。ガルムは座る場所がないがそれでもいいなら、と返す。ロイゼは問題ない、と言って入った。
彼女は休む場所を探して、ベッドに座った。様子の一つひとつに僅かながら警戒を感じる。
「ガルム、もう少ししたらここを出ない? 申し訳ないけど朝食は断ることになる」
「なぜだ? 理由を説明してほしい」
「杖がなくても少しくらいは魔法を使える……で、どうも軍隊がこっちに向かっているみたい」
「なんだと……規模は?」
驚きを隠せいない様子でガルムが尋ねると、ロイゼは「二百」と小さな声で答えた。
「多いな……レナ様を起こしてくれ、そして村の人たちを連れて裏山に逃げろ」
「ガルムは?」
「残る」
彼は即答した。
「ダメ、危ない……ガルムが残るなら、私も残る。一階に誰かが使ってたみたいな古い杖があったから、借りれば戦力になるはず」
「許可できない。相手は精鋭だろう。それに、エスト軍だろう。狙いは俺だ」
「たった一人で……多勢に無勢よ。でも、魔法使いは人数差にあまり左右されない」
ロイゼは一歩も引かずに言った。その間にレナが起きて、ガルムが逃げないのに一人だけ逃げるわけにはいかないと言い残して村の皆に逃げるように伝えに行った。
「……全く」
「ガルム?」
小さく呟いただけのつもりだったが、どうやらロイゼには聞こえたらしい。反応すると何か問われそうなので、無視することにした。
直後、ガルムが不意に部屋を飛び出した。
「あっ、待ってよ!」
ロイゼに呼ばれたが、今度も無視した。黒い甲冑が見えたのだ。彼女の言った通り、パッと見ではあるが多く見積もって二百はいそうだ。階段を駆け下りて、玄関から飛び出す。馬を厩舎から出す余裕はないので、走りで村の外まで出る。すぐにロイゼが追い付いてきた。片手に、宿の一階に飾ってあった小型の杖を持っている。
「危ないから村に戻れ」
「ひとりであの数の敵とは戦わせない。少しくらいなら減らして見せる」
ロイゼはそう言って、杖を手の中で回転させた。村の方から騒ぎ声が聞こえてくる。敵軍も、お互いに見える位置にまで来ていた。あとは二人でどれだけ時間を稼いで、あわよくば逃げられるか。
ガルムが腰の剣を抜いた。緑色の宝石のような刀身で、柄まで同じ素材でできているようだ。その柄には革が巻かれてあり手垢や血の乾いた跡がある。
ロイゼは杖を構えつつも、魔法の行使はしない。基本的に攻撃性の魔法は発動直前で止めておくような芸当ができないからだ。できることは、いつでも魔法を放てるようにしておくこと。そして、ガルムの戦闘の邪魔をしないように離れることだけだ。
敵軍が完全に姿を見せたとき、村人の避難は終わっていなかった。半数ほどの村人がまだ残っていて、慌ただしい移動をしている途中だった。
「おう、たしかに六将のガルムだ」
「やはりエスト軍。しかし、見たことのない顔だ」
ガルムが挑発した。ロイゼの位置を確認しつつ、敵を数える。
司令官と思しき若い男。弓兵が二十ほど、槍などの武器を持った兵は百名以上いそうだ。そしてすべてが騎兵。魔法兵の姿が見えないのが幸い、とくらいしか救いを探せない。
彼の挑発に顔を赤くした将軍は、長刀を片手で振り回した。ただの演技だが、ガルムから見ても決して下手ではない。剣を持つ両手に自然と力が入った。
「かかれ! 後ろの魔法使いは捕らえた者の好きにするが良い!」
将軍は一度振り上げた長刀を振り下ろした。それとほぼ同時に百名に近い敵兵が向かってくる。
ガルムは叫んだ。先頭で槍をしごいて向かってくる騎兵を一刀で切り上げ、馬を奪う。横から抜けようとした三人の騎兵のうち、二人までを後ろから切り捨てる。
ロイゼ、危ない。と言おうとした瞬間、ロイゼが鋭い声を上げた。
「――来るな!」
直後、何かが空気を切るような音と共に敵兵が馬上から吹っ飛んだ。首から血を流し、地面に倒れる。
「私のことは気にしなくて大丈夫」
言いながら、ロイゼは同じ魔法で弓兵の頭を撃ち抜いた。連続で発動している魔法は、一回ごとに一人の兵を即死させている。
ガルムは前を見て、三人の騎兵を確認した。武芸の練度が低いのか、槍の扱いが雑だ。一瞬で一人を斬り殺し、三人目の突きを体を捻って躱す。姿勢を戻すと同時に首を刎ねた。
手を休めている暇はない。飛んできた矢を叩き折り、騎兵の剣を弾いた。
「く……」
