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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第01話「設立、獣耳学園」
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六時限目『公認、不純異種族間異性交遊』

 〜 六時限目『公認、不純異種族間異性交遊』 〜


 獣耳学園、校長室。

「生徒達の反応はどうかね?」

 その部屋の主、いや、学園の主はそう言った。

「はい、少し浮き足立ってるようにも見えますが、現状を受け入れ始めてます」

 その主、校長の問いに豹人のチタ先生は敬礼するようにそう答えた。

「ふむ、それは結構、あれだけの騒ぎでも我が学園の生徒達は順応できると言う事が証明された」

 校長は窓の外に少し目を向けた。

 校長室は校庭に面しており、校門から校舎の間に校庭はある。

 そして、校長室より朝登校してくる生徒達を見るのが彼の日課だった。

「多種族の起こした事件に対応でき、それを受け入れられる、今ではその者達の後押しすらしようとする者までいる、多種族複合学園として良い感じで生徒達は学習していっているようだな」

「ええ、ですがその代償がやや大きいかと…」

「あの人族の少年、ハヤト君の事かね」

「はい、生徒達の関心は形は様々ですがその一点に集中しています」

 事件後、ハヤトは救急車によって学園から病院に移送された。

 その光景は全校生徒に目撃されていたが、その後の詳細はまだ生徒達には知らされていなかった。

「そろそろ何らかの形で生徒達に知らせないと学園に対する不信感が強まります」

「安心したまえ、その件に関してはすでに手を打ってある、民衆は劇的な程その興味を引く」

「…解りました」

 チタ先生はそう答えるだけで、校長の言葉に対し追求をしようとしなかった。

 校長は学園における最高権力者だが、彼にはそれ以上の何かがある。

 それがあるからこそチタ先生はこの学園に教師として勤務し、彼に服従しているのだ。

「しかし、彼は一体何者なのですか?」

「何の事かね?」

「ハヤト君の事です、彼の行動は常軌を逸しています」

 チタ先生は事件以後、その事が気がかりでならなかった。

「思い出しただけでもぞっとします」

 まずは事件当時の事。

「彼は教頭の行動を予測し予め策を用意していた、それは解ります、ですが…」

 ハヤトはチタ先生がロープを用意していた。

「もし、私が彼のロープを掴まなかった、もしくは掴めなかったらどうなっていたのでしょう」

 無論、ハヤト君は地面に落下して死んでいただろう。

「結果的に私はとっさにロープを取りましたが、彼はそんな不確かな方法に命をかけた、ミア君が教頭を避けた時だって彼は一瞬の躊躇もなく彼女を助けようとした、それだけじゃありません、宙吊りになった時も彼は自分からその命綱とも呼べるロープを手放して校舎の壁を足場にして飛んだんです」

 聞けば聞くほど自殺行為。

「一歩間違えば死、身体能力は我々より低いはずなのに…」

 だが、ハヤトは何の迷いもなくその行為をやってのけたのである。

「ふむ、君は彼に恐怖しているのかね」

「え?」

「今の君の言葉を要約するとそう聞こえるが」

「そう…ですね、私は彼が恐ろしい、私達が踏みとどまる所を彼は平気で駆け抜けていく、彼は一体何者なんですか?」

「彼は人族だよ、今の君の答えとしてそれ以上もそれ以下の答えも無い」

 校長はそう言うと一呼吸置いて言葉を続ける。

「ただ言えるのは、彼等は色々な意味で普通ではないと言う事だ、もっともそれは我々の視点であって彼等はそれが普通の事だと思っている」

「色々な意味で…ですか」

「その通り、そのため彼等は様々なトラブルを起こしてくれる、良くも悪くもだ、そしてハヤト君は人族の中でも特殊な部類に入る、これから彼が起こすトラブルによってこの学園の行く末がどうなるか」

