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若気の至り

「シャッ!」青年は顎を掠める一撃を与え脳震盪を誘う。

「ッ……」崩れ落ちる絡んできた男。


 次の奴は大きい、即座に接近する。

「ハッ!」零距離に迫った所から、横隔膜を狙って浸透勁を青年は放つ。

「ウゲェ」鳩尾に掌底が入った時点で十分だとも思える。

巨漢の男は呼吸が出来なくなって膝を付いた。

密着している体勢故か、肘を下から上に捻り上げながら、首の下を抉るように膝の弾力を乗せて放つ。

後ろに倒れる巨漢を放置して次の動作へ。


短剣で突いてくる勢いのある男だが……。

そんな見え透いた動きなら投げた方がまだマシだとばかりに、背後の椅子を蹴り上げて阻止。

ガツッと椅子に切っ先が沈みこむ。

その椅子ごと腹を蹴ってやれば吹き飛んでいく。

予想外の椅子という武器に驚いたのだろう。


棒が振り降ろされる直前にテーブルの端を掴んで下へと勢いをつけて滑りこむ。

ガンッとテーブルに棒が叩きつけられるが、青年は滑り込んだ勢いで相手の足元を払う。

棒を持っていた相手は、顔面をテーブルに打ち付けて倒れこんできた。

そのまま腹部の上に肘打ちを決めて動けなくする。

「ゲヘッ」っという呻きと共に腹を抱える、腹筋の鍛え方が足りない。


長椅子にクルット体をひねって寝転びつつ、体のバネで起き上がる。

「よっと、っとハッ」不意打ちしようと構えてた男の股間に長椅子が直撃する。

ご愁傷様、そのまま寝ててくれってことで。

「もいっちょ」長椅子を裏に返せば股間を押さえた男の顔面を椅子の足クリーンヒットしてノックアウト。


見事に死屍累々(死亡はしていない)といった有様。


「また物騒な町だなぁおい」


飯屋の軒先でご飯を食べてたら厄介ごとがやってきた。


「テメェが物騒だ!」


一応はこの場の頭らしい男が吼える。


「まてよ、俺は売られた喧嘩を買っただけだろうが」

「俺らがこの辺を取り仕切るブラックベアーって知っててやってんのか」

「俺が知るわけないじゃん」


いや無茶を言わないで欲しいと青年は応じた。

何を根拠に誰もが知っていると思うのか。

ましてや青年は旅人だった。


「ハッ、田舎モンが調子に乗りやがって」

「いやいや、残ってるのお前だけじゃないか」


なんか丁度いいものを発見と、青年は話しながらも隙を見る。


「俺の後ろには100人からの子分を従えるブラックベアーがッハ」


ブンッと振り回した棒、机に用意されてたので一薙ぎした。

綺麗に顔面を強打したのでお休みなさいという訳だ。


「長い、それとお前の子分じゃねえじゃん」


さてと、100人相手か、多少は使えるのがいればいいと青年は思う。

武者修行の旅の空の下で実に有り難い話だ。

相手からすれば天災で迷惑な話だろうが。

多少は強くて倒しても文句の無い相手なら歓迎しようという腹積もり。


「……なんて馬鹿な事すんだいお客さん」

「あー椅子とかスマン」

「いやそれよりあんたブラックベアーっていったらここを管轄する悪党だよ」

「へぇ、そいつの言ってたのは嘘ってわけでもないんだ」

「ああ、お代は結構だから早く逃げな」

「いやいや、こいつらが俺を襲って治療費も貰ってないからな」


そうそう、俺は悪い事をしていないと一人頷く。


「治療費ってあんた一発も貰ってなかったじゃないか」

「強いて言うなら、迷惑料とあと殴って汚れた拳の代金かな」

「呆れたねぇ」


ってことで財布は全部もらってと、うん、武器も回収してやろうと次々に回収してしまう。


「よしオバチャンこれ修理代、あとさ縄とか頂戴」

「修理代はいらないけどさ、縄なんてどうすんだい」

「そりゃコイツらが暴れたら大変だから縛って連れてくよ」

「掛ける言葉が見つからないよまったく、ほれこの荒縄つかいな」


迷惑掛けるのも申し訳ないのでゴロツキは運んでいく事に決定した。