汗を拭う余裕すらない。ここまで二十人ほどの兵を切り捨ててきたが、減っているように感じられない。ロイゼも十名は撃ち殺しているはずだが、それを実感することはできない。
「ぐあっ!」
剣の敵二名、槍の敵二名を相手にして、剣の敵を二名とも切り捨てた直後、二方向から突き込まれた槍を躱すことができなかった。一本は斬り飛ばしたものの、もう一本がわき腹に突き刺さる。そのまま勢いに押されて落馬した。
「ガルム!!」
ロイゼが悲鳴を上げ、直後視界が赤く染まった。彼女が炎の魔法を使ったらしく、高熱が体に降りかかってくる。その間に動かされて後ろに行った。
「助かった、だが治療は後だ」
疲れている様子のロイゼの肩に手を置いて、ガルムは立ち上がった。槍の刺さった右脇腹の位置は赤黒い血が染み込んでいて、少しずつ浸透している。
敵兵の突進に合わせて、ガルムも駆けだした。傷の影響か、動きが少し鈍い。ロイゼは氷の魔法を使って弓兵を先に撃ち抜いた。既に半数以上を撃ち殺していて、あと四名。同時に、ガルムが対峙する敵兵が三名以上なら、端の一人を氷で撃ち抜く。手の数よりも多い敵を同時に相手取ることは、今のガルムには厳しいことである。
ロイゼの援護に感謝しながら、ガルムは敵を斬って行った。脇腹の傷は痛むが、この程度の兵が相手ならば二名までは同時に戦い続けられる。敵の槍先を切り落とし、もう片方の手で首を刎ねる。隙を見せたもう一人の兵の首に剣を突き込む。
しかし、不可能に近いことは最初から分かっていた。残っているすべての敵兵がガルムを包囲したのだ。もちろん魔法で削って行ったが、倒しきれるはずもなくガルムは同時に二十名以上と戦うことになった。
「ガルム――――ッ!!」
後ろから槍を突き刺され、彼の姿が消えた。ロイゼは高熱の塊を放射する魔法を唱えたが、倒せたのは僅かに二名。直後、緑の光が煌めいた。
「ぐわっ」「ぐっ」
直後、ガルムを囲んでいた兵が一気に五人以上も倒れた。その屍を踏み越えるようにして、服を赤く染めたガルムが飛び出してきた。肩で呼吸をしていて、汗が滝のように流れ落ちている。
「ガルム、無理しないで」
「はぁ……まだ、半分以上残っている。手を休めている余裕はない」
二人が倒した兵はまだ五十名程度。ガルムはかなり深手を負っていて、ロイゼも右手の甲から出血していた。近くに血の付いた矢が落ちている。
「殴殺しろ!」
将軍の号令で、先頭にいる二十名ほどの騎兵が槍を並べて突進してきた。鈍色の槍先が朝日に反射している。ロイゼは咄嗟に魔法を使うことができなかった。
「きゃあ!?」
刹那、ロイゼが高い声をあげた。彼女にしては珍しい、掠れていないものだ。ガルムが片腕で彼女を抱きかかえ、一気にその場を離れたのだ。道一杯に広がっていたので、左右への機動力が全くなくなっていたのだ。それに、左右は高い草木もある。
「指揮官を討つ。ロイゼは逃げろ」
ガルムは、ロイゼの返事を聞く前に立ち上がった。両手に剣を持ち、大きく息を吐いて飛び出す。後ろで、ロイゼが「無理」と短く答えた。
ガルムは茂みから不意に飛び出し、驚いている兵二人を一瞬で殺した。将軍の姿は視界に入っている。彼は油断なく長刀を構えていて、ガルムが走り出すとその獲物を豪快に振り上げた。
「来たな、ヴァナスの死にぞこない! 貴様も奴らと同じ所へ送ってやる!」
「……やってみろ」
ガルムが短く返事して、馬上の敵へと肉薄した。振り下ろされた長刀の一撃を受け流し、体勢を崩さずに左の剣を左上から振り下ろした。
刀身と長刀の石突きがぶつかり、派手な音を立てた。その直後に右の剣と長刀の刃が激突する。どちらかが舌打ちをした。
手数ではガルムが優勢、しかし一撃の重さでは敵将の方が勝っている。さらに、敵将は馬に乗っている。高低差を詰めるためにガルムは馬を攻撃するも、全て長刀に弾かれてきた。
必然的に、ガルムに疲労が蓄積していく。元々の技量が互角であったために、時間が経つごとに劣勢へと追い込まれていく。それと反比例するように、長刀の動きは小気味よくなっていった。
長刀を左から振り下ろそうとする動き――ガルムは剣をクロスさせて受け止めようとしたが、ぶつかる直前で急に軌道を変えた。
フェイントだった、彼が気づいた時には体の方が先に動いている。右の脇腹を両断しようという一撃を、逆手に持ち替えた右手の剣一本で受け止めた。
「ぐ……ッ」