「校長、貴方は…」

 そのために彼をこの学園に。

 チタ先生はそう言葉を発しそうになるが、あえてその言葉を飲み込んだ。

「君の言いたい事は解るが、これは賭けだ」

「賭けですか」

「そう、私は彼に期待しているのだよ」

 ニッと笑ってそういう校長。

「それにだ、彼がいればこれからの学園生活が楽しいと思わんか?」

「…ええ、それは確かに、面白いと思いますね」

 その言葉にチタ先生も笑ってそう答えた。

「しかし、彼が学園に戻って来れなければ意味がないのでは?」

「安心したまえ、そろそろ彼も意識を取り戻した頃だろう」

「どういう事ですか?」

「彼ら人族にはお約束という言葉があるらしい」



 ハヤト転校六日目。

「……」

 ハヤトは真っ白な部屋で目を覚ました。

 ゆっくり回りを見回す。

 とりあえず自分が質素なベッドの上で寝ている事が解った。

 自分の腕に管、ようするに点滴がされている事も解った。

 付け加えると左肩と脇腹に包帯が巻かれている事も解った。

 つまり、状況から考えてここが病院であろうという事が解った。

 では、次に何故自分がこんな所で寝ているのだろうと考える。

 その答えを導き出すのにたっぷり数分間は考え込んだ。

「あー、そうか」

 段々と自分が何をやったのかという記憶が戻っていく。

「そうかそうか、俺はこいつを助けようとしてこんな所にいるんだっけ」

 ハヤトの視線の先、ベッドの片隅には文字通り猫のように丸くなって眠っているミアがいた。

「…で、こいつはここで何をやっているんだ?」

 自分を看病してくれていたようだと言う事は見れば大体解るが。

 ガチャ…

「お?」

 扉の開く音がし、そっちの方からそんな明るい声が聞こえてくる。

「おーおー、死人が生き返ってるぜ」

「勝手に殺すなよ、…ケン」

 何やら大きな袋を抱えたケンがそこに立っていた。

「そりゃ悪かった、何か喰うかハヤト?」

 袋の中からケンがリンゴとかミカンとか如何にもというぐらい病人用の食べ物を取り出してくる。

「ああ、でも医者の許しが無いと駄目か」

「…お前、偽者じゃねぇだろうな」

「はぁ?」

 ハヤトは疑いの眼差しをケンに向けていた。

「はーん、なるほどなるほど、俺がてめぇを名前で呼んだのがそんなに気に入らないってか」

「それに、気安く名前で呼ぶんじゃねぇ、って言ってただろ、後、妙に優しいのも気になる」

「怪我人には優しくしねぇとな」

 ケンはベッドを挟みミアとは反対側の椅子に座る。

「それにしたって随分な態度の変わりようだろ、それは」

「そう言うなよ、そりゃてめぇは会った時から気に入らねぇし、正直嫌な奴だとか思っていたが、…誰かのために命を賭ける奴を悪く言う程、俺は落ちぶれちゃいねぇよ」

 少しだけ照れながらケンはそう言った。

「それは犬人で言う所の、仲間として認めたって事か?」

「調子に乗るんじゃねぇよ、まぁ、ダチぐれぇには格上げしてやらぁ」

「そう言うことにしといてやるよ…」

「はん、口の減らない怪我人だな」

 お互いそんな風に減らず口をいいながら笑った。

 結局、それはケンがハヤトの事を認めたと言う事に変わりはなかった。

「…それで、ここはどこなんだ?」

「病院だよ」

「そりゃ解る、どこの病院だ?」

「んー、獣耳学園からちょっと離れた所にある私設病院だって校長が言ってたがな」

「校長先生が?」

 という事はここは学園と同じように校長の創った病院なのだろうか。

 そう考えるとあまり面白くなかった。

「…そういえば、今日は何日だ?」

「お前が意識失ってから三日ってところかな」

「お約束だな…」

「あん?」

「いや、なんでもない」

「変な奴だな、まぁ、しばらくは大人しくしとけよ、何てったって死にかけだったんだからな」

「そんなにやばかったのか?」

「…まぁ…な」

 あまり言いたくないといった感じでケンが黙り込むと

「ん…」

 その代わりと言ってはなんだが今度はミアが目を覚ます。

「んにー?」

 寝ぼけ眼でケンを見て次にハヤトを見るミア。

「おはよう、ミア」