食堂のオバチャンもいい人そうという判断故にだった。


「どうやって運ぶんだい?」

「え? 引っ張って引きずるに決まってるじゃん」

「……聞いたあたしが馬鹿だったよ」


引き摺って歩いてれば目を覚ます筈、どうせならと町の中心まで連れていく。

しかし起きないもんだなー等とも思うが、恐ろしくて目を覚ませないの間違いだった。

ズルズルと中心の広場までやってきたが、腫れ物には関わらないと無視を決め込む人ばかり。

相当にこいつらがのさばってるってことかと対処を決めた。

ブラックベアー壊滅の旗が立った瞬間である。



――まったく行政官にしろ警邏隊にしても実態がみえるってもんだ。普通200mも人間を引き摺って歩いたら警邏隊が飛んできて然るべきだろうに――

そうしてまた一つ旗が立つ……。


よいっしょっと呟きながら、木に括り付けて『ベアーだと、生意気にも人間の言葉を喋る珍獣なり』と書いた板を一人に抱きかかえさせて放置した。


助けなければ面子が潰れて立ち行かなくなり、挑めば青年が相手になる悪人ホイホイ。


そこから更にやってきた総勢125人の面々を次々に沈め、更には行政官の所へと乗り込んで、警邏も含めて責任者を叩きのめした。


俗に言う『若気の至り』の顛末。



◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「懐かしいな……」


ウィンは勿論このネルトア王国にも訪れた事がある。

懐かしいとは若気の至りでやらかした顛末全般を含む。

外国でそんなに暴れてどうするんだと、今なら多少は考慮するだろうが本質は変わらないものだ。

思い出の範囲でいうと沢山ありすぎて、記録は残していない(そんな下手を打っていない)が恐らく大陸にある国という国、全部で暴れている。

思い出したのも町と情景が一致したからであって、あの戦いは何処其処の町だと特定は出来ない。


ネルトア王国の王都の外縁部に位置する町へと来ているのは、此処に『ナイブス』の魔法陣が設置された隠れ家があるからだ。

そして、此処にきたのはネルトア王国の情勢などを掴む為の現地指示の為だった。



話は数日前、腹黒狸切れ長狐に連れて行かれた悪巧みという名の会議に戻る。

死なば諸共という国王ゼノンの策略によって、ウィンも参加する事になったからだ。


「ククク、大きなネズミまで着たぞ」


執務室に集まったのはこの国の主要な人物、守護五爵家の面々だった。

全員が近しい年代であり共に戦乱を潜り抜けた仲間ばかり。

故にこそ、性質が悪かった。

シュヴィルベン(ベン)・シールド・グラン

不通不退不倒(ふつうふたいふとう)』、常に頼れる兄貴的存在の寡黙なご意見番。

レオンハルト(レオン)・ランス・チェスタット

兄であり『軍神』の異名を持つ、生真面目な存在。

アレス・ロッド・テレンス

宰相であり、魔導師長も兼ねる『腹黒狸切れ長狐』。

フレイ・ソード・レヴィティ

『攻めの赤剣』の異名を持つ男、チェスでウィンに連敗している親友。

アロン・ボウ・キロン

『必中』の異名を持ち、最年少ながら医学、薬草学なども修めているが人懐こい弟分。


最年長がベンの25歳、次いで兄のレオンが23歳、ゼノン、ウィン、アレスが20歳と続いてフレイが19歳、最後がアロンで18歳と年も近い。


これだけの面々が揃えば碌な事は起きない。

しかも悪巧みというのだから……。

悪巧みをされる国に同情したいと思う者が出ても不思議ではない。


「さて、ウィンも見事に揃った事だし始めようか」


ベンが待ってたんだぞと穏やかに開始の声を上げた。

やはり最初から連れて行く気がだったのである。

見事な腹黒っぷり、中身を見せない。


「皆も知ってのとおり、現状でふざけた要求をしてきている国がある」


さて、と見回したゼノン、お前ら如何したいんだと顔が笑っていた。

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