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私立獣耳学園  作者: 御門屋運命
第05話「集え、獣耳学園」
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十時限目『恐怖の身体測定・当日昼食』

 ~ 十時限目『恐怖の身体測定・当日昼食』 ~


 獣耳学園、食堂。

「で、お姉様から何か聞き出せたの?」

 パンを食べている相席のハヤトにさんま定食を食しながらそんな問いを投げ掛けるミア。

「何も聞き出せなかった」

 朝礼後、ハヤトは姉のアイに対して事情を問うが満足の行く回答を得られなかったと言う。

「いや、そもそも聞き出せる筈が無かったんだ。今の俺と姉上では格が違い過ぎる」

「おっと、『今の』って言葉が付けられている辺り、何時か上回る気満々ですか」

「当然だ。俺は未来をこの手で勝ち取ってみせる」

「……随分と話が膨らんでない?」

 そんなハヤトにツッコミを入れたのはキユだった。

 ちなみに彼女が食しているのは野菜炒め定食であり、彼女の隣に座るミユも同じものを食べていたりする。

「これが比喩であれば俺の苦労はもっと小さかっただろうな」

「どんだけ凄いのよアイさんって」

 キユとしては極々良識的な意見を述べたつもりだったが、その意見に対してハヤトは「無知は至福であり知らぬが仏だ」などと誰にも聞えない小声で呟いたと言う。

「何はともあれ姉上が赴任して来た以上、この学園の生活は更に混沌と化すだろう。皆も気を付けるんだな」

「その意見には私も賛成かな」

 ハヤトの言葉に賛同したのはミアだった。

「ほら、世の中には本人に自覚は無くても居るだけで何かと周りを巻き込む人っているじゃない。お姉様ってそれの典型的な例だと思うんだよね」

「なるほど、確かにミアの言う通りだ。姉上はそう言ったタイプだな」

 そう納得し合う二人であったが

「えー、あー、ちょっとー、お二人さーん」

「そこはあれか、全力で突っ込んで良い所なのか?」

 キユとケンの二人が異論の声と言うか突っ込みの声を上げる。

 これまでの例を考えるならばハヤトとミアも周りを巻き込むタイプと考えて間違いないからだ。

「まぁ、何にせよ俺としてはあの人の悪口はあまり言いたくねぇな」

「……あれ? ケンってお姉様と面識あったっけ?」

 ミアが知る限りでは昨年の合同体育祭の時に顔を合わせたぐらいだった。

「お前が知らない間に色々と恩が出来たんだよ」

 それ以上は語らずケンは目の前の焼肉定食を食す作業に戻る。

「それにしても、食堂でこうやって皆で食事をするのは久しぶりだな」

 13クラスの面々は基本的に自教室で昼食を取る。

 食堂を利用するのはトラブルがあって昼食が用意出来ない時か行事がある時ぐらいなものだ。

「あー、ハヤトが転校して来た日以来かな」

「そう言やあの時もコゥの奴は居なかったな」

 思い返せば今居る面々もあの時に居た面々、ハヤト、ミア、ケン、キユ、ミユの五人だった。

「委員長は何かと忙しいからな。それでも後で顔を出すと言っていたから、一年前に比べれば団結した方だろ」

 一年前に比べれば13クラスの面々の交流は比較にならない程に深まっていると言って良いだろう。

「後輩も出来たし、いやー、年取ったって感じがするねぇ」

「一年程度で何言ってるんだか」

 解かり易いボケとツッコミを交わすミアとキユだったが

「あの、すみません」

 13クラスの面々の前に一人の犬人族の女子生徒が姿を現し声を掛けて来る。

 私立獣耳学園では各学年の見分けを良くするために男子はネクタイ、女子はリボンの色を学年毎に変えている。リボンの色を見る限り一年生であるらしい。

「ん、お前は確か……」

「お久しぶりです。ケン先輩」

 どうやらケンの知り合いであるらしく、女子生徒は面々に一礼するとケンの前に歩みを進める。

「おう、久しぶり。何だ、お前も獣耳学園に入学してたのか」

 親しげに会話を交わす二人を前に、13クラスの面々は互いに顔を合わせるだけで口を挟む余地が無かった。

 だが、そんな会話もすぐに終わる事となる。何故なら

「ケン先輩、これを……受け取って下さいっ!!」

 顔を真っ赤にし、女子生徒は一通の手紙をケンに渡して立ち去ってしまったからだ。

『……』

 一同沈黙、と思われたが

「それってラブレターって奴?」

「顔真っ赤にして、可愛い子だったね」

 真っ先に口を開いたのはミアとキユだった。

「それにしても人が大勢居る前で勇気あるなぁ」

「凄いなぁ、私にはあんな事するの絶対無理だよ」

 続けてそんな言葉を発しテンションが上がる二人だったが

「……とりあえず、読んでみたらどうだ?」

「そう、だな……」

 男子二人のテンションは微妙に低かった。

 宣言通り、ケンは手紙を開封し中身を一読する。

「どんな事が書いてたの?」

「それはプライバシーの侵害だから黙秘させて貰う。けど、あいつ俺に気があったんだな。全然気付かなかった」

「ほぅ、ずばり二人の関係は?」

「中学の頃の部活の先輩後輩だ。それ以上でもそれ以下でもなかった」

 ミアとキユの質問に素っ気無く答えてケンは手紙を閉じる。

「それで、返事はどうするんだ?」

「俺にはもう相手が居るからな。断って来る」

 ケンはそう述べると食器を返却口へ持って行き、そのまま食堂を後にするのだった。

「相手が居る、だってさ」