「…ぁあ、ハヤトーー!!」

 ガバッ。

 発声と同時にハヤトに抱きつくミア。

「ぬがああぁぁぁぁーーー!!」

 それと同時にハヤトの体に電気ショックに似た激痛が走る。

 おそらく脳に危険を伝えるための電気信号が流れているからだろう。

 しかも、かなり強力な信号である。

「ハヤトハヤトハヤトーー!!」

 更に体を捻じ込むように摺り寄せてくるミア。

「…ぅぐぁ、あぁぁ…」

「おーい、ミア、それ以上やったらマジでハヤトが死んじまうぞー」

「え、あぁっ!!」

 ケンの声を聞き、ようやくハヤトがぐったりしている事に気づくミア。

「酷い、誰がハヤトをこんな目に!!」

「おめぇだよ…」

 再びハヤトが意識を取り戻すのに数分を要した。



「…で、何で二人がここに居るんだ?」

 再び意識を取り戻したハヤトの第一声はそれだった。

「何でと言われてもなぁ」

「こんな所にいないでお前等学園いけよ、もう授業だってはじまって…」

「私達謹慎中なのよ」

「え?」

「ほら、犯人が教頭先生でも、私は無断で校長室にはいちゃったし、ケンは校長室のガラスを割っちゃったじゃない、だから校長先生に謹慎くらってるの」

「だったら自宅を出ちゃ駄目だろ」

「自宅謹慎じゃなくて懲罰房での謹慎だってよ、表向きは」

「…なるほど」

 ここが校長の私設病院だとするならば、そこを懲罰房として使っても問題はない。

 つまり、校長が二人のために気を使ってくれたわけだ。

「私設校や私設病院の強みだな」

「あ、学園っていや、この事報告しねぇと」

「え?」

「お前が起きたら報国しろって校長に言われてるんだよ、何か話があるらしいぜ」

「げっ…」

 あの校長とは通常時でさえ向き合うだけで疲れるというのに、今あったらどうなるんだと想像するハヤト。

「嫌だなぁ…」

「ん、何が?」

「お前等も校長と会ったんだろ、だったら…」

「ああ、面白いおっさんじゃねぇか、俺は気に入ったぜ」

「私も結構好きだな、ああいう人」

「…はい?」

 二人の意外な台詞に目をパチクリするハヤト。

「じゃ、俺はちょっと報告してくらぁ」

 パタン…。

 そう言ってケンは静かに扉を閉めて出て行く。

 ここが病院だと配慮してだろう、本当に意外な所で几帳面な奴である。

「…根は良い奴なんですよ…てか」

「…ねぇ、ハヤト」

「何だ?」

「学園じゃ聞きそびれたんだけどさ、あの花の名前教えてよ」

 ミアがそう問い掛けてくる。

「あー、あれか…」

 そう言えば確かに以前「今度また会えたら教えてやるよ」と言った覚えがある。

 学園では色々とゴタゴタしていたので話題に出る機会がなかった。

「ねぇ、何て名前なの?」

「…んー、秘密」

「えー、どうしてー」

「恥ずかしいからだよ」

 ハヤトはそう言うとそっぽを向いてしまう。

「ハヤトって捻くれてるねー、また私と会いたかったから渡してくれたんでしょうに」

 その一言に一瞬ハヤトはビクッっとする。

「…お、お前、知ってたのか?」

「えー、何のことかなー」

 そう言ってミアはニコニコ笑う。

「ちくしょー、油断した」

「えへへー、また会えたねー」

 ミアは上機嫌でそう笑いながら尻尾を振っていた。

 そう、先程のミアの台詞が、彼女がその花の事をを知っている事実を物語っていた。

 何故ならば、その言葉こそがその花の花言葉だからだ。

「初めから知ってたのかよ、この悪女め」

 照れ隠しなのか、皮肉なのか、ハヤトに出来るのはそう悪態をつくことだけだった。

「いいじゃない、でもあの花って普通あんな状況じゃ渡さないよ」

「まぁ、ちょっと縁起悪いもんなぁ」

「でも、嬉しかった…」

 そう言ってまた笑うミア。

「ふん…」

 それに対してハヤトはそうふて顔をするだけだった。

「ったく、あんな事やらなきゃよかった…」

 ハヤトはぶつぶつとそう言って、給水ポットからコップに水を注ぐ。

 そして、それを飲んでいると

「…ねぇ、ハヤト」

「ん?」

「ハヤトって恋人いる?」

「ぶっ!!」

 ミアのその言葉に思わず吸い込んでいた水を吐き出してしまう。

