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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第01話「設立、獣耳学園」
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終礼『目指せ、未来の大統領?』

 〜 終礼『目指せ、未来の大統領?』 〜


 ハヤト転校十三日目。

「…よぉ」

「よぉ」

 学園の少し手前、校舎が見えるか見えないかぐらいかの位置で、ハヤトはまるで待ち伏せていたように立っていたケンに向かってそう言い、ケンもハヤトに向かってそう答える。

 だが、その視線はハヤトの左腕にくっついている生物に対して向けられていた。

「女を片手に登校するなんざぁ、なかなか出来る行為じゃねぇな」

「お前にはこれが本当にそう見えるのか」

「えへへー」

 ハヤトの左腕にしがみついている生物、ミアは実に満足げに笑っていた、もとい、にやけていた。

 幸せの絶頂といった感じだ。

「いいや、皮肉だ、辛いだろ…」

 ハヤトの右肩には包帯が強く巻かれ、服の下なので見えないが胴体にも多重に包帯が巻かれている事だろう。

 そんな状態なので空いているのは左腕のみ、その左腕にまぁおよそ40Kg〜50Kgの荷物を下げているのだ。

「ああ、すっごく辛い、っていうか痛い」

 それは怪我人のハヤトにとって地獄である。

 脇腹を怪我している状態で暴れる馬鹿がどこにいる。

 少し動くだけで激痛ものだ。

 それなのにこのじゃれ付く猫人というのは邪魔以外の何者でもなかった。

「ミア、ハヤトが脂汗流してるから離れてやれよ」

「やーだよー、だってハヤトに悪い虫がついたら困るでしょ、だからこうやってくっついて私の匂いを染み込ませてるの」

 そうやって一層強くハヤトの体に自分の体を押し当てるミア。

 ハヤトの顔が見事に歪む。

「勝手に人の体にマーキングをするな!!」

 そう怒鳴るが、怒鳴り声を上げたために激痛が走り再び顔を歪めるハヤト。

「今ついているのは悪い虫に入らないのか?」

「私は虫じゃないもーん」

 その顔は実に幸せそうな顔、もとい、人の話を聞いていない顔だった。

「…お前、諦めたのか?」

「冗談、怪我が治るまでだ」

 宣言通り退院したものの、チタ先生が言った通り、利き腕の使えない状態というのはかなり日常生活では不便だった。

 そこに現れたのが謹慎中のはずのミア。

 ハヤトが退院して自宅療養中、それこそ毎日、朝昼晩と現れては彼の身辺整理をしていった。

 それはハヤトにとってありがたい話ではあったが、その代価と言わんばかりにこうやってベタベタしてくるのだ。

 割と義理堅い性格が災いし、ハヤトはそれを黙認するしかなかった。

「はーん、まさか夜のお相手までしてもらってるんじゃねぇだろうな」

「下ネタは止めろ、ぶっ飛ばされたいのか?」

 実際、ミアのそういうアプローチがあったもののハヤトはかわし続け、現状を辛うじて保っているのであった。

 そのためか、その話題に関してやや神経質になっていた。

「ま、何にしても久しぶりの登校だ、せいぜい学園生活をエンジョイしな」

 そう、ハヤトにとっては実に十日ぶりの登校。

 転校二日目で謹慎処分を喰らって、三日目で入院するなどそうそうない話だ。

「け、不良のお前がどの面下げてエンジョイなんて言葉を使うんだよ」

「この面でだ」

「…お前も結構いい性格してるよ」

「サンキュー」

「誉めてねぇって…」

 げんなりしながらハヤトがそうつぶやく。

 そんなこんなでやがて三人が学園の校門に辿り着くが

「ん?」

 校門を通った所、グラウンドで人だかりが出来ている。

「今日は朝礼か何かあるのか?」

 それは学園を良く知らないハヤトらしい台詞だった。

「ああ、朝礼じゃないがちょっとしたイベントがある」

 だが、それはこの状況では不幸な事だったかもしれない。

「へぇ、何があるんだ?」

「なーに、すぐ解るさ」

 そう言って露骨に笑い顔になるケン。

「あ、嫌な予感」

「おーい、主役を連れてきたぞぉ!!」

 予感的中である。

 そのケンの大きな声にグラウンドの生徒全員の目が三人の方、もとい、ハヤトに向けられる。

『おおおおぉぉーーーーー!!」

「いっ…」

 それは群れでやってきた。

 全校生徒、約300人程度が一斉にハヤト目掛けて走ってきたのだ。

 回避不可。

「な、何なんだぁぁーーー!!」

 数人が乱れなくハヤトとミアの体を掴み一気に持ち上げる。

 そんな中で見たのは「がんばれよー」といわんばかりに手を振るケンの姿だった。

「は、謀ったなケン!!」

 と、そんな事を言う暇もなく、ハヤトとミアはグラウンドの中央、壇上に運ばれる。

「着地ー」

「どわぁ…」

 ズザァ…

 ミアは華麗に着地するがハヤトは怪我人、転がされるように壇上に上げられる。

 あまり優しくとは言えない感じで壇上に上げられたが、乱暴ではなかったので悪意が込められていない事は解った。

「痛てて…」

 だが、痛いのは事実。

 ハヤトは痛みを堪えながら立ち上がり周りを見ます。

 …まるで見世物小屋の動物の気分だった。

 期待、興味、羨望、もしくは嫉妬、様々な視線がハヤトに向かって向けられていた。

