五時限目『新入生歓迎バトルロイヤル 前編』
~ 五時限目『新入生歓迎バトルロイヤル 前編』 ~
四月七日、朝。
私立獣耳学園の体育館には新入生達は集まっていた。
今日を境に自分達は獣耳学園の生徒となる。
その事実に喜びを隠せない新入生達だったが
「今からちょっと在校生達と喧嘩をしてはもらえないだろうか。題して、新入生歓迎バトルロイヤル」
式の終盤にて私立獣耳学園生徒会長人族ハヤトが発したその言葉は場を一変させる。
驚きざわめく新入生達を余所にハヤトは説明を進めて行き
「最後まで生き残った数名には、生徒会権限において一年間の特権を与えるものとする」
イベントの趣旨と報酬を端的に伝えるのだった。
『おおおぉぉぉぉーーーーーっ!!』
もはや新入生達は臨戦態勢に入りその時を今か今かと待ち望む。そして
「では、これより新入生歓迎バトルロイヤルを開始する」
戦いの火蓋は切って落とされるのであった。
さて、ここでルールを纏めて置こう。
基本的なルールは良くある風船割りゲームと大差はない。
ゲーム参加者には紙風船付きの帽子が配布されその風船が割れた時点で失格となる。
風船を割る方法に制限は無いが、同時に配布された水鉄砲で相手を仕留めた場合は個人ポイントが加算される。
制限時間は一時間であり、その時間内を生き残り最も多くのポイントを集めた上位三名に特権が与えられる事となっている。
尚、支給された紙風船付きの帽子と水鉄砲は獣耳学園科学部の英知の結晶であり、生徒の様々な情報と連動し不正はし難い仕様となっている。
開戦直後。
「よっしゃぁ、一番乗りだっ!!」
勢い良く体育館を飛び出す一人の新入生男子が居た。
入学式を終えてとうとう始まった学園生活の初めてのイベント、言わば初陣、その記念すべき第一歩を誰よりも早く踏み出そうと思ったのか意気揚々と新入生男子生徒は体育館を飛び出すが
パパパパパンッ!!
人生そう甘くはない。
単独で敵陣の前に姿を現してしまった彼は二年生達の集中砲火の前に散る事となるのであった。
「(ああはなりたくないなぁ……)」
そんな彼の姿を目の当たりにしたエゼルは、否、新入生達は一様にそんな考えを抱くのだった。
顔を合わせて日が浅い新入生達の連携は甘く、仲間とは言え見知らぬ誰かのために我が身を犠牲に出来る者など居ない。
そのため当初は好戦的であった新入生達は体育館の外壁を盾に籠城に近い形の戦い方となって行ってしまう。
そんな皆の戦い方を一歩引いた所で見ていたエゼルであったが
「エゼル、こっちだ」
エオルとシロウの呼び掛けを受け二人の下へ近寄る。
「今の内に裏口から脱出するぞ。既に退路は確保した」
「え?」
二人のいきなりの発言にエゼルは戸惑いを隠せなかった。
「籠城ってのは援軍が期待できる時にやってこそ意味がある策だ。現状だと効果は薄い」
「エオルの言う通りだ。場所が場所だけに地の利は敵にある。おそらく正面の敵軍は我々を建物内に閉じ込めておくための囮、すぐにここは包囲される事となるだろう」
こちらの注意を正面に引き付け包囲した後に一斉に突入する算段だろうとエオルとシロウは説明する。
「大変だ、すぐ皆に知らせないと……」
エゼルは今聞いた話を皆に伝え様とするが
「待て、それはまずい」
「え?」
「一斉に脱出しようとすれば敵はそれに乗じて攻勢に出るだろう。脱出するなら少数で気付かれない間の方が良い」
「今戦っている奴等を囮に使うって事か?」
二人とも明言はしていないが仲間である新入生達を囮として使うつもりであるようだった。
「エゼル、お前まさかそんな真似出来ないとか言うつもりじゃないだろうな」
「……いや、この場は二人の方が正しいと思う。異議無しだ」
「ならば早く脱出しよう。多少の敵は俺が蹴散らす。二人とも遅れずに着いて来てくれ」
シロウを先頭に三人は二年生の包囲網を突破する事に成功するのだった。
「流石だな。ミア達の動きを良く読んでいる」
生徒会室にてその様子をモニターしていたハヤトは感嘆の声を上げる。
「一年生達に比べて二年生達が団結していると言っても、本場の実戦経験のある者の相手をするのは大変でしょうね」
隣で同じ様にモニターを眺めながらコゥも称賛の声を上げる。
「シロウの実力は折り紙付きだからな。指揮官としてはその力量を確かめる為に一度敵対してみたいところなんだが……」
「主催者がイベントに加わるのは御法度よ」
「解かってるよ」
今回の新入生歓迎バトルロイヤルは生徒会が新入生達のために企画したイベントである。
そのためハヤトとコゥは生徒会役員としてイベントには参加していなかった。
「それにしてもこの犬人は何者だ?」
モニター上のエゼルを指差しコゥに問い掛けるハヤト。
「こっちの鼠人は知っている。性格に少々難はあるが裏の世界じゃ割と有名な奴だ。腕の方も確かで以前一度出し抜かれた事がある。……だが、こっちの犬人は見た事がない」
「犬人エゼル、北部の出身ね。手元のデータを見る限りじゃ特に目立った所は無し、私の情報網にも連絡が無いわ」
「居合わせただけのただの凡人か、それとも委員長の情報網にも引っ掛からないような掘り出し物か」
「どちらにせよ見物ね」
今日は見に徹すると決めた以上、ハヤトとコゥは純粋にこのイベントの決着がどの様に着くのかを楽しむのであった。