「な、何だその思わず傷口が開いてしまいそうな突然の質問は!!」

 妙にリアルな表現である。

「いないの?」

「…まぁ、いないけど」

「本当?」

「本当だ、何度も言わすな」

 正直年頃の男子としてあまり口に出したくない台詞である。

 そう言って誤魔化す意味を混ぜ、また一口水を飲み込もうとすると

「うん、じゃあ私を恋人にしてよ」

 ブシュー…

 今度こそ本当に傷口が開いたかもしれない。

「な、何でそうなるんじゃぁぁぁ!!」

「えー、だっていないんでしょー」

「そりゃいないけど、何でそうなる?」

 あまりに前振りが無かったためか、ミアのその言葉に動揺を隠せないハヤト。

「大体俺は猫が嫌いだと言ったはず…」

「でも私は嫌いじゃないんでしょ」

「それはそれこれはこれ、大体だからって何でミアを恋人にする必要があるんだ」

「私がハヤトの恋人になりたいから」

「…マジ」

「うん、大マジ」

「……」

 ミアのその真剣な眼にハヤトは一瞬言葉に詰まる。

「だ、だがな、そういうのはもっとこう時間をかけてだな…」

 混乱しているのか自分で何を言っているのか段々解らなくなっていっているハヤト。

「好きになるのに時間は関係ないよ」

「屁理屈じゃねぇか…」

 そう答えるハヤトだが、つい先日自分が同じような台詞を言ったような気がして説得力に欠ける事に気づく。

「こ、これだから猫人は…」

 そのためか、返す刃で皮肉の一つも言おうとするが

「猫人は確かに気まぐれで自分勝手かもしれないけど、受けた恩は七代先まで忘れないよ」

「そりゃ恨みや怨念だろうが!!」

「まぁ、似たようなもんだよ」

「…うーん、そりゃ確かに、愛も恩も怨念も似たようなもんかもしれないが、…って違ぁう!!」

 逆にミアのペースに巻き込まれそうになるハヤト。

 と、言うより、すでにこの時点で巻き込まれていた。

「そういう問題じゃない!!」

「じゃあ、どういう問題なの!?」

「え、そうだな…、年齢の問題、種族の問題、家庭の問題、個人の問題、色々あるだろうが」

「年齢の問題は多種族複合国家の法律上問題なし、種族の問題は多種族複合国家を創ろうっていう学園の生徒なんだから問題ないでしょ、そういう件に関しては私の両親は了承してるので家庭の問題も問題無し、個人の問題は…個人の問題は私がハヤトの事が大好きっ、…それで何か問題ある!?」

 そう言ってミアは少し顔を赤くして大きめの声を出す。

 自分で言って顔を赤くして逆切れされてはたまったものではない。

 しかも

「俺の意思は無視かよ!!」

「うん!!」

「言い切るなぁ!!」

 ハヤトの意思は無視であった。

「だって、力づくでも絶対ハヤトの物になるって決めたんだもん!!」

「…何?」

 ギシ…

 そう言ってミアがベッドの上に身を乗り出してくる。

「お、おい、ミア!?」

「逆らったって無っ駄だよー」

 普段のミアからは発せられる事の無い妖しい光が、今の彼女の瞳から発せられていた。

「ちょ、お前何考えて…」

 そう反論する間にもミアはベッドの上を這ってハヤトの側に近寄る。

「んー、既成事実って奴を…」

「却下だ!!」

 ハヤトはどうにかしてミアを退けようとするが

「えいっ!!」

 ガバッ!!

 そこは怪我人、あっさりと押さえ込まれ、マウントポジションを取られてしまう。

「にひひー…」

 続けざまにミアはハヤトの体に抱きついていく。

「ちょ、ちょっと待て、ここは病院だぞ、だからそういうのはまずいわけで、いや、普段でも俺達の年齢を考えると十分まずいのだが、ってそうではなく道徳的にだな…」

 どうやらハヤトは混乱すればするほど口数が多くなるタイプのようだ。

「あー、もう、何いきなり発情期に入ってんだよ、お前は!!」

 しきりに体を摺り寄せてくる彼女のその行為は、確かに猫のそれを連想させた。

「えー、やだなぁ、発情期はまだ先だよぉ、今回は純粋にハヤトをGETするのが目的なんだから、こうでもしないと滅多にチャンスなさそうだしねぇ、あ、でもその時になったらまたえちぃな事しようね」

