六時限目『新入生歓迎バトルロイヤル 後編』
~ 六時限目『新入生歓迎バトルロイヤル 後編』 ~
残り僅かとなった一年生達。
その数は既に一桁となっており、その最後の生き残りである数名も二年生達に包囲されていた。
「……ここまでか」
その生き残りの中に虎人エリザベートも含まれていた。
彼女は勇猛果敢に前線で戦い続け最後まで生き延びて来た。
それは称賛に値する出来事だったが数の暴力を覆す事は出来ず、今まさに最後の時を迎えようとしている。
「ふっふっふ、良くぞここまで生き残ったと褒めてやろう。だがそれもここまで、貴様等はここで死を迎えるのだ」
高らかと声を上げ勝ち誇るミア。
「……まるで悪役だな」
その様子を的確な言葉で表現するケン。
「いやー、一度こう言う台詞言ってみたかったんだよねー」
どうやら本日の彼女は悪役テイストで事を進めたいらしい。
「そう言う台詞言ってるとここぞと言う時に邪魔が入るぞ」
「それはそれで面白そうだからオッケー」
「やれやれ」
「さて、そろそろ覚悟は良いかな?」
手を上げ、皆に一斉射撃の合図を送ろうとするミア。
「最後に言い残したい事があれば聞こう」
「……無念だ」
志半ばで倒れる事に悔いがあるのか、エリザはそんな最後の言葉を残す。
「よろしい、では死ねいっ!!」
エリザ達の命を断つべくミアは上げた手を振り降ろそうとするが
「ちょっと待ったぁっ!!」
そこに颯爽と現れる一人の犬人がいた。
エゼルである。
「見ろ、お前がぐずぐずしてるから邪魔が入ったじゃねぇか」
「なるほど、悪役って敵を倒す前の台詞が長いから邪魔されるんだね」
ケンの言葉に対してミアはそんな感想を述べるが
「それで、たった一人で現れて君は何をしようと言うのかな?」
ここまで来れば最後まで悪役を貫き通そうとするのだった。
「俺は……一人じゃないっ!!」
二年生達の前にたった一人で現れたエゼル。
今や二年生達の注目は彼一人に向けられていた。
「そこに付け入る隙が生まれるのさっ!!」
声を上げ現れたのは鼠人エオルだった。
彼はエゼルとは反対方向、二年生達の背後に姿を現し、その手にはある物が握られていた。
それはグラウンド整備用の散水管であった。
バシュゥゥゥッ!!
グラウンド全域に届く程に強力な水流が二年生達を襲う。
この突然の水流に密集していた二年生の大半はその風船を割られてしまい無力化されてしまうが
「ケンッ!!」
「おうっ!!」
ミアとケン、この二人の反応は他の面々の比ではなかった。
二人はエオルが散水管を取り出すと同時に左右に散開し、左右からエオルを挟撃しようとする。
「くっ!!」
その動きを見たエオルはすぐに散水管を片方、ミアの方向に向けるが
タタタタタッ!!
「嘘んっ!?」
ミアの動きは早く、散水管から放出される水が彼女に届く前に他の場所へと移動し続ける。
その動きに着いて行こうとエオルはミアの動きに集中するが
「後ろががら空きだぜっ!!」
その隙を突き、もう片方に散開したケンが反対方向からエオルを攻撃しようとする。
ミアに気を取られているエオルは無防備であり、ケンは自分の攻撃が決まると確信するが
ゾクッ!!