うめき声と同時に、攻撃の勢いに逆らわずに左に倒れ込んだ。受け身を取り、少し距離を取って立ち上がる。土埃が血の上から付着して、服の表面が土色に変わった。
「うおおっ!」
敵将が馬を駆け、長刀を構えて突進してきた。ガルムの真正面ではなく僅かに左。ガルムの首を狙って切り上げてきた刃を、両方の剣で完全にブロックするが、反撃には繋がらない。火花を散らし、お互いに距離を取った。
「なかなかやるな」
「……どうも」
敵将が僅かに笑みを見せた。余裕を見せているつもりだろうが、ガルムには引きつって見えた。よく見ると、彼の顔に浮かぶ汗が滝のように流れ落ちていた。
「――――はぁッ!」
敵将が息を吐いた瞬間、ガルムが駆け出した。傷口から血が出てくるがそんなことを気にしてはいられない。一瞬で距離を詰め、地面を蹴る。その時には、左手の剣を右に大きく振りかぶっていた。
刹那、敵将が何かを言ったような気がした。口元が動いた時には彼の首は宙を舞っている。
地面に着地すると同時に、後ろから悲鳴の連鎖が沸き上がった。背後にいる敵兵は百名を超えるはずだ。しかし、悲鳴は十名にも満たない。一つ一つの声が聞き分けられる程度だ。
直後、敵兵がガルムの隣に倒れた。武器は持っておらず、甲冑を半分脱いでいた。その背中に矢が突き立っている。
二名の騎兵が、ガルムの脇を通り過ぎようとした。しかし、彼らも片方は矢に射落とされ、片方は氷の魔法で頭を貫かれて死んだ。敵の声は聞こえない。
ガルムは動くことができなかった。体が縛られたように動かないのだ。その後ろから、背中に手が当てられた。
「ガルム、終わりましたよ」
「終わったよ。いつまで突っ立っているの」
レナが、ロイゼに背を軽く押された。少しふらついてから、彼女らを見る。
「一人も逃さなかったよ。もちろん、村に一人も入れさせていない」
「悪かった、迷惑をかけた」
彼は辛うじてそれだけを言った。レナは片手に弓を持っていて、矢筒を腰に提げていた。ロイゼは平気そうな表情で汗を拭いている。
「気にしないでほしい。強いて言うなら、これで借り貸し無し」
ロイゼは淡々と言い、レナは小さく頷いた。そして、レナは体を支えようと寄ってくる。
「自分で歩けます。レナ様は、村人に無事を報告してください」
「ガルムが戻らないと皆不安がります。一緒に戻りましょう。それに、ふらふらではありませんか」
「そうよ、私もレナに同意」
仕方なく、ガルムはレナに支えられながら村に戻った。その時は無人だったが、隠れている場所にレナが行くと少しずつ戻ってくる。
「おお、これは……」
村長が小さな声を漏らした。村の中に死者はいない。村の外にだけ、敵兵の死体が積み重なるように置かれていた。まだ真新しい血の臭いが立ち込めていた。
「村長殿」
ガルムが痛みをこらえて村長に声をかけた。剣は鞘に納めていて、上がっている息を無理やり押さえつけている。
「ガルム様、ご無事で……」
村長の声をガルムが遮った。
「村に迷惑をかけた。本来ならば、今や一介の旅人である俺がこのような話し方をすること自体許されないのだろうが……」
ガルムの声を、今度は村長が遮った。
「いえ、我々はヴァナスの国民でございます。そしてガルム様はヴァナスの将軍であらせられます。私どもは皆、ヴァナス王国への忠誠を忘れてはおりませぬ」
「……そうか」
村長のはっきりした声に対し、ガルムの返事は力のないものであった。次の言葉が出てこない間に、レナに引っ張られて宿に入る。
「レナ様?」
半ば無理やりベッドに押し込まれたガルムは、訝し気な声で問いかけた。体を起こそうとしても押し留められる。
「酷い傷ですよ。すぐに治療します。話し合いとか、いろいろなことはそのあとです」
レナはきっぱりと言い、自分のポーチからいくつかの薬を取り出した。ガルムにはわからないが、傷を治療するものだろう。
「治療するので服ずらしますよ」
ガルムが頷く前に、服を半分脱がされた。槍などの傷が露わになると、レナの表情が曇る。血はまだ止まり切っていない。
「治療中痛いと思います」
言いながら、ロイゼに使ったものと同じ薬を塗りこんだ。浅い傷は、血を拭きとってから少し色の薄い薬を塗りこむ。痛みはあまりなかった。
「……本当に、ご無事でよかったです」
レナが呟いたその一言は、ガルムには聞こえていなかった。
読んでいただいた方々に感謝いたします。