「こ・と・わ・る!!」

 断固拒否と言わんばかりにそう答えるハヤト。

「えー、どうしてぇ?」

「どうしてもだ」

「むー、あっ、そうか、ハヤトはちょっと変わった性癖の持ち主なんだね、それでそんな事言ってるんでしょ、大丈夫、どんなえちぃな事でも私はOKだから」

「お前もう少し自分のキャラクターを考えて発言しろ!!」

「大丈夫大丈夫、嫌なのは初めだけだって、体はちゃーんと素直に反応するんだから…」

 まるっきり悪人の台詞である。

 だがそんな突っ込みをする間もなく、ミアの指はスルスルとハヤトの服の仲へと滑り込んでいく。

「って聞けよ人の話、って脱がすな、ってお前も脱ぐなぁぁ!!」

 見ればミアもスルスルと服を脱ぎ始め、その若々しい肌をハヤトの前に惜しげも無くさらしていく。

「えー、興奮しないー?」

 それこそ、「さぁ、ご覧あれ」とばかりにハヤトに見せ付け、近寄るミア。

「そ、そそそ、そういう問題じゃないだろ!!」

 目に見えて動揺するハヤト。

 それはそうだろう。

 いかにハヤトとは言え、健全な青少年、このいきなりの状況に混乱するのは無理も無い。

 このままではえろい展開に、…失礼、もとい、えらい展開になってしまう。

「自分で言うのもなんだけど、私ってろりぃな体系しててあんまり魅力ないかもしれないけど、それなりに女の子なんだよ」

 ミアは覆い被さるようにハヤトの上に自分の体をピッタリと重ね、じらすように動く。

「どぉ?」

「は、恥じを知れぇ!!」

 もはやミアの方を見る事すら出来ないハヤト。

「そんな事言っても、こっちのは方は…」

 ミアの瞳の妖しさが一層増し、指は文章で書くと発禁になってしまう場所へと向かっていく。

「や、止めろぉぉーーー!!」

 そして、彼女の指がそれを捕らえようとした時

 バンッ!!

 と、言う程大きな音はしなかったが、ハヤトにとってはそれぐらい勢いのある音に聞こえた。

 そこに立っていたのは校長、チタ先生、ケンの三人。

 …さて、困った事にこの状況を文章にするのは極めて困難である。

 あえて言葉で言うならば言い訳のしようの無い状況と言った所だろうか。

「…おーおー、人が居ない間になーに盛ってんだおめぇら」

 ケンが露骨に顔をしかめてそう言う。

「ケン、てめぇ後でぶっ殺す…」

 しかし、ハヤトにとってこれは地獄に仏。

「む、それは穏やかではないな」

 …いや、地獄に閻魔大王だった。

「こ、校長先生…」

 なおも固まるハヤトを見る校長。

「ふむ…」

 それこそじっくりと。

「あ、いや、これはそのぉ…」

 若い、…寧ろ若すぎる男女がベッドの上で折り重なりあい半裸で絡み合っている。

 …どう言い訳しろと言うのだ。

「(…あー、こりゃ退学決定だな)」

 先の事件を解決してもこの状況では言い逃れの仕様が無い。

 本人にその意思が無くても罪は罪である。

 と、そう考えるハヤトだが

「ふむふむ、大いに結構」

「…へ?」

 校長のその一言がハヤトの頭の中を真っ白にし、思わず間の抜けた返事をしてしまう

「異種族間での不純異性交遊大いに結構、特に君のような希少な種族の異性交遊は決めて結構、どんどんやりたまえ」

「良いんですか?」

 そう言ったのは乱入者が現れてもハヤトから離れようとしないミアだった。

「うむ」

 そんなミアの言葉に校長は許可するとばかりにそう答える。

「ちょっ、何言ってるんですか!?」

「何なら続きをやりやすくするために出直すが?」

「はい、ありがとうございます、じゃあ、ちゃちゃっと終わらせますから」

 ミアは「いやん」と言った顔で顔を赤らめながらそう言う。

 その反面、そんな事は冗談ではないとハヤトは気が気でなく、顔はすっかり青ざめていた。

「…ふーむ、多少冗談が過ぎてしまったな、ハヤト君が今にも死にそうな顔になっているのでここら辺で止めておこう」

「えー…」

 不満を漏らすミア。

「(こ、この人こんな人だったっけ?)」

 露骨に苦悩するハヤトを無視して校長は話を続ける。

「続きは後でやりたまえ」

「はーい」

「やらんでいいっ!!」

 怒り爆発。

 ゲシッ!!