「っ!?」
突如襲い来る異様な気配を感じ
「う、お、おぉぉぉっ!!」
ド、ダ、ズザザァ……
自らバランスを崩す事によって地面を転げ、その気配の源、シロウの発する水撃を回避する事に成功する。
「何っ!?」
ケンのその動きはシロウを驚愕させる。
戦場帰りの彼にとってこのバトルロイヤルは遊びのようなものだった。
それでも手を抜かないのは彼が色々な意味で真面目であるからだが、そんな彼の攻撃を、気配を消しての死角からの攻撃をケンは回避したのだった。
「痛たた、ったく、伏兵とはちょっとやり方が卑怯じゃねぇか? ってかお前今殺す気でやっただろ」
ケンが感じた気配、それは紛れもない殺気であった。
「戦いは勝たなければ意味が無い。卑怯かどうかなどと言う話は生き残らなければ出来ない話だ」
互いに体勢を立て直し真正面から向き合うケンとシロウ。
「今の一撃、避けられるとは思っていなかった」
出来れば理由を聞きたいとシロウは述べる。
「あん? ああ、つい先日死に掛けたせいか最近何か妙に身の周りの気配に敏感なんだよ。まぁ、それはさておき最後まで生き残った奴が勝ちってのは賛成だ。死んだら何も出来ないからな。お前もあれか、死に掛けた事がある口か?」
「……黙秘する」
黙秘すると答えるシロウだったが、普通の人生を送っている人間にはなかなか達する事の出来ない境地と言う物がある。
口で述べるのは簡単だが、真にその境地に達する事が出来るのは死を体感した事がある者のみだと言う事をケンはつい先日知ったのだった。
「さて、長々と話し込んじまったが……続きを始めようぜっ!!」
互いに一歩を踏み出し二人の銃が交差する。
一方、ミアとエオルの闘いはミアの勝利と言う形で呆気無く幕を下ろしていた。
「うう、やっぱ相性悪いなぁ……」
何か思うところがあるのか、エオルは倒れながら悔し涙を流すのだった。
「おー、あっちは何か燃えてるねぇ」
遠巻きにケンとシロウの闘いを少し観戦した後
「流石にあれに加勢するのは無粋だなぁ、……って事は」
そんな感想を残し、ミアは残った一年生達の方に視線を向ける。
見れば残った一年生達は同じく残った二年生達と攻防を繰り広げており、一年生達の中には先程姿を現したエゼルも加わっていた。
「ふむ、なかなかのヒーローっぷりだね」
エゼルの登場は実に劇的であった。
彼の登場によって流れは変わり、一年生達は息を吹き返したかのようにも見えた。
特にそれまで一年生達を率いていたエリザは目に見えて動きが変わっており、エゼルと肩を並べて戦える事を楽しんでいるようでもあった。
「知り合いの女子生徒の危機に颯爽と現れた男子生徒か。……ふふ、ならばやはりここは悪役らしく横槍を入れに行かねばなるまいなっ!!」
その様子を見てミアは再び己の使命を取り戻すのだった。
ザッ……
「さっきはよくも邪魔してくれたね。でも、奇跡は二度起きない」
悪役らしく残った一年生達を殲滅しようと考えていたミアだったが、ミアが二人の下に辿り着く頃には既に勝敗は決していた。
如何に一年生達が善戦したとしても数の差を覆すことは出来ず、一年生達は残すところエゼルとエリザの二人だけとなっていたのだ。
「そっちの子にはさっき聞いたからもう良いとして、君は何か言い残したい事はあるかな?」
どうやらミアの中の悪役は最後に言い残したい事を聞くのが定番であるらしく、エゼルに対してそんな言葉を投げ掛ける。
「そうですね。……取り引きをしませんか?」
「ほぅ、取り引きとな?」
思わぬその言葉にもミアは悪役を演じつつ対応する。
「今回の新入生歓迎バトルロワイヤル、新入生歓迎と言う事もあって在校生である二年生には何の特典も報酬も用意されていないように思えます」
事実、生徒会長ハヤトは一年生が生き残った場合の話はしたが二年生が一年生を撃退した時の話は一切していない。
「俺とエリザのどちらかの特権を先輩達にお譲りする代わりにここは見逃して欲しい……ってのはどうですかね?」
「ふむ……」
エゼルの提案にミアは一瞬考える。
エゼルの述べた様に今回二年生には何の特典も報酬も用意されてはいない。
感情論や倫理的な話は別として、彼の提案は面白くもあり魅力的でもあったと言えるだろう。
「止せエゼル、私はそんな事をしてまで生き残ろうとは思わない」
一方で取り引き側の方割れであるエリザはその提案に否定的だった。
「どうですか?」
だが、エゼルはそんなエリザの言葉を無視して取り引きを進めようとする。
その際、ミアは考え込む自分の隙を窺う様に視線を逸らすエゼルの動きを見逃さなかった。
「答えはノーだね」
「良い取り引きだと思ったんですが、駄目ですか……」
「悪役として悪い取り引きには応えたい所だけど、そう言う火種になるような提案を受ける気にはならない」
この提案を受ければ一年生も二年生も互いに特権を得る事が出来る。
