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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第05話「集え、獣耳学園」
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九時限目『恐怖の身体測定・当日午前』

 ~ 九時限目『恐怖の身体測定・当日午前』 ~


 四月十一日、身体測定当日。

 獣耳学園の生徒達は体育館に集められ身体測定の流れやスケジュールに関する説明を受ける事になっていた。

 その際の生徒達の誘導は生徒会に任せられており、生徒会長であるハヤトは二年生の各クラスの委員長に協力を求め一年生の誘導を行う事にした。

 二年生は勝手知ったる学園であるため誘導などせずとも体育館に集まる事が出来るだろうが、一年生はそうは行かない。

 そのためハヤトは各クラスの委員長に協力を求めたのだが、実はこれにはもう一つ理由がある。

 それは生徒会が本格的に始動したと言う事をアピールする事。

 一年度に関してはハヤトと一部の部活のみが生徒会として行動して来たが、私立獣耳学園の二年度が始まった今、より多くの者達にその事を知らしめる必要があったため、ハヤトは各クラスの委員長の協力を求めたのだった。

 そしてそんなハヤトの思惑は見事に成功する。

 全生徒は迅速に体育館に集められ、身体測定はトラブル無く始まる……かのように思われた。

「えー、本日の身体測定の前に新任の養護教諭の先生を紹介する」

 養護教諭とは保健室の先生の事である。

 俗に保健医と称される事もあるが、実はこれは誤った肩書きであり造語、架空の職名とされている。

 何はともあれ学園行事では何かと忙しい立場の先生であり、身体測定などは大忙しの先生である。

 そんな先生が壇上に上がった事によって様々な意味でざわめきが起こる。

 そこに立っていたのは種族を表す耳や尻尾の無い長い黒髪の女性。

「初めまして、人族アイです。皆よろしくねー」

 その女性とは言わずもがな生徒会長人族ハヤトの姉であった。



 体育館の幕裏にて

「……ハヤト君、あれって」

「言うな、何も言わないでくれ……」

 キユにそう述べながらハヤトは頭を抱え込んでいた。

 ハヤトがこの事実を知ったのはついさっき、アイが壇上に上がる為にハヤトとすれ違った時だった。

 その時のハヤトの表情は実に見物だったと後にキユは語る。

「何があったらこうなるんだ……」

 全てはハヤトの預かり知らぬ事であり、それが語られるのはまた後の話となるのだが、何にせよこの事実をハヤトはすんなり受け入れる事が出来なかったと言う。



 身体測定の説明後、生徒達は体育館から各々の測定場所へ移動を開始していた。

 一クラス約二十三人、一学年約十三クラス、二年生と一年生を合わせれその総人数は約六百人となる。

 その人数を効率良く測定するのは実に大変であり、生徒達にも自主的に行動して貰う必要があった。

 そんな訳である程度の順序は決められているが生徒達は個々で各測定場所に向かう事となっている。

「いやー、さっきはびっくりしたね」

「うん……」

 その道中でミアとミユは先程のアイの登場に関して意見を交わしていた。

「まさかお姉様がこの学園に赴任してくるだなんて夢にも思わなかったよ」

「少し見えたけど、ハヤトも知らなかったみたい」

「ってかお姉様って教員免許とか持ってたんだね。相も変わらず謎の多い人だ」

 この場にハヤトが居ればその意見に強く賛同し何らかのリアクションを返していた事だろうが、相手がミユではそこまで強いリアクションは期待出来ない。

「さてと、私達はまず保健室か」

「焦っても仕方が無いし、ゆっくり行こう」

「そうだね」

 身体測定は今日一日掛けて行われる。

 今日中に終わらなければ明日も行われる予定らしく、別段生徒であるミア達が焦る理由はまったくない。

「ん、あれは確か……」

 そんな道中にて、ミアは見覚えのある少女の後姿を見付ける。

「おーい、そこの一年女子の君ー」

「……私の事でしょうか?」

 ミアが声を掛けた少女、それは虎人エリザベートだった。

「そうそう、君の事。私の事覚えてる? この前の一年生歓迎バトルロイヤルで最後に戦った相手だったんだけど」

「はい、覚えています。ミア先輩ですよね」

「あれ? 私名前名乗ってたっけ?」

「……ミア先輩は何かと有名ですから」