 早くどけと言わんばかりにミアを蹴り飛ばし、着衣の乱れを正すハヤト。

「…さて、それでは本題に移ろう」

「(…来たか)」

 先程までの不真面目な態度はこれへの複線。

 相手を油断させて隙を付くのは古来よりの戦法。

 死に行く者への最後の手向け。

 やはり校長、油断できない相手。

 …とばかりに、戦国武者風に腹をくくるハヤトだったが

「今回の件に関して君への処罰は一切無い、傷が治りしだい学園へ登校して来たまえ」

「…はい?」

 拍子抜けする言葉であった。

「今回の事件はこういう結末となった」

 そんな様を察したのか、校長は一束の紙、新聞紙をハヤトに手渡す。

「…学園、そして種族を越え命を賭けて愛する少女を救った人族の…英雄ぅ!?」

 一面にはでかでかとその文字が書かれていた。

「…何なんですかこれは!?」

「怪我のせいで思考が鈍っているのかね、君らしくない」

 ハヤトは続けて文面を読んでいく、その作業が進むに連れ彼の表情は険しくなっていった。

 その内容を見る限り、周到に用意されたか演出で文章が書かれている。

「まさか、あの時点でここまで手回しを…」

 校長室で話をした時には、こういうオチを用意されているとは予想できなかった。

「言ったはずだ、君に選択肢は無いと」

「陰謀だ…」

 つまり、校長は本来学園にとってマイナスとなるべき出来事を逆手にとって、英雄と言うものを作り出し、逆に学園の存在をアピールしたのだ。

 しかも本来の出来事よりかなり誇張され尾ひれがついている。

「これで君は学園にとって必要な存在となった、君を退学にするどころか、君が止めたいといっても止めさせるわけにはいかない事になってしまった」

「ええ…、ええ、そうでしょう、全ては校長の計画通りと言った所でしょう」

 それはいい、退学処分よりは英雄などというピエロを演じた方がましだ。

「ですがこれは何ですか、この愛する少女っていうのは!?」

 そう、ハヤトの怒りは新聞に書かれている内容だった。

「後この写真は!?」

 そこには大きな文字とともに一枚の写真が載せられていた。

 それは傷つくハヤトに抱きつくミアの姿だった。

「人々のが望む英雄のエピソードとはそういうものなのだよ、調度良い具合にミア君が協力してくれたのでね、まぁ、本人の希望が大きいようだったが」

「人が死にかけてる時によくもまぁやってくれたもんだ」

 ハヤトはミアを恨めしそうに睨む、だが、ミアの方は実に満足そうな笑みを浮かべていた。

「あの時の言葉をもう一度言おう、君が何も知らずにその状況に追い込まれたら…答えはすでに結果となって出ているがね」

「…うまい事校長の掌の上で踊らされたわけですか」

「君を信じての賭けだよ」

 実際、ハヤトのあの命がけの行動が無ければこういった情報操作もできなかった。

 その点で言えば校長の掛率はなかなかにすごいものだっただろう。

「口では何とでも言えますよ」

 ハヤトは新聞を乱暴に丸めてごみ箱に投げ込む。

「なお、事件の犯人、教頭先生は残念な事に教員免許剥奪となった」

「教頭先生もおかわいそうに…」

 そう、この一件の究極のオチがそれだ。

 当初からこの事件は偶然の積み重なりでここまで大きくなってしまったと色々言ってきた。

 そう、本来ならばもっと些細な出来事として終わるはずだったのだ。

 その究極のオチが事件のきっかけとなった壺。

「まさかたかだか数百円程度の壺だったとはねぇ」

 そう、壺は別に重要でも何でもないただのつぼだったのだ。

 それを勘違いした皆が話を勝手に拡大させ、挙句の果てにはこの現状である。

 結局、悪くても教頭の財布から数百円が消え、やや校長の機嫌が悪くなる程度の出来事だったのだ。

 本来ならばそこまで説明して教頭を説得するはずだったのだが…。

「馬鹿馬鹿しいオチだ」

 要するに揃いも揃って間の抜けた事をやっていたのだ。

「まったくだ、お陰で私の事務仕事が増えてしまった」

 その程度の問題なのかと突っ込みたくなるハヤトだが何とか自制するが

「…不服そうな顔をしているな」

「別にそんな事は…」

 口に出さなくても表情や態度に出ていたようだ。

「君の苛立ちの原因を当ててやろうか」

「え?」