取り引きとしては良い案とも思えるが、この提案を受けた場合、二年生達に一つの問題が生まれる事となる。
それは誰が特権を使用する事が出来るのか。
その話がこじれれば後々二年生達は内部分裂する可能性も出て来るだろう。
「悪役とは言え私達は正々堂々君達を打ち負かさなくちゃいけないからね。特権とか報酬は二の次なんだよ。それに、君の目はどうにもまだ諦めてる感じじゃないんだよね」
ジャキッ……
そう述べ、ミアは銃口をエゼルに向ける。
「残り時間は約五分。ずばり君の目的は時間稼ぎによるタイムアップで、三人揃って生き残る事が目的だね」
先程エゼルが見ていたのは学園の校舎の上に設置された大きな時計であった。
エゼルは自分かエリザのどちらかの特権をミア達に譲ると申し出た。
そう、その提案の中にまだ生き残っているシロウの特権は含まれていない。
「私達が仮に提案を受けたとして、君達に二つの特権があり私達に一つの特権がある場合、君達は一つの特権を犠牲にして私達の特権を消す事が出来る。そうなれば私達は君達に完敗してしまう訳だ」
今回の戦いの真の目的は個人の特権を得る事ではない。
一年生達はそうであったかもしれないが、二年生にとっては一年生を実力で打ちのめす事に意義があるのだ。
「よって、私達は君の提案も受けないし、君達に勝利も譲らない」
「そこまでお見通しですか、これは負けたかな……」
自分の考えを全て看破された今、エゼルは敗北を認めざるを得ない状況となったが
「……それでも、黙ってやられる訳にはいかないっ!!」
ジャキッ……
エゼルは銃口をミアに向ける。
「諦めろエゼル、私達に勝ち目は無い。無駄な足掻きをするぐらいなら潔く負けを認めよう……」
「エリザ、それは違う」
既に抵抗の意思を見せないエリザにエゼルは語る。
「生き残った奴には生き続ける義務と責任があるんだ。だから俺はどんな手を使ってでも最後まで生き残ろうとするし、最後の最後まで悪足掻きをする。それが生きるって事なんだ」
「エゼ、ル……?」
エゼルの言葉に何かを感じたのか、次の瞬間エリザの瞳には明確な抵抗の意思の光が生まれていた。
「ご立派な意見だけど、力なき者の遠吠えにしか聞こえないね。さぁ、死ぬが良いっ!!」
残り時間も少ない。
ミアはここで確実にエゼルの息の根を止める為その引き金を引くが
「エゼルッ!!」
引き金が引かれると同時にエリザはその身を呈してエゼルを守るのだった。
「エリザッ!!」
直撃、エリザはあえなくこのゲームからの脱退を余儀なくされる。
「どうして……」
「ふふ、私もまだまだ諦めが悪いと言う事だろうな……」
表情自体に変わりはないが、エゼルには心なしかエリザが笑っている様に見えたと言う。
「ほぅ、なかなかどうしてこちらもヒロインしてるねぇ。でも、順序が入れ替わっただけで結果は……」
ミアは続けてエゼルを撃ち抜こうするが
キーンコーンカーンコーン……
学園中にチャイムの音が木霊する。
それはゲーム終了を知らせる合図であった。
「ええっ!? 何で? まだ時間あるじゃん!!」
大時計の針はまだタイムアップの時刻に達してはいない。
それなのにチャイムは学園中に鳴り響いていた。
「ちょっとー、これどう言う事なのー?」
「説明しよう」
説明を求めると言わんばかりのミアの前に現れたのは、このゲームの総責任者であり生徒会長でもあるハヤトだった。
「どっかの馬鹿が防犯装置を作動させたせいで学園内の電子機器が数分ずれている」
防犯装置が作動した場合、二次災害を防ぐため一時的に電気ガス水道がストップするのだとハヤトは説明する。
「今学園内のあちこちの機器のずれを修正して回っている所だ。ちなみにこのチャイムは正規の時間に合わせて鳴らされている。だからもうゲームは終わったって事だ」
「えー、そんなー」
不満の声を上げるミアだったがこの場合は身から出た錆、因果応報と言うしかないだろう。
「愚痴りたいのはこっちの方だ。お前のせいで俺は警察や消防の対応までしなきゃならないんだぞ」
総責任者であり生徒会長でもあるハヤトは様々な対応に追われていると言う。
「とにかくだ。現時点を持って新入生歓迎バトルロワイヤルは終了とする。今回のゲームの勝利者は新入生達、最後まで生き残ったのは狼人シロウと犬人エゼルの二人だ」
ハヤトのその言葉によってゲームの幕は降ろされ、正式に勝利者の名が発表される事となるのだった。
戦いは終わった。
エゼルとシロウの二人は新入生達に歓呼の嵐で迎えられ、共に善戦した事が解かっている当事者達、一年生達と二年生達はお互いの健闘を称え合ったと言う。
そんな中、生徒達の関心は自然と生き残った二人がどのような特権を求めるかと言う点に集まり出す。
ゲーム発表当日に特権を選ぶ事は難しいであろうと言うハヤトの配慮より、特権の内容は後日改めて問う事になったが、二人が求める特権の内容は再び二人に様々な関心を集める事になるのだった。