「ケンも言うようになったよねぇ」

「名前を出さない辺りがヘタレだけどね」

「そこはケンらしいって言ってあげようよ」

「それにしたってケンも隅に置けないなぁ。性格はちょっと捻くれてるけど、あれで顔は良い方だもんね」

「そうそう、中学時代に結構モテてたって情報もあるんだよ。本人は気付いてなかったらしいけど」

「あはは、やっぱりケンだ」

「だよねー」

 ミアとキユは当事者が居なくなってからもあーだこーだと会話を続けるが

「……二人とも、その辺にしとけ」

「おや、ハヤトはケンの肩を持ちますか?」

「はっきり言い切る辺りはケンの方が男らしいと思うけど?」

「二人が言いたい事は解かるが、噂話をするなら周囲を確認してからした方が良い」

『周囲?』

 ミアとキユは二人して周囲を、後ろを見る。

 そこには笑顔であるが微妙な怒気をかもし出しているコゥが立っているのだった。

「……わーお」

「えー、何処からお聞きでしたか?」

 冷や汗を流しながら問い掛けるミアとキユ。

「さぁ、何処からでしょう」

 二人の問いにコゥは答えなかったが

「ケンがラブレターを貰った辺りからずっとそこの席に座って聞き耳を立てていた」

 ハヤトはあっさりとその事実を暴露するのだった。

「ちょっとハヤト君……」

 ハヤトのその発言に余計な事を言うなと述べようとするコゥだったが

「良いじゃないか。俺にはもう相手が居るってケンが言った時に嬉しそうな顔してたし」

「なっ!?」

 更に意地の悪いハヤトの発言によってその言葉は黙殺されてしまう。

「へー」

「ふーん」

 にやにやと笑いながらコゥを見詰めるミアとキユ。

 立場逆転である。

「……こほん、じゃあ、そう言う事で私はケンの後を追います」

 形勢が不利と見るや否や、コゥは即刻この場を後にするのだった。

「やれやれ……」

 そんなコゥを見送った後でハヤトも席を立つ。

「おりょ、ハヤトもどっか行くの?」

「委員長が来たって事は午後の準備が出来たって事だからな。生徒会長は何かと忙しいんだよ」

 そう言い残しハヤトも食堂を後にする。

「……逃げたな」

「どう言う事?」

 キユの発言の真意が解からず問い掛けるミア。

「実はさ。まだ裏が取れてないんだけど、ハヤト君もラブレターとか受け取ってるらしいんだ」

「マジでっ!?」

 それは一大事とばかりに声を上げるミア。

「獣耳学園って何かと変り種が集まるじゃない。中には高校デビューって事で入学式から生徒会長にアタック掛けてる女子生徒が何人か居るんだって」

「ほほぅ、だから話の矛先が自分に向く前に逃げたと」

「まぁ、それもあるんだろうけど……」

「まだ何かあるの?」

「ハヤト君、全部その場でお断りしてるんだって」

 ラブレターを渡される事自体はハヤトに責任がある訳ではない。

 そのため必然的にハヤトがそれを受け取ってどうしたかが問題となってくるのだが、ハヤトはそれを受け取らず断っているとの事だった。

「ふむ、偉いじゃない」

 若干複雑な心境ではあったが、そこは素直にハヤトを褒めるミア。

「これはあれかな、私達に気を使っていると考えて良いのかな?」

「それ以外考えられないでしょ」

「……逆の発想で今のハヤト君は恋愛する気がまったくありませんって考えにはならない?」

「んー、もしそうならそう言うと思うなぁ。ハヤトって自分が決めてる事ははっきり口にするタイプでしょ。他の女の子達の申し出を断ってて、私達の問いには答えないってのは、逆に私達が特別って考えるべきじゃない?」

「前向きだねぇ、ミアちゃんは。でも……あんまりコゥちゃんの事笑えないか」

 ミアの言う事は一理あるとキユも考え、もしそうであるならと考えると顔がにやけるのを自覚し、先程のコゥの行動を笑えないと自嘲するのだった。

「っと、そうだ。キユちゃんに頼みたい事があるんだった」

「ん、何?」

「一年の女子に白い髪の虎人でエリザベートって子が居るんだけど、その子と一年男子の犬人エゼルって子が今どう言う関係なのかって調べられる?」

「んー、まぁ、簡単な聞き込み程度の情報で良ければ調べられるかな」

 人間関係は一概に情報で判断できない事が多い。

 そのためキユはそんな前置きを付け加えるのだった。

「悪いんだけどお願い出来ないかな」

「大っぴらに言い触らさないって約束してくれるなら良いよ。新聞部にも新一年が沢山入って来て、ここらで一年の人間関係も調査しなきゃと思ってたしね」

 新人研修の一環として新聞部としてもそう言う企画があがっているらしい。

「でも珍しいね。ミアちゃんが他人の人間関係知りたいだなんて」

 基本的にミアは関係を作る側であり、彼女は彼女を中心に関係を作って行く。

 そのため既に出来上がっている他者の関係はその者達と関係を作って知る事が多いのだが、今回は珍しく事前にその関係が知りたいらしい。

「ちょっと気になってね。余計なお節介って言うか、背中を押したくなる子だったんだ」

「なるほど、んじゃその辺りの話をもう少し詳しく聞きましょう」

 そんなこんなでミアとキユの会話は更なる盛り上がりを見せるのだった。

 ちなみにそんな悪巧みをする二人をミユは止めようとするが結局巻き込まれる事となったりする。

 その点から言えば、キユもなかなかどうして周囲の人間を巻き込むタイプだと言えるだろう。


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