「自分への処罰がこれほど少なくていいのだろうか」

「っ!!」

「どうやら図星のようだな」

 校長の一言はハヤトの今の心情を的確に一刺しした。

 ひょっとしたらハヤト自身その事に気づいてなかったのかもしれない。

「…それは、そうでしょう、あれだけの騒ぎを起こしておいて何のお咎めも無し、おまけに悪い事をしてきたはずの自分が英雄扱いですよ」

「そう卑屈に言う事もなかろう」

「ですがっ!!」

 ハヤトは校長の言葉に対して思わず大きな声を出してしまう。

「…ふーむ、君はどうも酷い学園ばかりを転校してきたみたいだな」

「え?」

「大方今まで迫害や疎外を受け、事ある度に責任を押し付けられてきたのだろう、おそらく今回の一件もそうだと思っていたのではないかね」

「…はい」

 少数民族の弱み、それは多数決で負ける事。

 民主的と言えば聞こえが言いが、必ずしも多数の方が正しい事ばかりとは言えない。

 時には少数の意見の方が正しい場合がある。

 だが、大多数の意見の前にそれは黙殺される。

 それが組織であれば致命的だ。

 具体的に言えば、学園などに置いて事が起きた時、クラスの生徒全員がたった一人に罪を着せるなどの行為は容易に出来る。

「勘違いされては困るな、ハヤト君、我が獣耳学園をただの学園と思わんでくれ」

「え?」

「我が学園は特殊だと言う事だ」

「…同じような言葉をそこにいる犬人からも聞きました」

 ハヤトはそう言うとドア付近に立っているケンを見る。

「ふふ、この学園に通学している生徒の中で、君が人族だからと偏見を持つ者はおらんよ、居たとしても真っ向から勝負してくる、我が学園はそういう連中が集まる学園なのだ」

「…みたいですね」

「君は…この学園が嫌いかね?」

「いいえ、大好きです」

 ハヤトはそう答えてニッと笑う。

「ならば結構、これからも我が獣耳学園に通学したまえ、少なくとも三年間は退屈させない約束をしよう」

「…そうでしょうね」

 ハヤトは多少うんざりと言った顔をしたが、先程までの暗い顔はもうしていなかった。

「さて、君が調子を取り戻したようで安心した、私は後始末が色々大変でな、今日はもう失礼する、また学園で会おうハヤト君」

「…はい」

 そう言って校長は去っていった。

 校長が去ったのを確認するとドッと疲れが押し寄せてくる。

 正直、通学するにしろもうあまり校長とは関わり合いになりたくないと思うハヤトであった。

「さて…」

 ハヤトと同じように校長が居なくなって緊張が解けたのか

「校長に代わって何か質問があれば私が受け付けるが?」

 チタ先生はベッドの隣にある椅子に座りそう言ってくる。

「そうですね、学園での俺の噂ってどんな事になってますか」

 あれだけの事をやったのだ、波風立たないほうがおかしい。

 これから学園に通うのであればそれらの情報は知っておいたほうが良いだろう。

「人族の英雄、噂の転校生と言った所かな」

「…まったく、誇張もいい所ですね、それは」

 ハヤトは露骨に嫌そうな顔をしてそう言う。

「後、君とミア君の仲がしきりに話題となっている」

「なっ!!」

「校長はああ言われたが私は生徒同士の行き過ぎた異性交遊は…」

「だ・か・ら、何でそうなるんですか!?」

「うむ、事件発生前日の学食での一件は多くの生徒に見られているし、今回の事件だ、そういう風に取られても仕方があるまい」

 傍観者の目で見れば、ミアを助けるためにハヤトが…と言った感じに取られなくも無いだろう。

 いや、寧ろそう取られる事の方が普通の状況である。

「別にあれがミアじゃなくたって、多分同じ事をしましたよ」

「しかし実際に君はミア君の命を救った、これは揺るがしようの無い事実だ」

「…それは」

「それに噂とは誇張され、尾ひれがつくものでね、この話には続きがある」

「え?」

「君とケン君との勝負、何時の間にかミア君を取り合っての勝負と言う事になっている」

『なっ!!』

 ハヤトは当然として、これにはケンも驚いた。

「どういう事だよ、おっさん!!」

「だから噂だ」

「どこからそんな噂が…」

「私が調べた所、噂の発生源はクラスの女子達」

 キユ、ミユ、コゥの三人の事だろうと予測するハヤトとケン。