「おい、ミアこれは…」

 おそらく自分よりこの状況を知っているであろうミアの方に振り向き、彼女に問おうとしたら

 チュ…

「…んぅっ!?」

 突然、いきなりである。

 前置きも無くミアはハヤトの顔に自分の顔、もとい、ハヤトの唇に自分の唇を合せてきたのだ。

 端的に言おう。

 ハヤトはミアにキスをされた。

「んーーーっっ!?!?!?」

 声にならない悲鳴を上げるハヤト。

 それからたっぷり数秒間、衆人観衆の見守る中、その形で固まるハヤト。

 そして、ようやくミアの体がハヤトから一歩離れる。

「えへへー」

 実に、そう、実に実に満足な顔をするミア。

「な、な、な…」

 頭の中が真っ白になっていた。

「奪っちゃった」

「どっかのCMじゃねぇんだぞ…」

「もちろんだよ」

 笑顔で答えるミア。

 ミアのその笑顔を見て確信した。

「(謀られた…)」

 そう、既成事実である。

 大衆面前においてこれほどまで大胆な行動を取れば言い逃れは不可。

 寧ろここで彼女を邪険にした場合、それは激しく命の危険を伴う行為となるであろう。

「って事はこの一連のイベントの主催者は…」

「そう、私だ」

 チャララー、ラーララー

 グラウンドに向けられている全てのスピーカーからそんな派手なBGMが流れてくる。

 同時に校舎の上から派手なゴンドラが降りてきて校長が威風堂々と現れる。

「これでお膳立ては整った、ミア君、後は君の望むがままだ」

「はーい、校長先生ありがとうございまーす」

 どうやら、この二人の策謀なのは間違いないようだ。

「校長、善良な一男子生徒を陥れてあんたそれでも教師か!!」

 無駄だと解っていてもそう噛み付かずにはいられないハヤト。

「ふ、甘いな、私は教員免許など持っていないので教師ではない!!」

「いや、そんな事を高らかに自慢されても、ってだからってこんな横暴かつ人の意思を無視した行為が認められるわけがない!!」

「先程も言ったが私はお膳立てをしただけ、ここから先はミア君に聞きたまえ」

「何…」

「はい、みなさん注目―」

 いつの間にやらマイクを片手にミアがみなさんとやらに向かって手を振っていた。

「私、猫人のミアはここに宣言します」

 どうやら彼女はこの手のマイクパフォーマンスがお好きらしい。

 実に様になっている。

 みなさんもそれがお好きなのか良いリアクションを返している。

 もっとも

「それは…卒業までにハヤトの子供を生むぞー!!」

『おおおぉぉーーー!!』

 ハヤトにとっては悪夢のような光景だった。

「……」

 大衆の面前でなければとっくに気を失っていただろう。

 もはや何を言っていいのやらといった顔で突っ立っているハヤト。

「みなさん応援してくださーい」

『おおおぉぉーーー!!』

 最悪であった。

 所謂ハメ攻撃である。

 大衆面前で宣言したために、この時点でミアの誇大妄想だった野望は民衆の支持という大義名分を手にいれる事となる。

「ちょっと待て、俺の意思を無視するなっ!!」

「無視しますっ!!」

 尚且つこの状況でハヤトが何かを言えるはずも無く、時間が経てば経つほど彼の立場は悪くなっていくのだ。

「みなさーん、私は彼を愛してます、全てを捧げます、そんな私を非道にも振ったり邪険にしたりする人が居たらみなさんどう思いますかー!!」

『最低ーーー!!』

『最悪ーーー!!』

『外道ーーー!!』

 見事なまでの言われ様である。

 民衆は完全にミアの味方となっていた。

 そう、ハメ攻撃の嫌な所はゴリゴリとこちらのガードを無視してダメージを与えてくる事だ。

「く、ああ、そうかよ、だったら…貸せっ!!」

 ハヤトはミアのマイクを奪い取り叫ぶ。

「ミア、そこまでいうんならやってみろよ、こうなったら根競べだ、俺が折れるかお前が折れるか、卒業までにはっきりすらぁ!!」

『おおおぉぉーーー!!』

 打開の方法は不本意ながら同じ土俵に立つ事しかなかった。

 つまりこれを勝負と言う形、これまた不本意だが公認の勝負と言う事にしてしまい、それに勝てばいいのだ。

 少なくともこのまま状況が悪化するよりかはましだ。

「よーし、その勝負受けたー!!」

 ミアはスペアのマイクを取り出してそう答えた。

 そう、ここに世にも珍しい、…と言うか世界初の異常な学生宣言が成立されたのだ。

「私はハヤトの子供を三桁単位で産む覚悟だから、覚悟してよねっ!!」

 とても年頃の女性の台詞ではなかった。

「け、国でも作るつもりかてめぇは!!」

 売り言葉に買い言葉。

 しかし、それは火に油を注ぐという行為に他ならなかった。

「それいいね、うん、だったらハヤトが大統領になってよ、私はファーストレディーになるから」

「やれるもんならやってみろ!!」

 後にその台詞をハヤトは後々、それこそ後世にいたるまで悔やんだと、…ある国の文献にて記されていた。

 そして、この出来事は獣耳学園の最初のビッグイベントとして学園の歴史に刻みこまれ、ハヤトとミアの名は後々まで学園に語り継がれたという。

 同時に、ハヤトにとっては苦難の学園生活のはじまりでもあった。

 ちなみに勝負の結果はというと、…まぁ、それは乞うご期待と言う事で。



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