 エリザベートは一瞬の間を置いてミアの事を知っていると語る。

「私に何か御用でしょうか?」

「ううん、別にこれと言った用があった訳じゃないんだけど、君の名前が聞きたくてさ」

「名前、ですか?」

 突然のミアの言葉にエリザベートは戸惑いと驚きの表情を見せる。

「別に問われて隠す必要はありませんが、何故私の名前など知りたいのですか?」

 本人も述べているが、先輩に名前を聞かれ別に隠す理由も無いため素直に答えても良かったのだが、エリザベートは何故ミアが自分の名前を知りたいのかが知りたかった。

「んー、何て言えば良いのかな。私の勘がこれから君と私は浅からぬ関係になると囁いているんだよ」

 ミアの思いもよらないその回答にエリザベートは困惑を隠せなかった。

「ついでに言えばあの時一緒に居た一年男子の名前も知りたいんだ。知ってたら教えてくれないかな」

 とりあえずミアは自分の問いに答えてくれた。

 困惑はすれどこちらに隠す理由はない。ならばとエリザベートは自分の名とエゼルの名を口にするのだった。

「エリザベートか、何か偉そうな名前だね」

「そう、ですか?」

「うん」

「呼び難ければエリザと呼んで下さい。そちらの方が呼ばれ慣れていますので」

「ふむ、じゃあ私は君の事をエリちゃんと呼ぼう」

「……どうしてそうなるんですか」

 エリザベートは脱力感と共に苦笑する。

「あ、もしかして嫌だった? 嫌なら止めるけど?」

「……いえ、ミア先輩の好きなように呼んで下さい」

 エリザベートはどちらかと言えば物静かなタイプだ。

 そのため本来であればミアの様な騒がしいタイプは苦手なのだが、不思議とミアには嫌悪感が沸かず逆に親しみの様なものまで感じ始めていた。

「あ、こっちの自己紹介まだだったね。って言っても私の名前は先刻承知済みか。じゃあここはミユちゃんの紹介をして置こう」

「え、私っ!?」

 驚くミユを他所にミアはエリザベートにミユの紹介を始める。

「よ、よろしくねエリザちゃん」

 自分の名を呼ぶミユを見てエリザベートは複雑な表情を見せる。

 ミアの友人であるミユと言う二年生、見た目は大人しそうに見えるが初対面で自分の事をちゃん付けで呼ぶ辺り、確かにミアの友人でありその類友である事は間違い無いようだった。

「それでエリちゃん、エゼル君はエリちゃんの彼氏だったりするの?」

「違います」

「ありゃ、断言しちゃんだ」

 勘が外れたとばかりにミアは残念そうな声を上げる。

「エゼルと私はただの友人です。彼に同じ問いをしても同じ答えが返ってくる事でしょう。……彼は、頭に馬鹿が付くぐらいの正直者で、ついでにお人好しですから」

「……んー?」

 エリザベートのその言葉のニュアンスにミアは何かを感じ取る。

「まぁ、それならそれで良いか。いきなり部外者が口出しするのも何だしね」

 何やら自己完結してしまったらしく、ミアはそれ以上の発言を控える。

「ミア先輩は本当に私の名前が聞きたいだけの理由で私に声を掛けたのですか?」

「うん、そうだよ」

「……そう、ですか」

「それがどうかした?」

 こうして会話を交わしていても、エリザベートが未だ何かに戸惑っているのは明らかだった。

 その理由をミアは率直に問い掛ける。

「いえ、エゼルといいミア先輩といい、この学園は変わり者が集まっていると聞きましたが本当なのですね」

 苦笑しながらそんな事を語るエリザベートだったが

「おっと、その学園に入学した時点でエリちゃんも変わり者の一員だったりするんだよ」

 ミアのそんな反論を受ける。そして

「……そうですね。そうかもしれません」

 エリザベートはその事実を認めて初めて笑みを見せるのだった。



 私立獣耳学園の話題になると何かと人族ハヤトが取り上げられる事が多いが、猫人ミアには人族ハヤトにはない特筆すべき点が存在する。

 それは人を惹き付ける魅力。

 彼女は常日頃から自然体でありそれに伴う無邪気さによって人の心を惹き付ける。

 事実、彼女は学園の内外問わずに人気が高い。

 何故そこまで彼女は人の心を惹き付ける事が出来るのかは誰も答える事が出来ない。

 ただ、世の中には理屈や理論をすっ飛ばして人を惹き付ける何かを持つ者が存在するのだ。

 ミアとエリザベートの出会いは、この後始まるであろうエゼルとエリザベートの関係に大きな影響をもたらす事となる。


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