「そして彼女達にそう仕向けるように指示した人物がいる」

「誰ですか?」

「…実はすでに私達の目の前に居るのだが」

 チタ先生の視線がある方向を向く。

 同じようにハヤトとケンもそちらを見る。

 三人の視線が一人の猫人に注がれる。

「…てへ、いやん」

「いやんじゃねぇよ、この馬鹿猫!!」

「あー、また馬鹿猫って言ったぁ」

「うるさい、馬鹿猫で十分だ、大体お前態度が豹変し過ぎなんだよ、人の名前を呼び捨てにするわ、いきなり襲ってくるわ」

「だって、ハヤトは命の恩人だもの、だから私は全てをハヤトに捧げるの」

『……』

 それはとても凄まじい台詞だった。

 その台詞に思わず男性陣が言葉を失ってしまうぐらいに。

「どういう極端な理屈だ、そりゃ…」

「そう言えば聞いた事があるな、猫人は一度決めた名前を変える事が無く、変える時はその者に生涯を捧げる時だと」

「…マジっすか?」

「教師として教える時には嘘はつかんよ」

「……」

 思わず黙り込むハヤト。

「おい、ハヤト…」

「何だ、ケン?」

「俺が言うのも何だが、ミアのしつこさは半端じゃないぞ」

「遠まわしな言い方だな、何が言いたい?」

「…諦めろ」

 ポン…

 ハヤトの肩に手を置いて実にさわやかに、マンガチックやアニメチックに言うならば歯をキランと光らせてケンはそう言った。

「ええい、不良のくせにさわやかに言うな、俺は断固として断るぞ、先生!!」

「何かな?」

「俺は後どれぐらいで退院できるんですか?」

「ふむ、脇腹の傷と右肩の脱臼、合わせて全治一ヶ月、だが退院と言う事ならば後三日もすれば自宅療養の許可が下りるはずだ」

「え、そうなんですか?」

 てっきり一週間や二週間は病院で過ごさなければならないと覚悟していた。

「後は精密検査だけだそうだ、君が倒れた原因は出血多量による気絶、傷自体は深かったものの、内臓系が傷ついていないので深刻なものではなかったらしい、よって食事制限等も無し」

「へぇ、そりゃ朗報だ」

 病院食というのもうんざりだが、食べる物に一々指示を出されるのも鬱陶しい。

「まぁ、しばらくは生活に不自由すると思うので病院生活を私は勧めるが…」

「お断りします、これ以上そこの馬鹿猫に襲われたくありません」

「ひどーい、何でそんなに邪険にするよの!?」

「俺はそういうの嫌いなんだ」

「え、ハヤトってホモ!?」

 これまたマンガチックやアニメチックに言うならば、某テニスマンガの某女性選手達のような驚きの表情をするミア。

「誰がホモだ、俺は女好きだ!!」

『……』

 否定のつもりで言った台詞だが、室内に沈黙が流れる。

 三者三様の視線がハヤトに向けられる。

 ハヤトはその状況を打破しようと考え込むが

「…いや、待て、待ってくれ、っていうか落ち着け俺、そして聞いてくれみんな、そもそもこの状況がおかしいのであって、別に俺がおかしい訳ではない、俺は健全な男子としてあくまで一般的なレベルで女性に興味があるだけで、取り立てて特筆すべきほど異常な興味があるわけではない、寧ろ彼女の行動こそが常軌を逸しているのであって、責められるべきは俺ではなく彼女だ、大体…」

 独り言のようにぶつぶつと言い始めるハヤト。

「おーおー、冷静に混乱してやがる」

 そんな様のハヤトをそう言ってケンが眺める。

 どうやら度重なる精神的なプレッシャーによって、彼のアイデンティティは崩壊寸前まで追い詰められているようだ。

「意外に弱い面があるんだな」

「そこまで悩むんなら無理しないで受け入れてくれればいいのに」

 さらっと凄い台詞を言うミア。

「お前のその極端な行動があいつを追い詰めたんだろうが」

「えー、でも体はちゃんと反応してたよ」

「…反応ねぇ」

「うん、ちゃんとた…」

 ミアの言葉を聞き終わる前に

 プッツン…

 何かが途切れる音がした。

 バタッ

 同時にハヤトが倒れこんでしまったのは言うまでもない。

「あ、とうとう限界超えたか」

「ハヤトー!!」

 その三日後、無事病院を退院したハヤトだったが、その間絶え間なく訪れるミアのせいで、彼が気を失った回数は軽く二桁に達した。



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