「どうやら脱出出来たようだな」
包囲網を突破したところでシロウはようやく足を止め後ろを振り返る。
「はぁ、はぁ、凄いな、シロウは」
息一つ乱していないシロウに対しエゼルは肩で呼吸をしていた。
包囲網を突破したと文章では軽く述べているが、その間は肉体精神共に酷使を続ける全力運動であり、並みの人間であればエゼルの様になってしまうのは仕方が無い事だった。
「エゼルが軟弱過ぎるんだよ」
シロウと同じ様にエオルは息一つ乱さずエゼルにそんな言葉を投げ掛ける。
「いや、体力とか、そう言う以前に、何て言うか……」
未だ息絶え絶えだがエゼルが言わんとしている事はエオルにも解かった。
それはシロウの圧倒的戦闘力。
道中待ち伏せしていた二年生達をシロウはたった一人で相手をしその全てを倒して来た。
彼の放つ水鉄砲は百発百中で紙風船を射抜き、敵の攻撃は全て回避してみせた。
その様子は異常とまで言って良い程だったと言う。
「まぁ、元ゲリラならこんなバトルロイヤルなんて遊びだろうさ」
「え、何か言ったか」
「おっと、いや、何でも無い無い……」
口が滑ったとばかりにエオルは自分で自分の口を塞ぎ苦笑いを浮かべる。
「さて、敵の包囲網は突破出来たがこれからどうする?」
「制限時間は決まっているんだ。さっきの戦闘でシロウはポイントを荒稼ぎしてるし、ここは逃げの一手で逃げ切った方が良いだろう。あわよくば俺やエゼルのポイントも稼げれば良いんだが、まぁ、建物の中なら幾らでも隠れる場所がある。ここは身を隠しながらチャンスを待つとしよう」
仲間の一人が上位三名に入る事が確定している今、これ以上の危険を冒す必要はないとエオルは述べるが
「……うーん」
エゼルは一人悩んでいた。
「エゼル、どうかしたのか?」
「外に出ないか?」
「は? 何言ってんだよエゼル」
「戦術的に考えて逃走の際には障害物が多い方が有利だ。校庭では包囲された場合に逃げ場が無い」
「いや、二人の言ってる事は尤もだと思うんだけど、何て言うかな……さっきから何か嫌な感じがするんだ」
『嫌な感じ?』
「悪い、うまく言葉に出来ない。でもこう言う時の俺の予感って良く当たるんだ。一つ俺を信じて貰えないかな?」
エゼルのその言葉を受け、エオルとシロウは顔を合わせ僅かに考えるのだった。
二年生の包囲網を突破し体育館より逃げ延びた一年生はエゼル達だけではない。
彼等は遮蔽物を利用するべく校舎内に身を隠し二年生に対してゲリラ戦を行っていた。
「今年の一年も元気あるね。……けど、勝つのは私達だよ」
その様を見て不敵に笑う者が居た。
猫人ミア。
ハヤトと共に私立獣耳学園の様々な事件に関わっているトラブルメーカーの一人である。
「ミア、本当にやるの?」
そんなミアに問い掛ける犬人ケン。
「勿論、やるからには徹底的にやらなきゃ」
「後で怒られても俺は知らんぞ」
「その時はハヤトの責任だよ。好きにやれとの許可は得てるんだから」
新入生歓迎バトルロイヤルが行われる直前、ミアはハヤトより二年生の指揮を任される事となる。
ミアがどの様な人物かを知る二年生の中にこの人事に異論を唱える者などは居らず、皆がミアの指示に従う事を了承した。
同時に皆が期待する。
ミアが何を行うのか、そう、彼女の行動の過激さは毎回皆の予想の遥か上を行くのだった。
「じゃあ行くぞー、せーのっ!!」
バリィィンッ!!
ミアの掛け声と共に校舎の周囲に配置された二年生達は一斉にある機械を破壊する。
同時に
シャワァァァ!!
校舎内のスプリンクラーが一斉に作動し始めるのだった。
突如屋内に降り注がれる雨、その突然の出来事に反応出来る者は少なく、残り僅かとなっていた一年生の生き残りは更にその数を減らすのであった。
「ふふふ、建物の中が安全などと言う幻想は私がぶち壊す」
「器物破損しながら言う台詞じゃねぇな」
ちなみに学園の防犯設備は全て警察の連絡網に繋がっており、この出来事を受け警察が出動しその事後処理でハヤトが苦悩したのは言うまでもない。
「あ、危ねぇ……」
「流石にあれは回避出来なかった。エゼルの予感が当たったようだな」
校舎内に降り注がれる雨を校舎外から見ながらエオルとシロウはそんな感想を述べ
「ああ、運が良かったみたいだな」
難を逃れた事をエゼルは素直に喜んでいた。
「(いや、今のは運が良いとかそう言う問題じゃない)」
「(普通の人間には感じる事の出来ない何かを彼は感じる事が出来るのか)」
そんなエゼルを見てエオルとシロウは様々な考えを巡らせるが
「それで、これからどうする?」
エゼルが今後の行動を問い掛けて来る。
「そうだな。ローリスクハイリターンが俺の信条なんだが、こうもやられっぱなしなのはどうにも性に合わない」
「こちらの生存者は少なく残り時間は後僅かだ。敵は油断している事だろう。攻めるなら今だ」
「なら決まりだな。何て言うかこう、流れがこっちに来てる感じがするし」
どうやら皆の意見は既に揃って居る様だ。
「不思議だな。エゼルがそう言うと不可能な事でも可能になりそうだ」
「過大評価はしないでくれよ。……でもまぁ、俺達意外と結構意見が合うんだな」
「だな。まぁ、長い付き合いになりそうだし勝ち戦で終わらせようぜ」
三人はイベントの最後を締め括るべく敵本陣への奇襲作戦を決行するのだった。




